「じぇじぇじぇ」が流行語に! 朝ドラレジェンド『あまちゃん』を振り返る

まずはそのストーリーを簡単に振り返ってみよう。

ヒロイン天野アキ(のん)は母、春子(小泉今日子)に連れられて春子の故郷、岩手の北三陸にやってくる。高校生のアキは海女としての生活を楽しみながららも、ユイ(橋本愛)の影響でアイドルに憧れるように。後に2人は「潮騒のメモリーズ」としてご当地アイドルとして成功し、スカウトされる。しかし上京直前にユイの父、功(平泉成)が倒れ、ユイを置いてアキだけが東京へ。

そして、「アメ横女学園」通称アメ女グループの「GMT47」に入ることになったアキは、アメ横でのアイドル生活をスタートさせるのだが……という話だった。

朝ドラでアイドルを描くことは初めて、そして東日本大震災もテーマ。しかも脚本は『池袋ウエストゲートパーク』、『木更津キャッツアイ』となどあらゆる世代のドラマファンを虜にしてきた宮藤官九郎ということで、『あまちゃん』は最初から注目度が高いドラマだった。しかし、“あまノミクス”と呼ばれたあまちゃんブームが起こることまでは誰が予測しただろう。ヒロイン・アキを演じたのん(当時、能年玲奈)の大ブレイク、ドラマ放送中に総集編を放送して新規ファンを続々獲得するなど様々な要因があるだろうが、普段朝ドラを見ない視聴者まで魅了したことは間違いない。アキが連発した「じぇじぇじぇ」は2013年『ユーキャン新語・流行語大賞』で大賞を受賞。まさに社会現象となった朝ドラレジェンド作だ。

アキと春子の出発点、アイドルの街として描かれたアメ横

と、『あまちゃん』を語り始めると止まらなくなってしまうが、そろそろ東京の街へでかけてみよう。ヒロイン天野アキとまず訪れるのは台東区のアメ横だ。

ここはアイドルグループ「アメ横女学園」の本拠地にして、アキ(のん)がアイドルとして成長していく街。店々が連なりつねに活気あふれる通りだが、上野駅からほど近いということにこそ大きな意味がある。実はアイドルを目指していたアキの母、春子(小泉今日子)が上京後最初に降り立った街なのだ。

『あまちゃん』はこの天野親子の夢への熱い想いを描いた作品ともいえるが、アメ横はまさにその象徴だ。1984年(昭和59年)、若き日の春子(有村架純)がアメ横センタービルの前で記念撮影していたのも印象的。アキの上京した2009年(平成21年)にはこのビルがアメ横女学園の事務所兼劇場という設定だった。期待に満ちあふれた笑顔でアキが記念撮影をした場所に改めて立つと、なるほど「東京」という街の活気が凝縮された場所であることを実感する。

写真中央がアメ横センタービル。

そして、アメ女はあからさまに現実のアイドルグループAKB48をモデルにしていたのが面白い。敏腕プロデューサー役に秋元康を意識した荒巻太一(古田新太)を持ってくるなど、クドカンらしい笑いのエッセンスも効いていた。アキが上京した2009年はAKB48にとっては5年目で、国民的人気を博す直前。14枚目のシングル『RIVER』でグループ初のオリコン1位を獲得した年で、彼女たちを中心にした“2000年代アイドル文化”が開花した瞬間だった。

そう考えるとGMT47という下部組織ではあるものの、アキがいきなり東京のアイドルの仲間入りを果たしてしまった、という事実は重たい。80年代のアイドルブームのさなかに結局アイドルになれなかった母、春子の切なさが浮き彫りになるのだ。アメ横は親子2人に課せられた運命の対比を強調する場所だった。

