営業再開に向けた構想
「山の上ホテル」の建物は、竣工時はホテルではなかったという。
昭和12年(1937)、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計により「佐藤新興生活館」として建設されたものだ。生活環境の向上と、西洋の知識の普及を目指した同館の設立者は、佐藤慶太郎(1868〜1940)。福岡県北九州市出身の佐藤は、明治大学の前身である明治法律学校で学んだのちに故郷に戻って石炭商として財を成し、生涯多くの慈善事業に取り組んだ。
太平洋戦争後、建物はGHQに接収され「HILLTOP HOUSE」と呼ばれたことが「山の上ホテル」の名前の由来となる。接収が解除され、ホテルとして開業したのは1954年。作家をはじめ多くの文化人に愛されたが、2024年2月に休業。同年11月に明治大学がその土地と建物を取得したことが発表された。
「取得時には入札で申し込んだのですが、約90年もの間、本学と歴史を共に歩んできた建物であり、本学にゆかりのある佐藤慶太郎さんが建てたものが『山の上ホテル』という形で受け継がれているので、ホテル機能を維持しながら、大学として利用できる形を検討しています」と、明治大学経営企画部の宮森望さんは話す。宿泊サービスの運営は協力会社に委託する予定だが、大学関係者が利用しやすくする構想もあるという。
営業再開にあたっては、耐震補強や老朽化した設備の整備が課題だ。「歴史の重みがホテルの良さですし、残すべきものは残したい。作家の方が使われていた机や椅子なども、そのまま使っていきたいです」。館内に飾ってあった絵画や、作家からの手紙などの文化資料も継承していて、その扱いも検討中。
「山の上ホテル」は土地と建物だけでなく刻まれた歴史そのものが文化遺産だ。それを継承するのが教育研究機関であることは、最良の未来といえる。
明治大学で観覧無料の展示を開催中
ギャラリー展示「山の上ホテルを愛した作家たち─川端康成・三島由紀夫」
『明治大学中央図書館』1階ギャラリーで、2025年10月30日(木)まで開催中。ホテルと親交が深かった2人を取り上げ、大学が所蔵する「日本近代文学文庫」から初版本や直筆署名本などを展示。図書館の開館時間内に観覧可。
5月30日、6月30日、8月10~16日・24~25日、9月30日休。
問い合わせ:明治大学中央図書館☎03-3296-4250
企画展「明治大学と山の上ホテル─文化の薫りの継承」
リバティータワー23階の『岸本辰雄記念ホール』で、2025年10月27日(月)まで開催中。ホテルの歴史と、佐藤慶太郎の業績をパネルや映像で紹介。明治大学とのかかわりが、分かりやすく展示されている。観覧時間は『明治大学博物館』および『明治大学阿久悠記念館』の開館時間に準ずる。
問い合わせ:博物館事務室☎03-3296-4448
取材・文=屋敷直子 撮影=山出高士 写真提供=明治大学史資料センター
『散歩の達人』2025年5月号より