ピエール瀧
1967年、静岡県出身。1989年に、石野卓球らと電気グルーヴを結成。音楽活動の他、俳優、声優、タレント、ゲームプロデュース、映像制作などマルチに活動を行う。
近著は「ピエール瀧の23区23時 2020-2022」(産業編集センター)。
地元愛から始めた個人運営の鉄道公園
―― 今回でこの連載も1周年を迎えましたー! パチパチパチパチ。
もう1年もやってんだ? 編集部によると、読者の皆さんにも割と好評みたいでうれしいね。
―― これも読者の皆さんのおかげでございます。今回は1周年特別企画ということで、千葉県の有料の施設にやって来ました。数多くの鉄道車両が屋外に展示保存されている「ポッポの丘」です。駐車料金(バイク1台500円・車1台1000円)さえ払えば入場OKということですが、瀧さんはいらしたことあるんですか?
いや、入ったことはないんだよね。前に原付で千葉県をうろうろした時に、マップに表示されたんだよね。「なんだここ?」と思ってさ。それで一度来てみたかったんだよね。一応有料施設ってことにはなってるけど、これまで訪れた公園も駐車場代はかかってたわけだから、そういう意味ではほぼ無料だよね。しかし見どころ満載だな、ここは。どこからいったろうかな。
―― とりあえず、オーナーさんにお話を伺いましょう。こちら、ポッポの丘代表の村石愛二さんです。村石さん、本日はよろしくお願いします!
村石:よろしくお願いします。
ピエール瀧と申します。よろしくお願いします。
村石:寒いから、列車の中に入りましょうか。ここの車両は中に入れるようにしてますんで。コチラどうぞ、座ってください。
失礼します。うわ、懐かしい! 僕この寝台列車に乗ったことあります。その時は寝台が3段でしたけどね。
村石:これは、アメリカのプルマン式っていう寝台方式をとってる車両なんですよ。世界中にアメリカから輸出された寝台の有名なメーカーです。うちがこの車両を買った後、他の号車は鉄道博物館に入っていますね。
博物館に入るような激レア車両ってことですよね。村石さんは、元々鉄道ファンだったんですか?
村石:いやいや、元は全然違って。なのによくこんだけ集めたなと(笑)。2010年の8月ごろに、いすみ鉄道の社長さんが、1988年に買った車両のうちの1両が具合悪かったんで、200万円で誰か買いませんか?って募集をかけたんですよ。だけど誰でも買える値段じゃないし、置き場所とかの問題もある。もし誰も買わないと、スクラップか海外に輸出されますって言うもんだから、地元で長いこと走ってきてくれたのに車両がかわいそうじゃんって思って。うちは置く場所もあるし、じゃあ買ってやるよって。それが初めて買った車両で、今も展示しています。ただ車両って、持ってくるのに輸送費が200万円。さらに展示するには線路を引かなきゃいけないんで、それを引くのにも200万円程かかるんですよ。
貴重な車両なのに乗車体験できるありがたさ
なるほど。全部200万円で一単位なんですね(笑)。それでポッポの丘を始められたんですか?
村石:いや、その時はね、まだ畜産の仕事をメインでやっていて。そしたらその後高岡(富山県)の路面電車と、北陸鉄道の車両も持ってこようってことになったんです。車両が3台揃って、東北の震災後の2011年5月に、最初は直売所としてオープンしたんですよ。そしたら鉄道好きな人たちが見に来るようになって。車両保存会の人たちから「ここに置かせてほしい」って頼まれて置いてる車両もあります。それで肉牛を売って、そのお金で車両を買ってね。20両くらいあれば博物館っぽくなるじゃないですか。ここを房総半島の観光地にしたいなっていうビジョンはずっと持ってたので、今はもう畜産ではなくポッポの丘をメインにしてますね。
―― これまで総額でどのくらい費用がかかってるんですか?
村石:2億円くらいじゃないですか?
2億!! マジで!? いやー、すごいっすね村石さん。でもそのおかげで、こういう貴重な車両がスクラップされずにちゃんと残ってるんですもんね。
村石:今車内で流してるアナウンスも、当時のものなんですよ。土日には車掌体験とかもやれるようにしてます。じゃあ、話はこのくらいにして、車両の奥の方も見に行きましょうか。
昔の車両って、トイレの前に水飲み場ありましたよね。紙コップで飲めるヤツ。あった! 懐かしい。このさ、展示に関して大事にし過ぎてないところが最高ですね。乗っていいですよ、触っていいですよ、ってあんまりないですよね。
―― 瀧さん、寝台列車は家族旅行で乗ったんですか?
家族旅行で乗ったこともあるし、小学生の時に一人で乗ったこともある。俺、母親の実家が佐賀なの。夏休みが始まると、佐賀のお婆ちゃんの家に一人で遊びに行ってたんだよね。列車が静岡駅に着くじゃんか。そしたら母親が俺だけ乗せて……というか乗せられて(笑)。乗ってりゃ勝手に目的地に着くわけじゃん。他の大人のお客さんたちに混じって、こっちは小学生が1人。一応母親が車掌さんに「この子1人なんでお願いします」とか頼んでたらしいんだけど。
それで夜中は寝台で寝て、翌朝起きると乗り換えなしで鳥栖駅に到着だったんだよね。夕方5時ぐらいに乗って朝8時に鳥栖駅に着くと、おばさんがホームで「よく来たね」なんつって待ち構えてくれてた。で、夏の間は佐賀の農家で過ごすっていう夏休み。小学生の俺にしてみたら、大冒険なわけよ。夜中は興奮もしてるから寝られないじゃんか。だからさっきの水を何度も飲んだり、夜中の大阪駅でいろんな荷物運んでるおじさんたちを窓からぼーっと眺めてたりとか。通路にある補助席みたいなイスに座って。「大人は夜でも寝ないで働いてるんだ。すごいなあ」みたいなことを思ってた記憶がある。
村石:そろそろ他のお客さんも来たんで、これから下にある車両を動かすんだけど一緒に乗りますか? 私が運転します。
なんと! 動く車両もあるんすね! ぜひ乗らせてください!
いすみ市・ポッポの丘
いすみ鉄道上総中川駅から徒歩30分。駐車場あり。入場料500円(駐車場利用の場合は不要)。いすみ鉄道大多喜駅・国吉駅にレンタサイクルあり。
水飲み場:あり トイレ:あり
自販機:あり 灰皿:なし
構成=カルロス矢吹 撮影=横井明彦
『散歩の達人』2024年3月号より