季節の食材をふんだんに使った和食ベースの創作料理とこだわりの酒
「西武百貨店」や宇田川交番、「ハンズ」が並ぶ井の頭通り沿いを歩いていると、文字で埋め尽くされている看板を発見。階段を降りて、店に入ってみた。
扉を開けて中に入ると迎えてくれたのは、店長の高野正樹さん。靴を脱いで高野さんが案内してくれた席についた。
白い壁には一面に酒瓶が並べられ、黄色いライトでおしゃれに演出されている。さまざまな酒瓶がズラリと並んだ様子は圧巻だ。カウンター越しに見える厨房では、数人の職人さんがそれぞれの持ち場で調理をしている様子がうかがえる。
「この店は、和食の名店に勤務した経験をもつ料理人が作る創作料理をカジュアルに楽しめる居酒屋です。旬の魚介類や京都から取り寄せた野菜類を中心に、季節を感じられる料理とこだわりの酒を提供しています」と語る高野さん。
和食なので魚介が中心。刺し身の盛り合わせはその時季にいちばんおいしいものが揃う。「刺し身の種類は毎日変わります。魚によってはカルパッチョにしてみたりとか。春だったらキンメダイの塩焼きや西京焼きなんかもおいしいですね」。
キンメは煮ても焼いても絶品ですよね。料理だけでなく、壁一面に飾られた日本酒の酒瓶の数を見ても、いろいろなものがいただけそうだなと筆者は小鼻を膨らませた。
レアものも揃うこだわりの酒とラインアップ豊富なお茶
とはいえ、ビール党の筆者はそれほど日本酒に詳しくなく、メニューを見ても知っている酒は圧倒的に少ない。
「置いている酒は大きく分けると限定もの、定番もの、季節ものです。あとは番外編で、甘い日本酒もあるんですよ。白く濁っていてカルピスとかマスカットっぽい味わいのものがあったり。しかも低アルコールなので、日本酒初心者には飲みやすいと人気です」
種類が多すぎて自分では選べそうにない。すると高野さんが「ご自分のお好きな味わいとか、お料理とのペアリングで選ぶのもいいと思います。基本的にスタッフはお酒好きが多いので、なんでもお気軽にたずねてください」と声をかけてくれた。
高野さんに相談しながら選んだのは、京都・東伏見に蔵がある蒼空(そうくう)グラス1050円。限定酒だというので楽しみだ。「飲みやすくていろんな食事とも合わせやすいので、日本酒を飲み慣れてない方でも入門編として召し上がっていただくのにはいいと思います」と高野さんがニッコリ。
筆者が好感をもったのは、日本酒だけでなく日本茶にもこだわっているところだ。「本格静岡茶の蒸し煎茶、深蒸し煎茶プレミアム、抹茶入り玄米茶、上級ほうじ茶、和紅茶の5品があって、店で煮出してから冷まして提供しています。もともとは茶割り用として提供しはじめたのですが、ノンアルコールドリンクとしても注文できるので、お酒があまり飲めない方にも人気です」。
これはいい。お酒を飲んだ後、酔い覚ましにいただくお茶がおいしいとさらに満足度がUPするもんね。
毎日仕入れる京野菜をふんだんに使ったおばんざい三種盛り
酒が決まったところで次は料理だ。
「定番メニューに“おすすめ”と書かれてあるのがうちの看板メニューで、上質なウニをA4ランクの牛肉で巻いたうにく(時価)や、和牛の焼きしゃぶ1410円が特に人気です」
ほかにも“社長の塩辛”とか“ものすごいサバ”など、思わず「それ、なんですか?」と聞いてみたくなるメニューが出てきて迷っちゃう。今日は1人だし、あれもこれも頼んでも食べきれないし……。
悩んだ末に、おばんざい三種盛り935円をオーダーした。おばんざいは壁にかかっていた木札のメニューから選ばれる。おばんざいと聞けばカジュアルなものだけど、器もさることながら盛り付けも美しいのでぐっとごちそう感が増しますね。
さあさあ、まずはお酒から。華やかな香りがして、けっして辛口ではないけれどもスッキリとしているとして飲みやすい。いや、これはうっかり飲み過ぎてしまうかもしれない。
「蒼空は飲みやすいでしょう? 日本酒特有の強い香りや辛さがマイルドなので、飲み慣れていない人にも好まれています。ある意味クセが少ないからいろんなジャンルの料理にも合うんですよ」。ほほう、なるほど。高野さん、ナイスチョイスです。
そしてゴマの芳醇な香りと、やや酸味のある胡麻みそがかかった蒸し鶏・大山鶏の胡麻みそがけが酒に合う! 鶏肉がしっとりとして淡白ながら味わい深い。
シメにおすすめしたいのは土鍋炊きのごはん。「お米は月替わりで、今月は新潟産のミルキークイーンです。オーダーが入ってから精米して土鍋で炊いています。甘みが強くもっちりしていて絶品です」と高野さんは太鼓判を押す。
炊き上がりに約45分かかるので早めにオーダーすることと、2合単位の提供のためみんなでシェアすべし。乾杯からシメまで充実しまくり! 看板に偽りナシの居酒屋だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