加賀谷奏子
「鉄塔ファン」として、13年ほど前から鉄塔をたどり、写真を撮影。鉄塔の魅力を一般の方にも伝えるために、漫画やイラストを盛り込んだ冊子を作ったり、日常使いできるグッズを制作。本業はイラストレーター・デザイナー。『電気新聞』にてコラムを連載中。
鉄塔好きの原点は小学生時代の通学路
「家のすぐ近くに鉄塔があったので、小学校や中学生の頃は鉄塔の前を通りながら通学していたんです。毎日見るうちに次第に鉄塔が好きになっていって。高校生になってデジカメを持つと、鉄塔の写真を撮るようになりました」
「その後進学した美術大学では、鉄塔をテーマにした作品を作りました。
ちょうど工場やダム、ジャンクションなど、土木的な巨大建造物をテーマにした写真集がたくさん出ていた時期で。お世話になっていた先生がそうした分野に造詣が深い方だったこともあり、鉄塔にさらにのめり込んでいきましたね。
電力会社や工場などにも取材に行って、イラストや写真とともに、鉄塔のことを1冊にまとめました」
圧倒的なスケール感とバリエーション豊かな姿形
加賀谷さんいわく、鉄塔の魅力はそのスケール感だという。
「鉄塔を見ていると、人の力が及ばない、圧倒的な強さを見せつけられる気がするんです。
小学生の男の子が『ヘラクレスオオカブトがかっこいい』というのと一緒ですね(笑)。
鉄塔は全て同じ形をしていると思われがちですが、一つ一つ見ていくと、大きさや形が違うんです。設計する会社や設計者によって特徴が異なりますし、例えば住宅地や公園であればスタイリッシュに、川の近くであればコンクリートの土台で嵩(かさ)上げするなど、設置される地域によっても姿形が変わります。
バリエーションの豊富さも、鉄塔の魅力です」
見上げると万華鏡のような景色「結界写真」の世界
鉄塔の楽しみ方の一つが、鉄塔の真下から見上げて写真を撮る「結界写真」だ。
「『結界』は、銀林みのるさんの『鉄塔武蔵野線』という小説に登場する言葉です。主人公の少年が、鉄塔の4本の足に囲まれたスペースのことを『結界』と呼んで、その中にビールの蓋で作ったメダルを埋めながら鉄塔をたどっていくという、冒険物語です。
この作品が鉄塔の愛好者たちにも刺さり、結界から見上げて撮った写真を『結界写真』と呼ぶようになりました」
通常、鉄塔の下に入ることはできない。しかし、公園や河原、道の上など、まれに下に潜れる鉄塔がある。結界写真を撮れるのは、そうしたレアな鉄塔でもある。
「普段は入れないところに入れる、という特別感があるのがいいですよね。見上げると頭上に万華鏡のような模様が広がるのが、さらに面白い。
鉄塔は一つ一つ設計が違います。高い鉄塔であれば中央の模様は細かくなるなど、高さや色によって、どんな結界写真が撮れるかが違ってくるんです」
隣り合っている鉄塔でも、設計が違えば頭上に広がる模様も変化する。外から見ただけでは想像できない景色が広がるのもまた楽しい。
初心者は公園の鉄塔から。結界写真道・入門編
これから結界写真を撮ってみたいというビギナーに向けて、おすすめの方法を伺ってみた。
「初心者は、公園や河原といった、車の通らない場所に立っている鉄塔がおすすめです。
東京近郊だと、埼玉の見沼自然公園には、下に入れる鉄塔が2基あります。荒川の河川敷にある鹿浜線も、下が芝生広場になっています。ピクニックをしたり、寝転んだりしながら、ぜひ頭上の風景をゆっくり楽しんでみてください。
「写真を撮影する時は、ポジション取りが重要です。私は両手を伸ばしながら結界の対角線が交わる部分を探して、できるだけ中心から真上を見上げて撮影しています」
少し慣れてきたら、歩道の上に立つ鉄塔にトライしてみましょう。庄和線や志茂町線は、歩道の上に鉄塔が立っています。住宅地の場合、見上げると洗濯物が視界に入ることも。生活感のある風景とのギャップが面白いですよ」
交通ルールを守って、楽しい「結界写真」ライフを!
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべて加賀谷奏子さん提供