自分たちが踊る場所は、自分たちで造る

空気をふるわせる虫の鳴き声。
火のはぜる音。むせかえるような緑。
山に現れた新しい舞台に、人間という生き物がいる。
日がのぼり、しだいに周囲が明らかになる。
そこは限りなく土に近い場所だ。

きゅうかくうしおの映像作品『地鎮パフォーマンス』は、画面越しでありながら「地続き」という感覚が確かにあった。

土地と深くかかわっていくクリエーション

「2020年6月 きゅうかくうしお 舞台監督 河内崇 山林を購入」。まずはこの8月14日の新作情報の解禁に、心が躍った。

南房総の山林の私有地に、メンバー自らが築いた舞台。「きゅうかくうしおプライベートスペース Yamah(ヤマー)」と命名されたこの舞台空間で、8月15日の早朝、非公開にて行われたのがこの『地鎮パフォーマンス』だ。

この作品では本来の担当領域を超え、音響・中原楽さんが監督を、映像・松澤聰さんが脚色を担当。舞台建造とあわせて、メンバーが寺社や古墳など周辺地域のフィールドリサーチを行い、衣裳や小道具も地のものを使って制作された。これらのクリエーションの様子も「Yamah Chronicle(ヤマークロニクル)」にて公開されている。

フィールドリサーチの様子

「空間と距離を取り戻すことを模索した日々を公開することで、観る者に“これからの時代の個々の在り方や人との関わり方”を問いかけ、舞台と観客の新たな関係構築を始動」する――。

『地鎮パフォーマンス』は、観客もきゅうかくうしおのメンバーだ。自分たちが踊る場所は、自分たちで造る。そしてそれを、まずは自分たちで見届ける。きゅうかくうしおはこれまでも、完成された舞台作品だけでなく、メンバー自身がさまざまな課題と向き合う模索の日々を、観客に公開してきた。

コロナ禍の作品づくりと配信の日々

メンバー全員が創作活動にフラットに関わり、コンスタントに関係性を築きながら、作品制作の過程をできる限り公開する。

2019年11月22日~12月1日に横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールで行われた「きゅうかくうしお」の公演「素晴らしい偶然をちらして」は、技術、美術、制作を担当する公演スタッフも含むメンバー9人全員がステージに上がる演出でも話題を呼んだ。その後、衣裳の藤谷香子さんが新たに加わり、現在は10人体制となっている。

きゅうかくうしおのメンバー

 外出自粛要請が出た2020年春、きゅうかくうしおはZoomやチャットを駆使したクリエーションをスタート。4月15日からは3日に1回のペースで、公式YouTubeチャンネルにてその様子をライブ配信してきた。5月31日には、その集大成となる「きゅうかくうしお AIR You Tube ライブパフォーマンス」が行われ、現在でもアーカイブで視聴可能だ。

配信では、10人全員がそれぞれの“ホーム”から参加するミーティングの様子や、3人のメンバーがランダムに登場し、映像を使ったさまざまな実験を繰り返す様子を公開。作品づくりの過程を‟観客”と共有してきた。

この「きゅうかくうしお AIR」の試みについて5月、きゅうかくうしおの制作・村松薫さんにお話を聞いた。村松さんは2019年公演「素晴らしい偶然をちらして」の前にメンバーに加わったが、公演時は妊娠中。上演中の大半の時間を舞台上で横になっているという斬新な演出にも驚かされた。

2019年公演「素晴らしい偶然をちらして」より。手前が村松さん。今回は無事に出産を経ての参加であることが第1回の配信で報告されている。
──日々変化する状況の中、ライブパフォーマンスを行う時期についてはいくつか候補があったと思います。結果的に緊急事態宣言の解除後になったことについて、皆さんで話し合われたことはありますか。
村松

状況はどんどん変わっていくだろうという話はたびたびしていました。例えば、今作のセリフの中に「東京から出てはいけない」というような話が出てくるのですが、5月31日にはその意識も変わっているかもしれない、と話しました。それもあって、今作は「メンバー10人の4〜5月の日常」を作品化することに的を絞ろうと決めました。

不自由にとことん向き合った結果の面白さ

配信の中では、たびたび、現状の問題と今後の展望が話し合われている。
4月18日「セッション1:大雨とフラフープと遅刻」では、この状況が解かれたあとについて、「今まで通り過ごしていいですよ、と言われても日常にすぐ戻れないと思う」(石橋穂乃香さん/制作助手)、「意外とみんなすんなりとなかったかのように動く人も多いんじゃないか」(森山未來さん)というやりとりが。

5月3日の「セッション6:朝焼け嘘つき散歩」では、村松さん、石橋さん、松澤さんが早朝に散歩をしながら配信。不要不急を“必要”にするための嘘や、Zoomでのコミュニケーションで「目が合わない/目をそらせない」こと、聞き手と話し手が分かれてしまうことなど、この数か月で多くの人が感じていたであろうことが話題になる。

