おばけ地蔵

「おばけ地蔵」というこのお地蔵様は、1721(享保6)年に建立されたもの。

この周辺は、かつて禅宗の名刹・総泉寺の境内地だったといわれ、その門前一帯は【週末民話研究】で数回取り上げている「浅茅ヶ原」という荒野だったそうです。

・【週末民話研究】浅茅ヶ原の鬼婆と東京指定旧跡「姥ヶ池跡碑」

おばけ地蔵の名前の由来はいくつかあり「大きな笠をかぶっていて、その笠がひとしれず向きを変えたから」といったものや「高さ3ほどの大きさであることから」といった、見たままの由来もある様子。

関東大震災の影響で二つに折れるという大被害を受けた際も丁寧に修復され、史跡として現在もこの地に佇み続けています。

フィールドワーク①台東区橋場を歩く

東京メトロの南千住駅の南口からスタート。

今回のメインテーマはおばけ地蔵ですが、その前にこのあたりにあったとされる総泉寺の跡地「橋場 総泉寺跡」も近いので見ていきましょう。

かつての総泉寺の境内地であったとされる、現在の台東区橋場へ向かいます。

南千住駅の隣には、東京貨物ターミナル駅と並んで「東京の二大貨物駅」と呼ばれる、日本貨物鉄道・東日本旅客鉄道の隅田川駅が見えます。

南千住駅前歩道橋を渡り、旧日光街道を歩きながら浅草方面へ。

旧日光街道と明治通りが交わる泪橋(なみだばし)交差点を通過し、旧日光街道を直進。

ちなみにこの交差点の名前となった泪橋は、江戸時代から明治初期にかけて南千住にあった処刑場・小塚原刑場の近くの思川(おもいがわ)にかかっていた橋の名前だそうです。

現在の思川は暗渠化され、泪橋の面影もありません。

さらに街道を進み、東浅草2丁目の交差点を隅田川方面に曲がると、昭和レトロ感漂う「アサヒ商店街」のあるアサヒ会通りに入ります。

アサヒ会通りを進むと、やがて道は総泉寺大門通に変わります。

路地に入っていくと、総泉寺の跡地「橋場 総泉寺跡」があるはずです。

と、思いきや……

総泉寺の跡地「橋場 総泉寺跡」は妙亀塚公園の中にあるはずだったのですが、公園の工事のため全体をぐるっと囲まれてしまい、立ち入ることができなくなっていました。

ちなみに、総泉寺はもともと「梅若伝説」の梅若丸の母が出家して妙亀尼になり、梅若丸を弔うために庵を結んだのが始まりだそう。

とても大きな禅寺として、江戸時代にはこの周辺の最大2万8000坪が境内地だったという説もあるようです。

1923(大正12)年の関東大震災で被災してから移転し、現在の総泉寺は東京都板橋区小豆沢にあります。

フィールドワーク②おばけ地蔵を見に行く

気を取り直して、妙亀塚公園から近くにあるおばけ地蔵を見に行ってみましょう。

歴史を感じる大きな常夜灯が目印です。

こちらがおばけ地蔵。実際に見てみると想像よりかなり大きいです。

隣の古い建物は民家かと思っていたら、松吟寺という曹洞宗の寺院だそう。

お地蔵様の正式名称は「地蔵菩薩(じぞうぼさつ)」。

もとは仏教の信仰対象ですが、日本では「お地蔵様」「お地蔵さん」と呼ばれ、民間信仰として道祖神(村の守り神として、外来の疫病や悪霊を防ぐ神)的な役割も担っています。

またお地蔵様は日本では子供の守り神とされ、お菓子などが供えられている様子もよく目にします。

説明板ではおばけ地蔵についての情報が語られています。

おばけ地蔵は関東大震災で被災して二つに折れた以外に、頭部も交換されているそう。

はるか昔から大切に修復されていることがわかりました。

見上げるとかなりの迫力。

よく観察すると真ん中あたりにひび割れのような亀裂があります。震災で折れた時の痕跡でしょうか。

おばけ地蔵の隣にある供養塔は、総泉寺の墓地の供養塔で、移転の際に建てられたものです。

常夜灯は1790(寛政2)年に総泉寺の敷地内に建てられたもの。

関東大震災で総泉寺の本堂は焼け落ちたといわれ、この常夜灯も火災に巻き込まれたそうですが、そのダメージを感じさせないほどどっしりとした佇まいでした。

総泉寺が移転した後もこの地に残り、長い年月をおばけ地蔵とともにここで過ごしてきたのだと思うと、不思議な感じがします。

おばけ地蔵を英訳すると「haunted jizo」になるんですね。

hauntedはざっくり訳すと「幽霊の出る」「取り憑かれた〜」という意味でした。

英語でおばけ地蔵の説明が書かれています。

調査を終えて

普通のサイズのお地蔵様ではなく、あえて3mくらいの大きさにしたのは何故なのか。

事前に調べたり、実際に訪れてみても、おばけ地蔵について明確なことはわからず、そのほとんどが謎に包まれたままです。

かつての総泉寺の面影がほとんどないこの地を、ミステリアスなまなざしで見つめ続けるおばけ地蔵。

「大きいから」という理由だけではない迫力がある不思議なお地蔵様を、皆さんもぜひ見に行ってみてはいかがでしょうか。

取材・文・撮影=望月柚花