葛飾にバッタを見た - なぎらけんいち
青山のマンション住まいの友人との対比で、自身の住む柴又の傾いたアパートや、バッタのいる近所の情景が歌われる。貧乏暮らしの哀愁と、やけっぱちな自慢に漂う下町の男の人間味。江戸川沿いに出たとき、目の前にパッと開ける空のように、終盤で晴れやかになっていく曲調も心地いい。広い空と広い川のある下町に行きたくなる楽曲だ。
三鷹の人 - NRQ
NRQは中国の伝統的な弦楽器・二胡も取り入れたインストバンド。国にも時代にも囚われない、懐かしさも新しさも感じる浮遊感のある楽曲が心地いいのだが、この曲もインスト。歌も歌詞もないが、何度も聞くうちに「こののどか~な感じ、なんだか三鷹っぽい」と思うようになる。なお星野源がリーダーを務めたインストバンド・SAKEROCKにも『信濃町』(再発盤では『暇とあめ』に改題)という曲があったが、そちらもタイトルの由来は不明。
高田馬場で乗り換えて - スカート
澤部渡のソロプロジェクト・スカートが、マルコメ味噌のキャラクター・マルコメ君のために書き下ろした楽曲。マルコメの東京本部がある高田馬場にちなんで作られた。中央線と一定距離を開けて長く並走する西武新宿線は、バンドマンを含めて若者が多い印象の路線。「ローカル線からターミナル駅で乗り換えて、東京へ遊びに出ていた頃のワクワク感」が蘇る。
下北以上 原宿未満 French Bossa Version - 上戸彩
もともとは藤井フミヤの2006年のシングル曲で、上戸彩が2007年にカバー。やはり「友達以上恋人未満」を意識した題名らしく、「まだ行動範囲が日常生活の範囲内で、オシャレしてデートするところまでいけない、みたいな」とその由来をインタビューで答えている。上戸彩の若々しく伸びやかな歌声も相まって、中高生になって下北や原宿を歩いた気分になれる。
高円寺 - 吉田拓郎
筋肉少女帯『高円寺心中』のほか、2000年代以降も銀杏BOYZ、大森靖子、竹原ピストル、住所不定無職などなど、多くのミュージシャンが曲の題材にし続けている高円寺。1972年のこの『高円寺』は、高円寺=ミュージシャンの街というイメージを決定づけた楽曲。曲は痺れるほどカッコいいが、「電車に乗るたび違う女の子に目移りしてフラれ続けている」という歌詞のダメ人間っぷりも高円寺らしく、この街でライブを聞きたくなる。
銀座 - 古内東子
銀座を歌った数多くあるが、こちらは「恋愛の神様」「OLの教祖」とも呼ばれた古内東子の『銀座』。「白い息を笑いながら歩いた並木通り」「日曜の人混みのなか、肩を抱いて守ってくれた」「飛び乗った地下鉄の温かさ」といった感性と情景が溶け合う街の描写は、彼女ならではの素晴らしさ。人と一緒に銀座へ出かけたくなるし、筆者の胸の奥に眠るOLの血も騒ぐ(男だけど)。
新宿ストリート・ドリーム - 漢 a.k.a. GAMI
新宿を拠点に活動するヒップホップグループ・MSCのリーダーの楽曲。ストリートのタフな環境に揉まれて育ってきた彼らしく、「悪そうな大人たちが溜まってたのは健康ランド でも悪ガキたちが向かうのは京王デパート」なんて歌詞の後で、Gメンのおばさんと目が合い……という街の描写がリアル。新宿の猥雑さも含めた街の魅力が、聞けば心に蘇る。なおMSCの『心にゆとりとさわやかマナー』という曲には「新○署 戸○署 中○署 原○署 取り調べ室の壁につけてきた鼻クソ」なんてパンチラインもあり、漢さんは怖いけどお茶目なラッパーです。
甲州街道はもう夏なのさ - Lantern Parade
2005年リリースのメロウな夏のアンセム。RCサクセションの『甲州街道はもう秋なのさ』を思い出すタイトルで、トラックには大貫妙子の『薬をたくさん』がサンプリングされている。「夕べは美しい月明かりの下で 職務質問を受けたのです」「潤すために乾かしたかような僕の喉 いま額では汗と砂ぼこりが混じり合っている」といった描写が美しく、酒場からほろ酔い気分で帰る夏の日の夜を思い出す。
Only Love Hurts - 東京(じゃ)ナイトクラブ(は)
『好きな男の名前腕にコンパスの針で書いた』『ピロウトークタガログ語』など、タイトルだけでヤバさが分かる楽曲を数多く発表してきたファンクバンドの楽曲(以前のバンド名は面影ラッキーホール)。歌謡曲『東京ナイト・クラブ』をパロったタイトルで、サビでは渋谷の「ハーレム」「オルガン(Organ bar)」から、すでに閉店した原宿の「ピテカン」(ピテカントロプス・エレクトス)、芝浦の「ゴールド」、西麻布の「ピカソ」(P. Picasso)まで、クラブの名前が連呼される。今は入れないクラブに思いを馳せて。
東京っていい街だな – 左とん平
カルト的な人気を誇る『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』(1973年)のB面曲で、全編が歌ではなく語り。「今日限りキッパリ忘れるんだベイビーちゃん…」と見栄も張れば、「100万でも200万でも、そりゃ払いますよ!だから月賦にしてくれると……」と無様な謝罪もする別れ話のパートはそれ自体が可笑しいが、すべてを「東京っていい街だな……」で片付けるバーの会話のパートも最高。心に積もった鬱憤を盛り場で洗い流せる日、早く来るといいですね!
散歩気分を味わいたいときは……
鉄道が恋しいときは......
文=古澤誠一郎