顔や頭部に集まる「如来らしさ」

髪型から耳のサイズまで決められていた!(佐賀県小城市常福寺の薬師如来像)
髪型から耳のサイズまで決められていた!(佐賀県小城市常福寺の薬師如来像)

図像として表現しやすいからなのか、その特徴は顔や頭部に集中しています。

まずは如来の代名詞とも言えるパンチパーマのようなヘアスタイル。これは「螺髪(らほつ)」と言われる、右巻きの髪の毛で、仏の毛は全て右巻きとされており「毛上向相(もうじょうこうそう)」という特徴です。

それに通ずるのが、眉間の中央部にほくろのようにある点。

これを「白毫(びゃくごう)」といいますが、実は白毫も右巻きの毛なのです。この毛を伸ばすと2m~5mもの長さになるとされ、仏の智慧を象徴しています。

同じく智慧を象徴するのが、こんもりと盛り上がった頭頂部。これは髪型で盛り上がっているわけではなく「肉髻(にくけい)」とよばれる特徴で、頭そのものの膨らみです。

非常にシンプルですが、「頭が大きい=脳の容量が大きい」という連想からきているものと思われ、栄西や日蓮など偉いお坊さんの像も、頭部が大きく作られている例が多くあります。

また、耳が長いのも特徴の一つで、その理由は、私たちの声を漏らさず聞くためなのです。

仏の「救うぞ!」という意気込みが現れる手

人差し指と中指の間の水かきは超人的(神奈川県伊勢原市・大山寺の阿弥陀如来像)。
人差し指と中指の間の水かきは超人的(神奈川県伊勢原市・大山寺の阿弥陀如来像)。

続いて、体の部分を見ていきましょう。

仏が「少しでも多くの人を救おう」とする表現は、耳の大きさだけではありません。手をよく見てみると、指の間の水鳥の水かきのように大きく出ています。「手足縵網(しゅそくまんもう)」といって、「漏らさず救う」という意思が表現されています。

また、「長指(ちょうし)」として、指が長いのも三十二相のひとつです。

そんな手に通じる肩は「肩円満相(けんえんまんそう)」といって、丸みを帯びた形をしています。

立像ではみられないが涅槃像などで見られる足の裏(福岡県篠栗町・南蔵院の釈迦涅槃像)。
立像ではみられないが涅槃像などで見られる足の裏(福岡県篠栗町・南蔵院の釈迦涅槃像)。

次に、足に目を向けてみましょう。立っている像でわかりやすいのは「足趺高満相(そくふこうまんそう)」で、足の甲が大きく盛り上がっています。

逆に、立っていると見えませんが、涅槃像などで注目していただきたいのが、足の裏。

まず、つちふまずがない扁平足(「足下安平立相(そくげあんぴょうりゅうそう)」)で、地面と足の裏の隙間には髪の毛一本さえも入る隙がないとされます。

さらにその足の裏には、輪の描かれた模様が。これを「足下二輪相(そくげにりんそう)」といい、お釈迦さまが説法で各地を歩き回り、その教えの輪が広がったことを表現しています。

本来は金色と青のコントラスト

全身が金色に光る神々しさ(福岡市博多区の聖福寺、左から阿弥陀如来、釈迦如来、弥勒如来像)。
全身が金色に光る神々しさ(福岡市博多区の聖福寺、左から阿弥陀如来、釈迦如来、弥勒如来像)。

仏像を長い年月が経って彩色が落ちて、木の色が露わになっているものも多くありますが、本来は「金色相(こんじきそう)」といって、全身が金色だとされています。

仏像の後ろにある「光背(こうはい)」は放たれる光の表現(福岡県久留米市・安国寺の釈迦如来坐像)。
仏像の後ろにある「光背(こうはい)」は放たれる光の表現(福岡県久留米市・安国寺の釈迦如来坐像)。

さらに、その金色の体からは四方に光を放っているとされ、これが「丈光相(じょうこうそう)」という特徴です。

仏像の後ろに、後光が差すような意匠がつけられているものを見かけたことがあるでしょう。「光背(こうはい)」と呼ばれる部分で、光を放っていることを表現しているのです。

見えないところまで決められている

閉じられた口の中にも無数の特徴が(奈良県奈良市・喜光寺の阿弥陀如来像)。
閉じられた口の中にも無数の特徴が(奈良県奈良市・喜光寺の阿弥陀如来像)。

その特徴は目に見えない部分まで及びます。まず、通常の人間であれば32本であるはずの歯が40本あるという「四十歯相(しじゅうしそう)」に、その歯の大きさがどれも同じで整然と並んでいるという「歯斉相(しさいそう)」

さらに、40本以外に牙のような歯を有しているという「牙白相(げびゃくそう)」など、仏像や仏画では見えない歯だけでも細かく特徴が決められています。

口の中はの特徴はさらに続き「大舌相(だいぜつそう)」といって、読んで字のごとく下が巨大で、ベローっと舌を出すとその先は髪の生え際まで届くほど。

そしてその舌は、何を食べても最上級のおいしさを味わえる「味中得上味相(みちゅうとくじょうみそう)」だとされていて、もはやここまでくると、救いにはあまり関係なさそうなレベルです。

ここまで規定されていてそれぞれに個性があるのが面白い!(愛知県名古屋市・栄国寺の阿弥陀如来像)
ここまで規定されていてそれぞれに個性があるのが面白い!(愛知県名古屋市・栄国寺の阿弥陀如来像)

その他の特徴は次の通り。一気に行きます。

「足跟広平相(そくげんこうびょうそう)」=足のかかとが広くたいら。
「手足柔軟相(しゅそくにゅうなんそう)」=手足が柔らかい。
「伊泥延腨相(いでいえんせんそう)」=ふくらはぎが丸く膨らんでいる。
「正立手摩膝相(しょうりゅうしゅましっそう)」=立った際に、両手が膝に届くほど長い。
「馬陰蔵相(めおんぞうそう)」=馬のように男根が体内に隠されている。
「身広長等相(しんこうじょうとうそう)」=身長と手を広げた長さが同じ。
「孔一毛生相(いちいちくいちもうしょうそう)」=すべての毛穴から毛が生え、麗しい香りを発している。
「細薄皮相(さいはくひそう)」=肌が滑らかで、埃や垢一つつかない。
「七処隆満相(しちしょりゅうまんそう)」=掌と足の裏、肩とうなじの肉が円満。
「両腋下隆満相(りょうやくげりゅうまんそう)」=脇の下にも肉が付いていて、凹みがない。
「上身如獅子相(じょうしんにょししそう)」=上半身が獅子のように威厳がある。
「大直身相(だいじきしんそう)」=比類なき体の大きさ。
「肩円満相(けんえんまんそう)」=両肩が丸く豊かである。
「獅子頬相(ししきょうそう)」=頬が膨らみ獅子のよう。
「梵声相(ぼんじょうそう)」=清らかで美しく、遠くまで届く声。
「真青眼相(しんしょうげんそう)」=青い目をしている。
「牛眼睫相(ぎゅうごんしょうそう)」=睫(まつげ)が長く整っていている。

なんとなく見ていた仏像も、それぞれが決まり事や意味があって作られていると思うと、より深く楽しめます。三十二相を知って、改めてお寺にお出かけしてみてくださいね!

写真・文=Mr.tsubaking