上野駅。地方から上京する者にとって東京の玄関であり象徴でもある。

アキたちアイドルの卵が散歩したかもしれない、ザッツ下町の谷根千

続いて足を延ばすのが、アキたちGMT47の面々が住んでいた「まごころ第2女子寮」だ。ドラマでの設定通りそのロケ地となった「大名時計博物館」は、ドラマでの設定通り台東区谷中の住宅街、アメ横から歩いて30分ほどの地にある。アイドルの卵GMTたちの下宿所はなんとも趣深い佇まいで、華やかなアイドル業界の裏側としてドラマにリアリティを与えていた。

ザッツ下町という雰囲気の商店街が並ぶ「谷根千」が本格的に観光地として注目されたのは2010年代に入ってからだから、『あまちゃん』ではまだこの街は普通の下町という印象だった。それでもアキたちは忙しいアイドル活動の合間をぬって、谷根千散歩を楽しんでいたかも。

谷根千エリアは寺社仏閣が多く、その数は60以上とも70以上ともいわれている。この町のシンボルの一つが、ヒマラヤ杉とレトロすぎる外観の『みかどパン』だ。「大名時計博物館」から徒歩で2分ほどにあるこの景色がアイドルの卵を癒やしたかどうかはわからないが、毎日が闘いの“動”の街「アメ横」、お金がないながらも共同生活を楽しむ“静”の街「谷中」、2つの街が対比的に描かれていたことは間違いない。この場所でアキや、GMT47のリーダー入間しおり(松岡茉優)やマネージャー水口琢磨(松田龍平)らが共同生活を送っていたかと思うと、改めてアイドル業界の険しさを感じさせられる。

ヒマラヤ杉と『みかどパン』。

『あまちゃん』は笑い要素が多くこれぞクドカン作品というイメージが強いが、お仕事モノであること、そしてヒロインの成長を描くビルドゥングスロマンだったという点で、朝ドラフォーマットにきっちり則った作品でもあったなあ。「まごころ第2女子寮」からさんさき坂を抜け、根津方面へと向かう道すがらそんなことを考えた。

紅白歌合戦の舞台、NHKホールで『潮騒のメモリー』に涙する

最後に訪れるのは渋谷だ。『あまちゃん』ファンからも「どうして渋谷?」といわれてしまいそうだが、この街はなんといってもNHKがある街。そう、「NHKホール」があるのだ。と、ここまでいえばピンと来る方も多いかも。

NHKホールといえば紅白歌合戦が開かれる場所で、音楽を志す人にとっては夢の場所だ。そして「あまちゃん特別編 157回 おら、紅白出るど」(「第64回NHK紅白歌合戦」内プログラム)の舞台でもある。2013年の12月31日、『あまちゃん』ファミリーがそろって出演し紅白を大いに湧かせたのだ。

ここまで触れてきた「アメ横女学園」、「GMT48」らアイドルも勢ぞろいしたが、中でも忘れがたいのが「潮騒のメモリーズ」だ。相次ぐ不幸からアイドルになる夢が叶わずときには田舎でグレる姿まで見せていたユイ(橋本愛)が、ついにアキとともにアイドルとして紅白の舞台に! これにはグッと来た人も多いはず。

NHKホールはNHK放送センターに隣接する大ホールで、もちろん紅白以外の大イベントも開催され、NHK交響楽団の本拠地でもある音楽の聖地だ。このホールの前に立つと、やはり紅白歌合戦というものの大きさを感じずにはいられない。

『あまちゃん』がスゴいのは、アイドルになりたいという夢や情熱、そして挫折の日々を見事に描いた末に、「157回」として「紅白歌合戦」という現実世界のゴールにまで持っていったということ。このステージに立った瞬間のアキやユイたちの気持ちを思うと今でも胸が熱くなってしまう。フィクションを飛び出し、リアル世界にまでムーブメントを巻き起こしたアイドルたちを思い出しながら、NHKホールの前にたたずみ思わず涙。イヤホンからは、この日何回目かわからない『潮騒のメモリー』が鳴り響いていた。

文・撮影=半澤則吉 参考文献=『NHKウィークリーステラ臨時増刊10月30日号あまちゃんメモリアルブック』(NHKサービスセンター)、東京都産業労働局ホームページ