水曜日。夜の帳(とばり)が降りる頃、西八王子の路地端に忽然(こつぜん)と八百屋が現れる。高尾の天狗なす、カラフルおくら、バナナピーマンなど、珍しい八王子野菜に加え、ずっしり大きな大阪『射手矢(いてや)農園』の泉州タマネギ、甘みと粘りに力のある茨城『れんこん三兄弟』のレンコンなど、ホテル御用達の旬野菜もお目見え。開店時間には待ってましたとばかり、都心から帰宅する人たちでにぎわいだす。

野菜は売り切れごめん。煮込み、スープ類も販売。
野菜は売り切れごめん。煮込み、スープ類も販売。

幼馴染コンビが野菜で始めた夜の社交場

販売するのは、クルマの販売・修理業を営む『Azzurroplus81』だ。代表の藤原正之さんは「幼馴染の廣本に、会社前のスペースを貸してくださいって言われたんです」。言い出しっぺの廣本直樹さんは、もともと青果の卸、農園レストランの仕入れを担当。各地の生産者とつながるだけでは飽き足らず「生産の現場に携わりたい」と、福島の米農家に弟子入りもした経歴の持ち主だ。一方で、各地の農園販促プロデュースも手掛け、大阪のベジナイトムーブメントに衝撃を受けた。ベジナイトとは、八百屋が閉まった夜に地元の旬野菜を生産者が届ける直売所のこと。「八王子野菜のある地元の西八王子でやりたい」と、発案者に直談判すると、八王子界隈の生産者の協力を得て実行に移した。開いてみると、まだまだ知られていない地元野菜や品種の存在、品質の良さにリピーターが続出。今では売り切れで買えない人のため、取り置きできるようにし、近隣飲食店と農園を結ぶ役目も担うまでになっている。

野菜は時期、大きさで値段変動。
野菜は時期、大きさで値段変動。
廣本さんがアンバサダーを務めるいいたて雪っ娘かぼちゃは、熟成させた甘みが格別。
廣本さんがアンバサダーを務めるいいたて雪っ娘かぼちゃは、熟成させた甘みが格別。
いいたて雪っ娘かぼちゃロール 500円。
いいたて雪っ娘かぼちゃロール 500円。

スペース貸しのつもりが、手伝う中で藤原さんも「一緒にやりたい」と発起。1年後の2018年、廣本さんとタッグを組んで再スタートし、自社農園を取得。今や八王子だけでなく山梨県にも広げ、栽培、卸、野菜レストラン運営とフル稼働だ。ベジナイトが週一なのもうなずける。

そして2023年3月、新たに仲間が加わった。富士山の湧水を引き込んだ田んぼで通年クレソンを露地栽培する『杉山ふぁ〜む』の杉山さんが2人の活動に感化され、DMでコンタクト。以来、収穫したてのクレソンを携え、ベジナイトの「準レギュラー」となっている。

『杉山ふぁ~む』の杉山祐太郎さんは都留市から毎週参戦。
『杉山ふぁ~む』の杉山祐太郎さんは都留市から毎週参戦。

ベジナイトも進化中だ。最初はコンテナ販売と簡素だったが、長机で陳列、料理の腕を生かしたワンハンドグルメ販売とグレードアップ。さらに2023年10月、自動車事業の技を本領発揮させ、自社製ソーラーキッチンカーを出動開始。野菜デリに加え、テーブルでお酒も飲める「バージョン4.0」へと変貌し、ますますホットに住民が集う場になっている。

夜の農産物直売所「西八ベジナイト」

左からシェフ&農産物担当の廣本さん、代表の藤原さん。幼馴染コンビ。
左からシェフ&農産物担当の廣本さん、代表の藤原さん。幼馴染コンビ。

JR中央線西八王子駅から徒歩4分。水曜日の17:00~22:00開催。
東京都八王子千人町3-1-7 Azzurro plus81前
☎042-673-4788

取材・文=林さゆり 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2023年11月号より

全国に店舗展開する一大書店グループ、くまざわ書店。その歴史は明治時代中期、八王子の地ではじまった。100年超にわたって引き継がれてきた書店業について、代表取締役社長の熊沢真さんに、お話をうかがった。 ※MAPのデータは2023年10月時点のものです
――毎月ピエール瀧さんと一緒に公園の魅力を探求していく「ファンキー!公園」!第2回は八王子市の秋葉台公園です。斜面を利用した、高さ15mの巨大ピラミッドがあるそうです。
週末の昼下がり、『クタ・バリ・カフェ』はインドネシア人の若者たちでにぎわう。異国の言葉のざわめきが心地よい。どの顔も楽しそうだ。