初めて屋外をメインに配信された「セッション6」
──あらためて、今回、配信というスタイルで作品作りをすることになったきっかけを教えてください。
村松

新型コロナウイルスの影響で、舞台業界は公演だけでなく稽古で集まることもできなくなってしまいましたが、この状況下でもクリエイティブなことをし続けていきたいという思いがありました。YouTube配信にしたのは、舞台業界や音楽業界が次々に無観客上演などの映像配信に切り替えていく中で、オンラインの映像でどこまで遊べるか? に関心が高まったことと、無料配信が増える中で、オンラインでどんなことに対してならお金を払ってもらうことが可能か、という点を探ってみたかったためです。

──5月31日のライブパフォーマンスについては、無料か、有料か、その点はどのように?
村松

配信自体は無料で、生配信後もYouTube上にアーカイブし、どなたでもご覧いただけます。その上で、有料で「きゅうかくうしおAIR BOX」という名の箱を数量限定で販売しました(5月20日の発売日に完売)。この箱は、舞台装置としてメンバーが作品の中で使用します。作品に登場するものと同じ箱を手にして鑑賞すると、どんな体験になる――。この体験に1000円という価値を付加できるかが挑戦の1つの挑戦です。

 

「きゅうかくうしおAIR BOX」
──接触なく作品を作るというプロセスを通して、どのようなことを感じましたか。
村松

それも1つの挑戦でした。クリエーションも全てオンラインでZoomやチャットを駆使して行い、慣れないZoomの不自由さにメンバーみな辟易したこともありました。その不自由さにとことん向き合ってみることで、結果としてオンラインの面白さを見いだすことにもつながっています。

──村松さんご自身の感覚としてはいかがでしたか?
村松

Zoomでの会議は、慣れるまで少し時間がかかりました。オンラインばかりで議論していると、コミュニケーションが取れているようで全然本音で話せていないという時間も多く、これまで以上に明確に意見を言い合わないと、みんなが納得して進めないのだということを一度共有しました。それ以降は建設的なコミュニケーションが取れているように感じています。もともときゅうかくうしおはWebミーティングとメールをベースにやりとりをしているので、この自粛期間に限らず今後にとってもいい変化だったと思います。

「個」が「個」としてかかわるための模索

2019年公演「素晴らしい偶然をちらして」より

「きゅうかくうしお」は2010年、2017年、2019年と公演を重ねる中で、作品に携わったスタッフをメンバーとして固定する形で進化してきた。4月30日「セッション5:10 周年記念『天の声、現る』」では、辻󠄀本さん、森山さん、宣伝美術の矢野純子さんにより、その10年のヒストリーが紹介されている。

2010年公演「素晴らしい偶然をもとめて」
2017年公演「素晴らしい偶然をあつめて」。「素晴らしい偶然をかさねて」のタイトルで配信ライブストリーミングも行われた。
2019年「素晴らしい偶然をちらして」
2020年「きゅうかくうしお AIR YouTube ライブパフォーマンス」。これらのビジュアルは矢野さんによるもの。

当初は辻󠄀本さんと森山さんが中心となっていたきゅうかくうしおだが、スタッフとの垣根を取り払い、一人一人の仕事にスポットを当てる近年のクリエーションは、作品づくりを超え、「個」が「個」として集合するための模索にも思える。

このライブ配信では、Zoomという装置の特性上、画面に映っている時間や視覚的なサイズもほぼ均等だ。回を重ねるごとに、メンバー個人の主張や人となりが浮かび上がってくる様子も興味深い。それは、人と人との交流が制限されている状況下で、自然と「個」の単位での行動が多くなった日常の中にいた4~5月の観客側の意識ともどこか重なる。

「多数決」についての疑問

メンバー全員が参加した5月6日「セッション 7:多数決に賛成 VS 反対(ディベート)」が象徴的だ。この回では、「多数決」で物事を決めることに賛成か反対か、「賛成」「反対」の立場を前後半で入れ替えて、全員が両方の立場から意見を出すというスタイルで議論が行われた。

5月6日「セッション7」でのディベートの様子

これは、メンバーが増えて関係が複雑になる中で、「これから全員で何かを決めていくときに、多い人が望む意見がきゅうかくうしおにとっていい選択なのか。多数の人が選ぶことを選べばいいとは、必ずしも限らないのでは」という辻󠄀本さんの疑問を受け発展したディベートだ。

このディベートや今回の作品制作を通して、10人の関係にどのような変化があったのか。辻󠄀本さんからコメントをいただいた。

「昨年の舞台に引き続き、より一層全員体勢になりました。演者とスタッフの区別が消えてると思います。具体的に感じるところは、それぞれに意見を述べるようになりましたね。自らの意思を持って人と同じ考えではないだろうけど、まずはきゅうかくうしおに対して問題定義するようになりました。森山さんや私だけではなく。私自身、引っ張っていかなければという感覚はありましたが、いまは以前より傍観する側にまわっています」

