珍樹ハンター・小山直彦さんと落ち合ったのは府中駅。話しながら歩くそこは馬場大門けやき並木という名所だ。やっぱりいちいち木は気になるのだろうか?
「気になっちゃいますね。ケヤキは樹皮が面白い模様を作りますが、はがれやすいから珍樹があってもすぐに変化しちゃうんですよねぇ……。あっ、あそこに神社がありますね。神社仏閣はおすすめです。古木、巨木が多くて変化に富んでいるから発見率は高いですよ!」と早速始まるレクチャー。やはり相当、木には目がないことがうかがえる。
以前には何回も職務質問されたことも
小山さんが提唱する「珍樹ハント」とは、樹木の幹や枝を観察し、動物や人物など何かにそっくりな模様や形を見つけ出すこと。そして記録するためにスマホやカメラで撮影する。散歩や通勤・通学の途中など、樹木のある場所ならどこでも楽しめ、老若男女誰でも簡単にできる、とても身近な自然の遊びなのだ。もともと子供の頃から樹木愛があり、物を見ては何かに見立てる一人遊びを楽しんでいたという小山さん。15年ほど前、勤めていた会社を辞めフリーランスに転向したのを機に心にゆとりが生まれると、自然と樹木に目が向くようになり見立て遊びが再燃。本格的に珍樹ハントを始め、ライフワークとなったという。
「長い望遠レンズで狙うこともあるのでバードウォッチングと間違えられることもあれば、10年ほど前には職務質問されたこともあります、何回も(笑)。アパートに隣接する木にカメラを向けていれば、まあ、怪しいでしょうね」
今は幸い、誰でも何でもスマホで撮影する時代。多少のことでは気にされないので、思う存分ハントしよう!
それにはまず、場所だ。珍樹は一体どんな所に潜んでいるのか。やはり大自然に囲まれた山や森に行くべき?
「いえ、そうとも限らなくて、街にある木のほうが見つけやすいんです。人の手が加わっている分、例えば剪定された部分が何かの目に見えたりするように、珍樹になりやすいんですよ」。街路にしろ公園にしろ、樹木の種類も豊富なので珍樹のタイプもバラエティに富んでいるし、見飽きないよさもある。
「それに、人に見られない木は変化しないんです。以前、珍樹の発見率が高いアオギリを求めてその群生地に行ったことがあるのですが、全く収穫なし。木は生き生きとしていて美しいのだけれど、街の木のほうが“顔”は見える。木は、人がいるからこそ『自分を見て!』とアピールするんです。見られればだんだんときれいになるモデルさんのようですよね」。ちなみに小山さんお気に入りのハント場所は、国営昭和記念公園、新宿御苑、浜離宮恩賜庭園、都立野川公園などだとか。
大事なことは切り取る目、見立てる心
また、樹木の種類を意識して探すのもハントの効率を上げる重要ポイント。顔のような表情が見られるのはダントツでアオギリ。木肌が滑らかで樹皮があまり荒れない樹種のほうが、面白い節や模様が際立つので珍樹が見つかりやすいのだ。逆に、おなじみのサクラやイチョウ、マツやスギなどといったゴツゴツ、ガサガサした肌の樹木は発見率が低いそう。この手の樹木は模様よりも形で勝負⁉ でも樹木の種類って正直、わからないんだよなぁ……。
「それは続けるうちに覚えていくので大丈夫。樹名板が付いていることも多いですし、わかる時は樹名と場所をメモしておくといいですよ」
ほかにもハントのコツはいくつかあるが、一番大事なことはズバリ、「切り取る目(観察力)と見立てる心(想像力)です」と小山さん。「とにかくたくさんの樹木に出合って、じっくり向き合ってください。焦るとなかなか見つからないので、心を落ち着かせて、のんびりと。そのためには、誰かとあれこれ言いながら取り組むのもいいですが、一人のほうが気を使わずマイペースにできる分、集中して探せます」。本気の珍樹ハントなら単独で黙々と遊ぶべし!
