空気がヒンヤリとし始める秋。「うそ寒」「肌寒」ぴったりなことばは?
夏の蒸し暑い空気は南へと去り、大陸からヒンヤリとした空気がやってくると、私たちの体感温度もぐっと下がります。秋は日ごとの気温差が大きく、朝晩は空気の冷たさにびくっと驚かされることもありますよね。「朝寒」や「夜寒」は秋の季語にもなっています。
まだ本格的には寒くないものの、冷気が肌に触れる時には「肌寒い」という表現がよく使われます。ある秋の日、長引く残暑で衣替えが遅れていたため、半袖で外に出たところ、ヒヤッとした空気に肌がキュッと引き締まった覚えがあります。
寒さを表すことばには、「うそ寒」というものもあります。「うそ」は「薄」を意味しており、「うすら寒さ」を感じる時季の言葉です。広辞苑によると、秋になって初めて覚える寒さという意味だそう。まだ夏の余韻に浸っていたら、うそだと思いたくなるような冷え込みに驚いたという経験のある人は多いのではないでしょうか。
ほかにも「そぞろ寒い」(何となく感じる寒さ)や「秋冷え」(秋に気温が下がり冷気を感じること)、「やや寒」(秋になって少し感じる寒さ)という表現もあります。散歩をしながら、あなたの体感にぴったりなことばを見つけてみてください。
秋はどんな天気?散歩におすすめの「秋日和」
「秋日和」とは、秋らしい晴れた天気のことです。秋は大陸から高気圧に覆われることが多くなるため、すっきりとした青空の広がる日が増えます。暑すぎず寒すぎず、さわやかな空気に包まれる日は絶好のお散歩日和です。秋の高気圧は夏の高気圧と違って、大陸から乾いた空気を運ぶため心地良い体感をもたらしてくれます。
この気持ちの良さが「秋渇き」を連れてくるのかもしれません。
「秋渇き」とは、食欲の秋のことです。「乾燥する」という意味ではなく、飢え渇くように勢いよく食べ物を求めたくなるほど、食欲が旺盛になることをいいます。秋はついつい食べ過ぎてしまうこともありますが、摂りすぎたカロリーは散歩で消費するようにしましょう。もうしばらく先になりますが、青空の下で鮮やかな紅葉を愛でるのも楽しみですよね。
とはいえ「女心(男心)と秋の空」ということばもあることをお忘れなく。秋の高気圧は移動性の高気圧です。夏の太平洋高気圧や冬のシベリア高気圧のように居座るものではなく、足早に過ぎ去って、雨を降らせる低気圧と入れ替わります。秋日和でも天気予報はこまめにチェックしておきましょう。
「豆名月」「星月夜」。秋は天体観測の季節
秋の美しい風景は昼間だけのものではありません。日が短くなるからこそ、夜の散歩を楽しむのもおすすめです。空気の澄んだ秋は、夜空を見上げて天体観測をするのに適しています。
特に10月はお月見散歩を満喫するのにぴったりです。2024年の場合、「十三夜」は10月15日にあたりますが、この日と「十五夜(中秋の名月)」と合わせて月見をすると縁起が良いとされてきました。「十五夜」の月を「芋名月」と呼ぶのに対し、「十三夜」の月は「豆名月」や「栗名月」として親しまれています。
「十三夜に曇りなし」という言い伝えがあるように、この時期は安定して晴れることが多くなってくる頃です。9月に比べると秋雨や台風の影響を受けにくくなるため、十三夜は絶好のお月見チャンスとなることが増えるのです。
さらに、今年は10月17日に「スーパームーン」を迎えます。スーパームーンということばには、はっきりとした定義はありませんが、月と地球との距離が近くなるため、一年の中で最も大きく見える満月のことをいいます。いつもより迫力のある大きな月を愛でるため、帰り道に夜空を見上げてみてください。
また、新月の頃に輝く星の美しさを称えた「星月夜(ほしづくよ・ほしづきよ)」ということばもあります。ゴッホの絵画のタイトルとしても有名ですよね。真っ暗な夜空の中、煌々(こうこう)と光る星たちの姿をゆったり歩きながら感じてみると、とても豊かな時間を過ごせます。
ゆっくりと、でも着実に秋は深まりつつあります。季節のことばを知ることで、その瞬間にしか出会えない風景をより体感しやすくなるのではないでしょうか。
日常の中でも素敵な秋の風景と出会うチャンスはたくさんあるはずです。一休みして、ちょっとそこまで秋を感じる散歩へ出かけてみませんか。
文=片山美紀 画像=片山美紀、ウェザーマップ、写真AC
参考:『空の歳時記』平沼洋司(京都書院)、『季語の科学』尾池和夫(淡交社)
国立天文台HP 「スーパームーン」ってなに?