舞台芸術にとっての「場」のこれから

4月18日「セッション1」配信で、3つの画面で身体の動きをつなげる方法を模索している中、舞台監督の河内さんが「本気でやってるとそっち行けそう」とつぶやく。その回で話題になったマルチアングルを試しながら、4月21日「セッション2:光と音と出たがりの神」で音響の中原さんが語った、映像でしかできない「無音」の可能性を実験する4月24日「セッション3:きゅうかく女子無音ダンス部」。そんなふうに映像を使った実験は少しずつ進んでいった。

ディベート後の5月9日、森山さん、松澤さん、吉枝康幸さん(照明)による「セッション 8:ZOOM クリエーショントライアル」の様子
──「セッション5」の配信で、森山さんが「場に行かなくてもやる、ということに対してどんどん違和感がなくなっていくのかな」ということをおっしゃっていましたが、生の舞台や「場」のあり方の今後について皆さんで話したことはありますか。
村松

生で体験することの価値は、より上がることになるだろうと話しました。今、舞台作品の映像配信は増えていますが、やはり自分たちが大切にしたいのは、目の前で生身の身体から発せられる情報で伝えることなのだと思います。今回の配信でも、それに近い感覚を生み出したくて、舞台装置であるBOXをお客さんの手元に届けるという方法を考えました。

生の舞台でしか得られない魅力を信じている

──ダンス、パフォーマンスの制作というお仕事をされている村松さんですが、今、舞台芸術のこれからについて考えていることはありますか。
村松

社会が舞台芸術を支える方法を問い直す動きが増えてきたらいいと思います。きちんと収支が成り立つ価格でチケットを買うという意識が高まるとか、一方で、オンラインにはオンラインの良さもあるので、需要の開拓が進んでいくことで新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあると思います。例えば、遠方で暮らす人や高齢の方向けのオンラインワークショップが増えていくとか、これはメンバーの矢野とも話したのですが「ダンス教室に行くには気がひけるけど、オンラインで誰にも見られずにできるなら踊りたい」という需要は結構あるはずだ、と(笑)。

2019年公演中のインスタライブでの配信の様子。会場の内外から作品の重要のモチーフになっている川柳のお題を募集した。
──2019年の公演時に作品の一部に取り入れていたインスタライブや、緊急事態宣言のなかの配信でのチャットもそうですが、対面に限らない観客の方々とのコミュニケーションも積極的に図っていると感じます。観客側からすると公演の前後も参加している、あるいは参加できる可能性があるという感覚で、舞台を観る体験が拡張しているような面白さがありました。
村松

インスタライブも配信も、今あるメディアを使って面白いことをやってみようという好奇心から始めました。でも、生の舞台でしか得られない魅力を信じているからこそ、オンライン上でのコミュニケーションを自由に遊べているんだろうと思います。こちらが香港にいても赤レンガ倉庫の舞台上にいても、国内外いろんなところからレスポンスが受けられるのは面白いですよね。

 

村松さんへのインタビューは、5月31日の「きゅうかくうしお AIR You Tube ライブパフォーマンス」の直前に行った。オンラインでのクリエーションの日々から、自分たちのためのリアルな「場」を造りだした、きゅうかくうしお。

ふたたび「生」の舞台に向き合える日を、私たちはどのように迎えるのだろうか。世間が日常を取り戻し、少しずつリアルな感覚を忘れていった後も、このアーカイブは多くの人が体感したコロナ禍の出来事を捉え直すきっかけになるだろう。

映像作品『地鎮パフォーマンス』

公開日時:2020年9月18日(金)19:30 (無料公開・公開終了日未定)
公開場所:YouTubeきゅうかくうしお公式チャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClvlsp_hUQo_lc5OJgOPZ-g)
出演・企画制作・観客:きゅうかくうしお
【きゅうかくうしお】
中原楽(録音/監督) 辻󠄀本知彦(踊り子/原案) 松澤聰(撮影編集/脚色)  矢野純子(宣伝美術/検証) 石橋穂乃香(ほのちゃん/写真)  河内崇(舞台監督/施工) 吉枝康幸(照明/土木) 森山未來(踊り子/開墾)  藤谷香子(衣裳/新参) 村松薫(制作/育児)

※辻󠄀本さんの「辻󠄀」は1点しんにょうですが、環境によって2点しんにょうで表示される場合があります

「Yamah Chronicle(ヤマークロニクル)」
きゅうかくうしお公式ウェブサイト内にて、クリエーションの過程を公開。後日ドキュメンタリー映像を追加公開予定。
https://kyukakuushio.com/works/works_202008_yamah/

取材・構成=渡邉 恵(編集部) 写真提供=きゅうかくうしお

※この記事は5月31日に公開したものを加筆・修正したものです