昭和30年代をモチーフにしたレトロな雰囲気ムンムンの居酒屋
JR有楽町駅中央西口を出て、新橋方面に線路沿いを1分ほど歩いたところに1996年創業の昭和レトロな居酒屋『まんぷく食堂』を見つけた。ガード下の仄暗さのなかに趣のあるアンティークのドアがはめ込まれ、店内には昔懐かしいブリキの看板が飾られていてまるで昭和にタイムスリップしたみたい。
店頭にあったおいしそうなナポリタンの看板に促されるように店の中に入った。何を隠そう、筆者はナポリタンが大好物なのだ。
「いらっしゃいませ!」と元気よく声をかけてくれたのは、オーナーのミッシェルさん。創業者の旦那さまから2014年ごろに店を引き継いで営業しているという。
「最初は夫が好きだった“昭和30年代”をテーマにした居酒屋だったんです。外観は昭和の商店街を表現したくていろんな建物の扉を並べていたり、店内の天井の梁にわざと電線を剥き出しにして張り巡らせたり。壁に貼ってあるブリキの看板は夫のコレクションなんですよ」
昭和のブリキ看板はデザインもコピーも味わいがあって面白い。ふと天井に目をやると、透明のアクリル板の向こうに高架のコンクリートが剥き出しになっているのが見える。これは大正3年(1914)に新橋と有楽町をつなぐ高架ができた時のものだ。
「レトロな雰囲気は創業から変わらないのですが、時代に合わせてこの店も変化してきました。特にコロナ後はSNSの時代だ! と思って、FacebookやInstagramなどで店の情報を発信するようになったんですけど、そのおかげで若いお客さんも増えてきたんです」
オープン当初から有楽町で働く人たちが仕事帰りに立ち寄る店だが、現在は30〜40代くらいがコア層。大人の雰囲気がありながら、ちょっとガヤガヤしているところがいい感じだ。
毎週火曜のラジオ放送、店内の音楽イベントなど店から発信するエンタメも充実
店に着いた時から気になっていたのだが、日比谷側の入り口に『元祖ライブ配信居酒屋 まんぷく食堂』と書いてあり、なんと店の一角にスタジオを併設している。
「誰でも音声配信ができるアプリ『stand.fm』を使って、毎週火曜日の20時から店でライブ配信をしているんですよ。ラジオのパーソナリティを目指していた友達が毎週来てくれるんですけど、私もおしゃべりが好きですしリスナーさんとの交流も楽しいです。SNSを通じて友達がたくさんできました」
そして2023年の夏から始めたのは「居酒屋夏フェス」。演者はミッシェルさんの友達や有楽町の駅前にいる路上パフォーマーらだ。
「ウチは扉を全部外しちゃうと路上と同じような感じですから(笑)。それにガード下なので音はいくら出してもOKなんです。何か店で面白いことをやろうという話になったときに『夏フェス』の案が出たのがはじまりでした。会場作りから、音響、写真・動画の記録係、スタッフ用のまかない作りまで、友達がみんなボランティアで手伝ってくれたんですよ」
お客さんにはチャージをもらわない代わりに、気に入った出演者に投げ銭をするスタイルを導入した。「友達で作り上げるフェスだから文化祭みたいな感じです(笑)」と笑うミッシェルさんだ。
それにしてもミッシェルさんの交友関係の広さと行動力には目を見張るものがある。
「店を継ぐまではずっと専業主婦だったんですが、そもそもクリスマスの飾り付けやDIYなど手作りするのが好きだったんですね。もともと仕事人間じゃないから仕事のために店に来るというのではなくて、まずはこの店を自分にとっての遊び場にすればみんなも集まってくれるんじゃないかって思って。だから、いつも今度は何をやろう、何やったら楽しいかなと毎日ワクワクしながら考えてます」
いつも楽しそうなミッシェルさんの周りには自然と人が集まる。最初は小さな文化祭だが、少しずつその渦は大きくなっているのだ。
口の周りを真っ赤にして食べたい、なつかし系ナポリタン
ミッシェルさんの楽しい話は尽きないが、そろそろ店頭で見たナポリタン1100円をいただきましょう。付け合わせにポテトサラダ748円、オリジナルカクテル・あん時のチス968円をオーダー。
ちなみにメニューは枝豆や唐揚げなど居酒屋の定番ものから、ガッツリ食べられるステーキや海鮮丼なども用意されている。
タマネギやピーマンを炒め、ケチャップなどの調味料を加えたらさらによく炒めて酸味を飛ばし、ソースに甘みを出すのがポイントだ。
一方、看板メニューに合わせるドリンクは唯一無二のオリジナルだ。何よりあん時のチスという個性的なネーミングに興味をそそられる。
「これは私の友達で、ディズニーおたくYouTuberのBobby Maihamaさんが考案したメニューです」とミッシェルさん。辛口のジンジャーエールとビールのカクテルで、グラスの底にブルーベリージャムかイチゴジャム、トッピングに北海道で酪農をやっているミッシェルさんの友達から取り寄せた濃厚なアイスクリームがのる。
「ほんのり苦くて甘酸っぱいテイストだからあん時のチス(あの時のキス)なんですって。ちなみにアルコールなしだとプリティさんという商品名になります」
ビールカクテルにフルーツジャムやミルクアイスとは……これいかに。さっそくいただいてみましょう。
かわいいタコさんたちを愛でつつ、まずはナポリタンをひと口いただきます。もっちもちのスパゲティにたっぷりコクのあるトマトケチャップが絡んでいる。想像していたより2割増しくらい甘めだ。
そこへよく混ぜたあん時のチスをゴクリ。ビールの苦味がほんのりあるけど、ビリッと辛いジンジャーエールとベリーのフルーティーさ、ミルクのまろやかさがマッチして、ノンアルカクテルみたい。お酒が苦手な人も飲みやすそうだ。
ニンジン、キュウリ、タマネギが入り、食感と風味が豊かなポテトサラダはなめらかな口当たりだ。これをチビチビと舐めながらお酒を飲みたくなる!
ミッシェルさんにフェスの話を聞かせていただきながら3品すべて完食! ごちそうさまでした。
帰りに店頭にあった顔はめパネルとミッシェルさんを撮影。ミッシェルさんの笑顔を見てるとなんかイイコトある気がする。待ち受けにしようかなと考えながらルンルン気分で帰途に着いた。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