『東京都美術館』は日本初の公立美術館
JR上野駅公園改札から徒歩7分。上野動物園(東園)に隣接して『東京都美術館』がある。大正15年(1926)に「東京府美術館」として開館した日本初の公立美術館で、その建設資金として北九州の石炭商・佐藤慶太郎が100万円を寄付。この金額は現在の40億円に相当する。
開館時の建物は歌舞伎座や明治生命館を手がけた建築家・岡田信一郎が設計。その後、日本のモダニズム建築の巨匠・前川國男が設計した建物に建て替えられ、1975年に竣工した。2012年には既存の躯体を残したうえでの大規模改修工事が終わり、リニューアルオープンした。
正門から向かって、左側に公募展示室を備える公募棟、右側に特別展を行う企画棟、正面にレストラン、ミュージアムショップなどが入った中央棟が立っている。
この美術館では、すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを使命としており、国内外の名作を紹介する特別展や多彩な企画展、美術団体による公募展など、年間を通してさまざまな展覧会を開催している。
『上野精養軒』のハヤシライスを気軽に味わえる
今回紹介する『cafe Art』は中央棟1階に店舗を構える。美術館が開門する朝9時30分から営業するので、待ち合わせ時刻までコーヒーを飲みながらゆっくりと過ごすのもいいだろう。店内は北側の壁がガラス張りになっていて、美術館所蔵作品の彫刻を眺めながらくつろぐこともできる。
店の運営は日本の西洋料理の草分けである『上野精養軒』が行っている。『上野精養軒』は明治5年(1872)に東京・築地で創業。同9年(1876)の上野公園開園に伴い、不忍池湖畔に支店『上野精養軒』をオープンさせた。大正12年(1923)の関東大震災で築地本店が焼失してからは、『上野精養軒』が本店の役割を果たしている。数々の名シェフを輩出しており、その中には“天皇の料理番”と知られる秋山徳蔵もいる。
そんな名店が営むカフェだけに料理やスイーツも評判がいい。軽食メニューで人気が高いのはArt特製ハヤシライスだ。ラグビーボールのような楕円形の器にご飯とカラフルなカボチャ、ズッキーニ、パプリカなどの茹で野菜を盛り付け、ハヤシソースをたっぷりとかけてある。ハヤシソースは牛肉、タマネギ、にんにく、トマトペーストなどをじっくり煮込み、ビターで奥深い味に仕上げてある。
ハヤシライスと並ぶ定番メニューのArt特製ビーフカレーは大人好みの中辛味。口に含むと最初に野菜と果実の甘みが広がり、食後に良質なスパイスの香りが鼻に抜ける。ひとくち、ひとくち食べ進むうちに、おいしさに頬が緩んでいくはずだ。
野菜たっぷりボロネーゼ スパゲティ、海老のトマトクリーム スパゲティ、ソーセージドッグ、かぼちゃと生ハムのサンドなどもある。
老舗甘味店とコラボレーションした和風パフェ
上野における西洋料理の老舗が『上野精養軒』ならば、甘味の老舗は『あんみつ みはし』だ。素材のこだわりは有名で、あんに使う小豆は北海道十勝産を使用している。
老舗の西洋料理店と老舗の甘味店がコラボレーションしたらどんなスイーツが生まれるのか……。これを実現させたのが、『東京都美術館』限定の小豆あん抹茶パフェなのだ。
「盛りだくさんで食べ応えがありますよ」と語る料理スタッフの山崎由花さんに作り方を教えてもらう。まずはパフェグラスの内側に抹茶ソースを塗り、最下層から抹茶プリン、抹茶ゼリー、『みはし』のつぶあんを重ねていく。その上にホイップクリームとわらび餅をのせて、さらにバニラアイス、コーンフレーク、抹茶アイス、こしあん、つぶあんを置き、仕上げのホイップクリームとウエハース、ミントの葉を加えれば完成だ。
老舗甘味店のつぶあんとこしあんを同時に楽しめ、抹茶とバニラのアイスも付くのだからスイーツ好きならば、ぜひ一度は試したい。多い日で休日に30個、平日でも20個ほどが売れるそうだ。スイーツではないが、東京・日本橋で江戸時代から続くお茶・海苔の名店『山本山』とコラボした、山本山の海苔を使用したおにぎり(鮭)なども提供している。
このほか、期間限定メニューが登場することもある。カフェは美術館の観覧券なしでも利用できるので、気軽に立ち寄ってみよう。
取材・文・撮影=内田 晃 構成=アド・グリーン