こだわり抜いた担々麵

さまざまな素材に工夫がこらされた担々麵。シンプルに見えて奥が深い。
さまざまな素材に工夫がこらされた担々麵。シンプルに見えて奥が深い。

『陳安』で提供される担々麵935円は、こだわり抜いた素材で作られる一品だ。
スープをすすると、最初はまろやかな味が広がるが、だんだんと辛さが口の中に染み渡ってくる。

しかし、その辛さは決して攻撃的ではなく、なにか優しいものに包まれたような、そんな味なのだ。おそらく、この辛さを包んでいるのは、ゴマの香りだろう。

「うちの担々麵が他の店と違うのは、素材へのこだわりです。ゴマは生の状態から弱火でじっくり炒め、ツーマー醬というペーストにします。こだわり抜いて作っているので、味と香りが全然違うんです」。語るのは店主の安藤さん。

手作りなのは、ゴマだけではない。担々麵の上に乗っている挽き肉も塊肉から挽いているし、担々麵の味を決めるラー油も自家製だ。また、トッピングには「江戸菜」という、小松菜と水菜を掛け合わせた貴重な野菜を使っている。江戸菜はシャキシャキとした歯応えが特徴で、担々麵のとろりとした食感とのコントラストがなんとも小気味よい。

お店で使っている野菜、江戸菜。そのままでも食べれるため、サラダとしても提供している。
お店で使っている野菜、江戸菜。そのままでも食べれるため、サラダとしても提供している。

既製品には頼らず、自分自身が良いと思う食材を徹底的に追求する。その姿勢がこの担々麵を形作っている。

遠方からの常連客も絶えない人気メニュー

『陳安』が特に活気づくのがランチタイム。

近所のサラリーマンたちがこの味を求めてやってくるのだという。ランチタイムでは、さまざまなセットを自分でカスタマイズすることができる。

今回私が注文したのは、担々麵とミニ麻婆豆腐のセット。無料でライスと杏仁豆腐も付くので、大満足のボリュームで1155円。

担々麵と同じように、麻婆豆腐も杏仁豆腐もそれぞれ材料からこだわり抜いて作っている。麻婆豆腐を作るのに欠かせない甜麺醤(てんめんじゃん)ももちろん自家製だ。

『陳安』でもっとも人気のセット。それぞれの料理にこだわりが詰まっている。
『陳安』でもっとも人気のセット。それぞれの料理にこだわりが詰まっている。

麻婆豆腐は適度な辛さでちょうど担々麵と合わせるのにちょうどよい。

杏仁豆腐も、一からすべて手作りで作っている。手作りなだけあってモチモチとした食感が際立つ。辛いものを食べた後の食後にぴったりだ。

加えてランチタイムでは、ハーフサイズの担々麵とミニ麻婆豆腐、サラダと杏仁豆腐が組み合わされたレディースセットもある。少量でさまざまな種類を食べたい人に人気だ。

店長のおすすめが書かれた看板。押しも押されぬ人気のセットだ。
店長のおすすめが書かれた看板。押しも押されぬ人気のセットだ。

「来てくれる人の多くが担々麵や麻婆豆腐を食べに来ますね。お客さんの多くが常連さんなんですよ。とてもリピート率が高い」と安藤さん。

「会社が移転した後も、わざわざ遠方から通ってくれる人もいます」

どうして、そこまでして『陳安』に食べにくるのだろうか。

「やはり、素材や作り方へのこだわりが伝わっているんじゃないかと思います」

遠くにあっても食べに行きたくなる味。『陳安』の担々麵は、ただの町中華ではない。一度食べたら忘れられない味なのだ。

『陳安』が店作りにかける思いとは

『陳安』は2004年に、この大森の地に誕生した。それ以前、安藤さんは麻布十番にある高級中華料理店で修業をしていた。

もともと品川区生まれだった安藤さんが料理の道へと進んだのは20歳のとき。たまたま働き始めたスキー場のアルバイトで料理と出合ったのだという。

「それから色々な料理店で働きました。その中で出合ったのが麻布十番の中華料理屋です。その味に魅せられ、中華料理屋として独立することになりました」

そんな運命の出合いを果たした安藤さんだが、麻布十番での経験は、現在の店作りにも活きているという。

14席のアットホームな店内。ランチタイムはここがいっぱいになるという。
14席のアットホームな店内。ランチタイムはここがいっぱいになるという。

「素材や作り方のこだわりは、高級中華の味をリーズナブルな町中華でも食べられるように、という思いが詰まっています」と安藤さんは言う。そんな安藤さんの思いを体現するように、メニューには高級中華でしか出されないようなフカヒレを使ったメニューや、鍋のメニューもある。

こだわり抜いた担々麵は、高級中華をリーズナブルに提供しようという安藤さんの思いが作った一品だったのだ。

店長の思いが詰まったこだわりの担々麵を食べに、ぜひ大森の『陳安』へ訪れてみてはいかがだろうか。

住所:東京都品川区南大井3-16-5ヴェラハイツ大森101/営業時間:11:00~14:30・17:00~22:00(第3火は11:00~14:30)/定休日:水/アクセス:京急電鉄本線大森海岸駅から徒歩5分

取材・文・撮影=谷頭和希