戦禍を越えて歴史を紡ぐ老舗寿司店
目的のお店があるのは浅草寺から北に徒歩で15分ほどの場所で、かつては吉原遊廓としてにぎわった界隈。
広くない間口ながら『金太楼鮨』という看板が通りで目立っています。
こちらのお店の創業は1924年(大正13)なので、2024年で100周年という歴史深い老舗です。
最初のお店は、第二次世界大戦中の1945年(昭和20年)に東京大空襲で焼失。しかし、地元の人々の熱望と、お店の方々の情熱によって戦後に再建されています。
その後おいしさは評判を呼び、現在では東京を中心に14店舗(2024年2月現在)を展開。
今回訪れた本店のそばには、立ち食い専門のお店も構えていて、寿司好きの日本人やインバウンドの観光客の舌を、広く喜ばせ続けているお店です。
失敗から誕生した寿司ネタの元祖
そんな『金太楼鮨』にあるサイコ(最古)はネギトロ。
一口食べると、海苔の風味と酢飯の酸味がフワッと香ったあと、マグロのコクと旨味が口に広がります。
そして、ネギトロ特有のトロトロの食感に、シャキッとしたネギの口当たり。美味しいだけでなく、口の中が気持ちいいと感じられる稀有な寿司ネタです。
細巻や軍艦巻としてお寿司の定番ネタの一つになっているネギトロの歴史は、このお店から始まっているのです。
その誕生は最初の東京オリンピックが開催された1964年(昭和39)に遡ります。
ネギトロになる筋の部分は、食感が悪いために寿司ネタとしては使えない部位でした。そのため、ペースト状にするため叩いてみましたが、今度は歯ごたえまでなくなってしまい商品化を断念。
そんな時、麺類に使おうとしていたネギなどの薬味の中に、マグロの筋を落としてしまいます。
お客さんには出せないので、醤油をかけて丼に盛ったご飯に乗せてまかないにしたところ、これがお店の人々の間で大好評!
そこから、当時の会長であった間根山貞雄さんが、これを巻物にして商品にすると鶴の一声。
こうして、ネギトロ巻きが誕生したのです。
安くて美味しいが実現できるワケ
おいしさだけでなく歴史も噛み締められるネギトロ巻は、『金太楼鮨』に行くならもちろんマストです。しかし、その他のネタも絶品なので、お見逃し&お食べ逃しなく!
どのネタも、脂のノリや鮮度が抜群。注文ごとに切って提供されるので当たり前ですが回転寿司のネタとは断面のみずみずしさが別格です!
その美味しさ、実はお墨付き。すし調理師の日本一を競う「全国すし技術コンクール」で第一回から36年連続で内閣総理大臣賞・厚生大臣・賞農林水産大臣賞を獲得しています。
そんなお店に対して、なぜあえて回転寿司を引き合いに出したのかというと、目の前で職人さんが切って握って出してくれるお店でありながら、驚くほど安いからです。
筆者の注文したランチの『にぎり』は、8貫に巻物が一本と汁椀がついて900円(税込)!
安さの秘密は、仕入先と長年にわたる信頼関係の下、大量に仕入れることで値段が抑えられているからとのこと。
ひょんな失敗から奇跡のように生まれたネギトロ。こうした歴史を知って、さらにその誕生の現場で食べてみると、きっと味わいも格別になるはずです!
浅草でランチをお探しの際、またおいしいお寿司で一杯飲みたいと思った際は、浅草の繁華街から一足延ばして『金太楼鮨』を訪れてみてはいかがでしょう。
写真・文=Mr.tsubaking