マレーシア
マレー半島南部とボルネオ島北部からなる多民族国家。日本にはおよそ1万1000人が東京、埼玉、神奈川、千葉、愛知、大阪などに住むが、特定の集住地というものはなく分散している。留学生や企業の駐在員、大使館関係者、日本人の配偶者が多い。
日本とマレーシアの架け橋のような店
それならとお邪魔してみれば、落ち着いた雰囲気の店内ではヒジャブをかぶったイスラム教徒の女性たち、留学生らしき若者のグループ、それに日本人も混じり、インターナショナルな雰囲気だ。
印象的なのは、壁に飾られた写真やサインの数々。本国から来たマレーシアのエラい人たちだろうか。
「マレーシア大使館が近いので、政財界の方々がよくお越しになられるんです。先日も教育関連の大臣が留学生を連れていらして、ここでお食事を召しあがられました」
そう教えてくれたのは日本人スタッフの田中宗一さん。また店はイベントスペースとしても使われていて、マレーシア観光局と旅行会社がコラボしたイベントを開いたりもするそうだ。さらにマレーシアフェアでも熱唱したカリスマ的歌手エイミー・サーチのサインまである。
「日本でいえば、ヤザワ的なレジェンドですね」
と田中さん。セレブもやってくるのである。
それにマレーシアから修学旅行でやってくる生徒たちが来店することもあれば、これからマレーシアに留学するのだという日本人の高校生が食事に来ることもあるとかで、ここはいわば、日本とマレーシアの架け橋のような店なのだろう。
そして食材コーナーもあるのが楽しい。お店の親会社ブラヒム・フード・ジャパンはマレーシアを代表する老舗のハラル食品メーカーだ。そのブラヒム特製、オリジナルの煮込み用カレーソースなどが評判なんだとか。またマレーシアの国民的飲料ともいえる炭酸系スポーツドリンク「100PLUS(ワンハンドレッドプラス)」も日本に住むマレーシア人たちが懐かしんで買っていくそうだ。
多民族国家ならではの多彩なメニュー
厨房を仕切るシェフのムスキ・ユスフさんに、マレーシア人のお客さんに人気の料理を聞いてみると、
「やっぱりナシレマッですね」
とソウルフード的なワンプレートメニューを教えてくれた。ご飯のまわりに伝統的なおかずがずらり。主力はやっぱりレンダンだろう。鶏肉をココナッツミルクや玉ねぎ、にんにく、レモングラスなどでじっくり煮込んだもので、濃厚な味わいがご飯にとっても合う。シンプルに塩で味つけしただけの煮干しの素揚げや、唐辛子と海老味噌のうま辛ソース・サンバルも混ぜて食べると口の中に幸福が広がる。ちなみにルンダンは一品料理のほうにビーフもある。
白身魚のフィレにサンバルをたっぷり塗ったイカンバカールも現地で人気なんだとか。これまた飯が進む。さらに魚のすり身をサンバルやターメリックで味つけてバナナの葉で包んで蒸し焼きにしたオタオタも面白い。海に囲まれたマレーシアはシーフードも豊富なのだ。
そしてもう一品、これもマレーシアのどこにいっても見る鶏の串焼きサテーは自家製の甘いピーナッツソースがたまらない。
鮮烈な色合いが気になった飲み物シラップバンドンはローズシロップをベースにしているそうで、なんとも華やかな甘さ。「お祝い事のときに、よく出るんですよ」とムスキさん。
これらの料理を含めて『マレー・アジアン・キュイジーヌ』ではバラエティ豊かな食文化を楽しめる。というのも、マレーシアは多民族国家で、中華系の人々もいれば、インド系もいる。最も多数を占めるのはイスラム教徒のマレー系の人々だ。民族固有の料理もあれば、それぞれが影響しあって生まれたフュージョンのような料理もある。東南アジアでも美食の国なのだ。
基本はハラルなので、お店にはマレーシア人だけでなく日本に暮らすいろいろな国のイスラム教徒がやってくるし、海外から遊びに来たイスラム教徒の観光客が訪れることも増えているのだそうだ。
ちなみに東日本橋には、姉妹店としてマレーシア式のカフェ『マレーカンポン・コピティアム』もオープンした。こちらはココナッツと卵、パンダンリーフという独特の香りを持つハーブなどからつくられたジャムを塗ったカヤトーストが評判だ。マレーシア風の甘いコーヒー・コピと一緒に朝食とするのが現地スタイル。
コミュニティーの中心は留学生と駐在員
日本に住むマレーシア人は1万1000人ほど。東南アジアでも発展した資源国だけあって、エネルギー関係や貿易などの企業駐在員が多いのだそうだ。そのため企業が集中する東京に3000人以上が住む。
コロナ禍が明けてからは留学生が急増したそうで、およそ2700人。彼らの目標は日本での就職だ。
「マレーシア人はマルチリンガルな方が多いので、留学後は語学力を生かしてITや貿易などの分野に進んでいく人もいますね」
と田中さん。ムスキさんはもう20年ほど日本に住んでいて、日本人の妻もいるという。よく行くモスクは代々木上原の東京ジャーミイだとか。
「大塚や、御徒町のモスクに行く人もいますね。マレーシア人はモスクで寄付をする人が多いんです」
こんなさまざまなマレーシア人が集まりやすい渋谷に店を構える『マレー・アジアン・キュイジーヌ』。その食文化と同じように、今日も多彩な人々が出入りする。
『マレー・アジアン・キュイジーヌ』店舗詳細
取材・文=室橋裕和 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2024年1月号より