ラーメン店への熱い思いを持った2人が辿り着いた“ネオノス系”
店名は、くだものの「みかん」ではなく、「味を貫きたい」という気持ちを込めてつけた。漢字で書くとしたら「味貫」だ。
店を運営する店主の一箭俊充(いちやとしみつ)さんと店長の山本義隆(やまもとよしたか)さんは、巣鴨にある人気店『まるえ中華そば』の同僚として出会い、一緒に店を開くことになった。
一箭さんは和食のキャリアを積んでいたが、ラーメンへの思いが強くなり『まるえ中華そば』へ。山本さんは有名ラーメン店で修業し、一度は独立するも体調を崩して店を人に譲った経験を持つ。それだけに、2人のラーメン店経営に対する思いは強い。
「2人とも昔ながらの中華料理屋さんが出すような、王道の中華そばを作りたいと思っていました。でもそれだけでは勝負できないと、これまでに身につけた技術を生かしてできたのが、『麺や みかん』の中華そばです」と山本さん。その言葉には自信がにじむ。
『麺や みかん』の中華そばは、近年の増えてきた“ネオノス(ネオ・ノスタルジック)系”にカテゴライズされる。昭和中期の懐かしいラーメンを、現代的にアレンジしたものを指すネオノス系。『麺や みかん』は、最初からこの系統を狙っていたわけではないが、受け入れられる味を試行錯誤した結果、辿り着いたというわけだ。
旨味を重ねたスープにシンプルな麺と、2種類のチャーシュー
店長の山本さんがおすすめする一杯は、MIXチャーシューだ。『麺や みかん』では2種類のチャーシューを用意していて、MIXチャーシューはその両方が食べられる。
スープは、豚のゲンコツや鶏のガラを強火で炊いて、途中から煮干し、昆布、サバ節などを加えてじっくりと味と香りを引き出している。どの素材も産地を特定することはなく、手に入りやすいものを使用することも特徴だ。スープを作る作業は朝7時から。途中でガラなどの掃除もして15時ごろまで火にかけたあと、火から下ろして翌日まで寝かせている。
「炊き上がりのスープは味がすっきりしています。寝かせることでコクが出て、旨味が強く感じられるようになる方法を選びました」と山本さん。
しっかりした旨味のスープに合わせるのは自家製麺。ツルツルとした中細麺で、こちらも手に入りやすい小麦粉を使っている。「スープを引き立たせる麺を作りたくて、有名な製麺所の方に教わりました。主張は控えめながら、小麦の香りが感じられるようにしています」とのこと。
力を入れている2種類のチャーシューは、バラ肉を巻いてスープと一緒に煮た王道の巻きバラチャーシューと、窯の中に吊るした豚の腕肉を炭火で焼いて、さらに燻製させたという技巧的な炭火つるし焼きチャーシュー。
香り高いスープは旨味も醤油の味わいもしっかり。煮干し由来の程よい苦味がますます味に奥行きを出している。細めの麺は舌触りがよく、最後のひと口までほぼ食感が保たれているのがゆっくり食べる派にもありがたい。
巻きバラチャーシューは、箸でつまむとほぐれてしまいそうなほど脂身が柔らかくなっていて、味もしっかり染みた王道のスタイル。腕肉を使う炭火つるし焼きチャーシューは、食べ応えのある厚み。口に入れた瞬間に感じる香ばしさには驚かされる。
令和なアイデアいろいろ。地域に愛される中華そばの店
カウンターには、卓上調味料が6種類。そのうち、2つの壺に入っているのは、自家製の酢昆布と食べる辣油。それぞれスタッフさんが考案したもので、中華そばの味変にも、サイドメニューに頼みたいご飯のお供にもぴったり。しっかり味のスープに酢昆布を加えるとさっぱりするし、食べる辣油は辛さよりも香ばしさが際立つ。どちらもスープに使った素材をアップサイクルしているというから、センスを感じる。
店の場所に中目黒を選んだのはなじみがあったことと、中目黒で懐かしい味わいの中華そばが食べたいという声を聞いていたから。「地域から愛されるのがいちばんです」と話す山本さんは、接客も自然な距離感を重要視していて、居心地のいい雰囲気をつくっている。
そのせいか、近くにある目黒区役所や近隣のショップで働く人などを中心に、顔なじみが増えてきたそうだ。店のBGMは1990年代のJ-POPが中心。味も雰囲気も懐かしさと今っぽさ、両方が味わえる。
取材・撮影・文=野崎さおり