マイルドで優しい味の牛乳ラーメン
まずは牛乳ラーメンからご紹介。メニュー名の「牛乳」に少し抵抗を感じるけれど、スープを一口飲んでみると、まろやかなポタージュスープのような優しい味に驚いた。牛乳特有の臭みはまったく感じない。
ニンニクの風味が効いたとんこつスープに、バターの香りとチーズのコクが加わり、濃厚だけど上品な後味だ。加えて、胡椒も効いているので、あっさり味のカルボナーラのようだ。
スープは、もっちりとした太めのストレート麺によく絡み、トロトロに煮込まれたチャーシューは脂身もまろやかな甘さがある。シャキシャキのネギともやし、味の濃いほうれん草がアクセントだ。
そして麺を食べた後は、ご飯と粉チーズを入れてリゾット風にして、最後の一滴まで楽しむことができる。
この牛乳ラーメンを開発した統括本部長の上田純さんによると、ヒントを得たのは地元・藤沢にある老舗ラーメン店の牛乳ラーメン。元々の牛乳ラーメンは青森が発祥とのこと。そんな牛乳ラーメンのエッセンスをこの店の味に昇華している。
最初は新しいもの好きの女性を中心に人気が広がったが、今では男性からの人気も高い。麺のボリュームも多すぎず、飲んだ後の締めにもちょうど良いので、深夜の時間帯に注文が入ることも多いそう。
香ばしさがたまらない煮干豚骨ラーメン
もう一つの不動の人気メニューが、煮干豚骨ラーメンだ。じっくり煮込んだとろみのある豚骨スープに、粉状にした煮干しを投入。煮干しの香ばしさがたまらない、こちらもやみつきになる味だ。
家系ラーメンの醤油ダレと豚骨スープをベースに、煮干しのダシと粉を加えている。厳選された煮干しを使い、特有のえぐみをなくすため一匹一匹、丁寧に頭を落とすというこだわりよう。大量の煮干しも頭を落とすことで、香ばしさと旨味だけが残る。
麺には、そんな煮干しの粉ととろみのあるスープが絡みつき、最後の一本までおいしさが続く。
チャーシューは1.5cmほどのサイコロ状、玉ねぎも1cm角の歯応えのある厚切り。トッピングで丼の半分を占めているのは黒バラ岩海苔だ。黒バラ岩海苔とは、板のりに加工する前の摘みたての生のりのこと。焼きのりに比べて磯の風味が濃い深みのある味が特徴で、この店では最高級A1クラスのものを使っている。
素材には特にこだわり、化学調味料を使用していない。ライスもあえて無料では提供せずに(半ライス100円)、有料でおいしい銘柄米を使用する徹底ぶり。
牛乳ラーメンも煮干豚骨ラーメンも1カ月間のみの限定商品だったが、常連客に好評で「やめたらもう来ない」とまで言われたため続けることになった。2015年からレギュラーメニューに加わったベストセラーだ。
蒲田は羽田空港が近いため、出張帰りに寄る客も多いそうだ。コロナ禍で移動が制限されていた時期は「宅配で送ってほしい」との熱い要望もあったという。それも1食や2食ではなく、会社の社員食堂で出したいからと1300食近くの注文が入り、全て冷凍で送ったとというエピソードも。そんな根強いラーメンファンに救われてきたのだ。
人気ラーメンの仕掛け人は、中華料理の料理人出身!
ここまでお話を聞いてきた上田純さん。肩書きは店長でもオーナーでもなく「統括本部長」。
話を聞くと、この店を含めて系列5店舗を展開し、すべてオーナー店主に任せているのだとか。上田さん自身は元々中華料理の料理人で、ラーメン店での修業経験はない。しっかりとした中華料理のベースがあるから、ラーメンを一口食べれば舌で味を覚えていて、大体は作ることができるのだというから驚く。
創業当時に流行っていた横浜家系の豚骨ラーメンをスープから独自に開発し、ベースとなる大量の醤油ダレを厨房で作り、自ら各店舗に配達している。
系列店と言っても全て店名は違う。あえて『蒲田いっ家』ののれん分け店のようにはしていない。その理由は、店主に一国一城の主のように責任をもって運営してほしいとの思いから。
そのため、日々影になり日向になりアイデアを凝らしている。雇われ店長ではなくて、世間もお客さんも従業員も幸せになる「三方よし」の店が理想と語る。
そんな上田さんの今の夢は地元・藤沢で居酒屋をやること。「今まで出会った人たちのための酒場をやりたたいですね」と笑顔で話してくれた。
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン