世界が注目するアツいスポット

お話を聞いたのは……日本財団経営企画広報部 山田哲子さん

 

発端は2018年。渋谷区と日本財団の共同プロジェクト「THE TOKYO TOILET」が立ち上がった。「従来の公共トイレは、“汚い”“くさい”“暗い”“怖い”といった印象を持たれていました。そういったネガティブなイメージを変えて、誰もが安心して使うことができるよう、デザイン性も重視することになったんです」と、プロジェクトマネジャーを務めた山田哲子さん。プロジェクトに賛同したクリエイターは、世界的に活躍する一流揃いだ。山田さんは当時を振り返り、「みなさん、普段手掛けている建築物とは勝手が違ったようで、中には現地に足を運び、アイデアを固めるクリエイターさんもいましたね」と語る。

2020年から随時完成、稼働し、2023年には予定していた17カ所が出揃った。十人十色のアイデアが詰め込まれた斬新なデザインに度肝を抜かれるが、使用感は超快適のひと言。特に、1日最大3回の清掃、定期的に行われる「トイレの診断」によって保たれる清潔さには、目を見張るほどだ。

また、「散歩をするなら、『クリエイターごとの解釈』を考えるのがおすすめ」と、山田さん。

「例えば、はるのおがわコミュニティパークのトイレは『透明だから、中に人がいないか分かって安心』という発想の設計ですが、東一丁目のトイレは『真っ赤で人の目を引き付けるから、防犯になり得る』という発想の設計です。安全性という要素一つでも、それぞれ違った解釈が垣間見えて、面白いですよ」。

現在、海外メディアからの問い合わせが多く、SNSにも多数の投稿が上げられるなど、反響は大きくなりつつある。また、映画監督のヴィム・ヴェンダースは「THE TOKYO TOILET」を舞台にしたアートフィルム『PERFECT DAYS(パーフェクトデイズ)』を制作(12月22日公開)。主演を務めた役所広司はカンヌ映画祭で主演男優賞に輝いた。もはや、世界が注目するアツいスポットであると言わざるを得まい! これからの渋谷を語るには欠かせない、街角のアートな公共トイレ。ぜひ、鑑賞されたし。

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【全て観たぞ! 使ったぞ! THE TOKYO TOILET 全巡回!】

まちあかりのトイレ《笹塚緑道公衆トイレ》

小林純子

高架下に浮かぶ満月のごとき大庇(おおびさし)と、錆びが風合い醸す円筒。光漏れ出す丸窓には、ちらりとウサギがのぞく。武骨さと可愛さの同居した不思議な世界に惹(ひ)かれていく。

東京都渋谷区笹塚1-29
ほっこり心和み度★★★

...With Toilet 《幡ヶ谷公衆トイレ》

マイルズ・ペニントン/東京大学DLXデザインラボ

展示場や待合所など、トイレ以外の用途も視野に入れたオープンスペースが圧巻。天井高さは実に5m。ホールのような開放感に、つい歌でも歌いたくなる。

東京都渋谷区幡ヶ谷3-37-8
ブロードウェイ気分度★★★

Hi Toilet 手をつかわないトイレ 《七号通り公園トイレ》

佐藤カズー/Disruption Lab Team

個室への入室から退出までボイスコマンドで利用できる非接触トイレ。音楽もかけてくれるものだから、居心地の良さマシマシ。立ち去るのが名残惜しくなる。

東京都渋谷区幡ヶ谷2-53-5
トイレは友達度★★★

ANDON TOILET 《西原一丁目公園トイレ》

坂倉竹之助

うっすら青みがかった外壁は曇りガラス。中から見ると、外の光を取り込み木々の絵が浮かび上がる。日が暮れればライトアップされ、行燈のごとき光に、うっとり。

東京都渋谷区西原1-29-1
心憎い演出度★★★

器・泉 《西参道公衆トイレ》

藤本壮介

滑らかなカーブを描くまばゆい白壁。陶器を想起させるそのフォルムは、テーマの「公共の水場」を表現している。洞穴のような内部もちょっと童心をくすぐる。

東京都渋谷区代々木3-27-1
フォルムにため息度★★★

Three Mushrooms 《代々木八幡公衆トイレ》

伊東豊雄

大きなキノコを模した出で立ちが、周囲の深緑になんとなじむこと! 3つのトイレが独立しているため人の行き来もスムーズで、機能性の高さにもうならされる。

東京都渋谷区代々木5-1-2
背景にベストマッチ度★★★

ザ トウメイ トウキョウ トイレット 《はるのおがわコミュニティパークトイレ》

坂 茂

「中は綺麗か」「誰か隠れていないか」を視認できるように透明な外壁。初めは戸惑うも、施錠すれば不透明に。余計に安心感を得られたのは、錯覚ではないはず。

東京都渋谷区代々木5-68-1
未知へのドキドキ度★★★

ザ トウメイ トウキョウ トイレット 《代々木深町小公園トイレ》

坂 茂

はるのおがわコミュニティパークの色違い。ゆえに、こちらを見たら、なんだかあちらも見返したくなる。スケルトン映える昼も、煌々と光る夜も、どちらも乙だ。

東京都渋谷区富ヶ谷1-54-1
未知へのワクワク度★★★

裏参道公衆トイレ

マーク・ニューソン

高速道路の高架下、まるで祠のように佇んでいるのがシブい。箕(みの)甲屋根などの日本の伝統建築がモチーフではあるが、近未来的で明るい内観のギャップも良い。

東京都渋谷区千駄ヶ谷4-28-1
存在感隠せない度★★★

THE HOUSE 《神宮前公衆トイレ》

NIGO®

三角地帯で、ひと際目を引く三角屋根。一軒家を模した造形は和風だが、白壁に青緑の枠は洋風な色合いにも見え、不思議だ。内部のシーリングファンもお洒落。

東京都渋谷区神宮前1-3-14
ちょっと住みたい度★★★

あまやどり 《神宮通公園トイレ》

安藤忠雄

ずいっと前方にせり出した庇は、日除けや雨除けなど、憩いの場として活躍。意外や内部の通路は広く、縦格子の外壁が光と風を通して、なんとも爽やかだ。

東京都渋谷区神宮前6-22-8
コントラスト絶妙度★★★

森のコミチ 《鍋島松濤公園トイレ》

隈研吾

約240枚の吉野杉のルーバーで覆われた外壁が、緑深い公園になじみまくり。小路のような通路を経て個室へ入れば、端材を使った装飾が。樹木の温かみに心安らぐ。

東京都渋谷区松濤2-10-7
木の温もり優しすぎ度★★★

TRIANGLE 《東三丁目公衆トイレ》

田村奈穂

線路沿いに突如現れる、真紅の外壁に目を奪われる。外観とは対照的に、内観は白基調に赤と銀の差し色で落ち着く。極小スペースをなぞる三角柱の設計も見事なり。

東京都渋谷区東3-27-1
赤!鮮やかすぎ度★★★

恵比寿公園トイレ

片山正通/Wonderwall®︎

無造作に配置されたかようなコンクリート壁が、迷路のようで好奇心をくすぐる。しかし、壁面は落ち着いた木目模様。有機的で優しい印象を生み出している。

東京都渋谷区恵比寿西1-19-1
奇抜なのにシック度★★★

WHITE 《恵比寿西口公衆トイレ》

佐藤可士和

白いルーバーがスリット状に取り付けられていることで外壁が透け、軽やかな印象に。風景に溶け込みながら、目を奪う洗練されたフォルムはさすがのひと言だ。

東京都渋谷区恵比寿南1-5-8
シンプルイズベスト度★★★

タコ公園のイカトイレ 《恵比寿東公園トイレ》

槇 文彦

風にたなびくカイトのような屋根が、3つのブースをつなぐ。その出で立ち、イカのごとし。中庭に植栽、外壁にベンチと、お洒落で機能性も高いところがニクイ。

東京都渋谷区恵比寿1-2-16
コンセプトが明確度★★★

Monumentum 《広尾東公園トイレ》

後 智仁

煌々と輝くパネルのライティングパターンは、世界人口と同じ79億通り。不規則にゆらめくその光は夜光虫のようだ。二度と巡り逢えぬ一瞬を、目に焼き付ける。

東京都渋谷区広尾4-2-27
ライティング美麗度★★★

 

取材・文=どてらい堂 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2023年11月号より