それから忘れちゃいけないのが、見つけた珍樹にタイトルを付けること。
「その場で思いつかなくても、家に帰ってゆっくりお酒でも飲みながら考えるのもまた楽しいものです」。自分が似ていると思えばそれでよし。追求した末にタイトルが付けば、そこに存在価値が生まれる。これも醍醐味だ。
珍樹ハントのコツ6つ
①3つの点を見つけよう
珍樹は正面から見た顔の形に見立てることが基本。そこで、3つの点が集まった形を顔と認識する人間特有の防衛本能「シミュラクラ現象(類像現象)」を利用しよう。木の節などから目や口となる逆三角形の3点を見つけ、アップで撮影すればたいてい顔に見える。
②見つけやすい樹種があれば、じっくり観察
街は意外と木が豊富。片っ端から観察するのもいいが、打率を上げるなら樹種を絞り込むのも手。珍樹発見率第1位はアオギリ(写真)で、枝の落ちた跡が目のような模様になることが多い。マテバシイ、ユズリハ、ヤマモモ、シラカシ、コブシ、カエデなども狙い目だ。
③寄ってダメなら、引いて見よ
木を見て森を見ずという言葉ではないけれど、細部をじっと見つめても感じるものがなかったら、ちょっと引いて遠目から木全体を観察してみよう。思わぬ発見、見え方になるはず。また、周囲の背景を一緒に撮影することでハント写真の面白みが増すことも。
④足元にもご注意
目の高さの幹や枝だけでなく、足元もお見逃しなく。根や切り株、倒木にも珍樹はちゃんと生きている。写真は切り株なのだが、なんとも人間的。両ひじを曲げて寝そべっているような、酔っ払いが起き上がろうとしているような……。想像するのが楽しい一枚だ。
⑤珍樹は顔だけにあらず
動物や人間、キャラクターの顔面ばかりを探しがちだが、物に見えたり文字に見えたり、シルエットもあったりするのが珍樹。いろいろな見立て方で臨むことが大事だ。写真はサザンカの幹に現われたクマ。色の異なった樹皮が、立ち上がった姿のシルエットに見える。
⑤あやしいと思ったら、ひとまず撮影
何かに見えそうだけどわからないと思ってもひとまず撮影! 帰宅後に画像を眺めるうちに気づくことも多い。画像を回転させてみるのもアリだ。写真はともに撮影時にはタイトルが付けられなかった珍樹だそう。写真のヤマモモは「ひょっとこ」と命名。
ライター下里が実践してみました
さあ、これで準備はOK。いざ実践!
近所を歩いてみると街の木の多さを思い知る。が、そうすぐには珍樹は見つからない。節や穴やコブはあっても、何に似てるか浮かばず、思いついても股とかおっぱいとか宇宙人とかばかりで、自分の想像力のなさが嫌になる。害虫被害なのか気持ち悪い樹皮も見続けたせいで、夢まで見てうなされた。夜空で星座を探すような気分にもなってくる。でも、心配ご無用。そんな中でも粘れば必ず一つや二つ、これは! と思える秀作と出合えるから不思議。珍樹は決して求める者を裏切らない。駆け出しの身ながらすっかり心は珍樹ハンター。下はそんな筆者のヒット珍樹たち、とくとご覧あれ!
「私にはこう見える」ということをタイトル付けで主張すべし。一度そう思ったらもうそれにしか見えなくなるのが珍樹ハントの呪縛。
オウムなど鳥のような形をした珍樹は比較的見つけやすい。ターゲットは本物ではないが、見つける行為はバードウォッチングそのもの。
取材・文・撮影(実践3枚)=下里康子
『散歩の達人』2020年6月号より
3つの中では一番の傑作。プーさんの特徴がよく出ている。マテバシイは発見率の高い樹種のひとつ。見かけたら、ぜひ観察したい。