JR常磐線の高架下で持て余された“社会の隙間”

亀有駅からJR常磐線の高架下を綾瀬駅方面に15分ほど歩くと、剥き出しのコンクリートに似つかわしくない「SKWAT」のネオンサインが突如現れる。「SKWAT」は、空き家や空き地のような、適切に使用されず持て余された“社会の隙間”を占拠し、能動的にアクションを起こして価値転換を起こすことを目的とした「DAIKEI MILLS」のプロジェクト。2020年から2023年7月までは青山に本拠地を構えていたが、2023年8月に亀有に移転し、共鳴できる仲間たちを迎え入れて屋号を新たに『SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)』として2024年11月にリスタートした。

ザ・下町な亀有にこんなヒップな施設があること自体が奇妙で面白いのだが、率直に、なぜ亀有だったのだろう。『SKAC』の城さんは「カウンターではないのですが、東京の西側はもうさまざまな意味で飽和状態にあると感じています。広い土地を探すのも難しい。ですが、東側にはもっとピュアで広大な、可能性を秘めた土地があるのではと思っていたんです」と話す。「そうして見つけたのが亀有でした。僕らにとっては見知らぬ土地だからこそ、能動的にアクションを起こすことでゼロからムーブメントを作ることが可能だと感じたんです」。

当該エリアに関するJR東日本の都市開発プロジェクトを聞きつけた「SKWAT」が手を上げて、およそ1年の準備期間を経てオープンした『SKAC』は、実のところ、まだ完成を迎えていない。「空間の骨格を構築しているのは仮設的な資材である工事現場の足場。頑丈ではありますがあくまで簡易的に組まれているため、気軽に組み替えたり、増築もできる。そういった余白のようなものを意図して残すようにしています」。亀有の街に新たなムーブメントを巻き起こし、連日多くのアートラバーで盛り上がりを見せる『SKAC』は、未完成のまま、変化を続けていく。

倉庫にひしめく約6万冊のアート本『twelvebooks』

国外のアートブックを専門に扱うディストリビューター。日本各地の小売店への卸しを基本としており、ここはあくまで倉庫の一般開放という立て付け。どうりで圧巻の在庫量なわけだ。倉庫というよりは、むしろ図書館のようにも思えてくる。もちろん誰でも気軽に訪問ができ、すべて購入も可能。延べ6万冊のなかから、あなたはどんな一冊を選ぶ?

11~19時、月・火休。

共感覚でフラットに音楽を楽しむ『VDS』

2018年に東京に拠点を開設。2021年にロンドンに1号店をオープン。国内での実店舗は『SKAC』が初となる。代表兼バイヤーの関塚さんが買い付けたレコードは、ジャズやロックなどの分類で棚を分けるのではなく、色や五大要素を想起させる“共感覚”を用いたジャンル分けがユニーク。「この方が音楽をフラットに楽しめる気がするんです」。

11~19時、月・火休。

自由で風通しが良くてナイスな空間『TAWKS』

国内外で修業を積んだバリスタの清水さんがオーナーを務めるコーヒースタンド。「トークスという名前からも分かる通り、隣り合わせた人と自然と会話が生まれるような、ナイスな空間作りを意識しています」。アートブックとレコード探しの小休止スペースだなんて思うなかれ。アートな空間とコーヒーがこれでもかと感性を刺激する。

8時30分~18時(土・日・祝は11時~)、月・火休。

アートが点在する多目的なスペース『PARK』

「SKWAT」が主催するアートスペース。写真で展示中の「TOKYO ART BOOK FAIR 2024」の会場サインは、用途を全うしたのちに解体、再構築され、まったく別の作品に生まれ変わっている。広々とした空間には「DAIKEI MILLS」が検証に使用したマテリアルサンプルやモックアップが配置されており、カフェ席として利用が可能。

8時30分~18時(土・日・祝は11時~)、月・火休。

建築と芸術で場の価値を転換させる『DAIKEI MILLS』

2011年創業の設計事務所。オフィススペースの設計も手掛けており、特徴となるのは多種多様な素材使いで、空間の特性を最大限に引き出すプリミティブかつユニークなアプローチ。代表を務める中村圭佑さんは「SKWAT」の中心メンバーにあたる。

取材・文=重竹伸之 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年3月号より