銀座で愛され続けてきた老舗で3代目が紡ぐラーメン
銀座駅からにぎやかな中央通りを銀座マロニエ通りに向かって進んでいくと、行列が見えてくる。『共楽』は1956年創業の老舗ラーメン店。屋台から始まり、初代・中野太一郎さんが銀座2丁目に店を構えた。1999年、89歳で初代が他界。今は3代目の和彦さんが、2代目の父・喜久雄さんと、母・きよ子さんとともに店を守っている。
「小学生の頃から店を手伝っていました。ラーメンが好きというか、昔から食べることが好きでしたね」という3代目・和彦さんは、料理人を目指して20歳から広東料理の店で修業を積んでいた。26歳の時、父の喜久雄さんから店を手伝ってほしいと話があり、和彦さんは店を継ぐことを決意した。
2016年、入居するビルの建て替えのため3年間休業することになった。「同じ頃、長く『共楽』を支えてくれた製麺所が、ご主人が高齢で廃業することになって。この機会に自分でやろうと思ったんです」と和彦さん。休業中に他のラーメン店で働いて自家製麵の技術を学び、2019年、ビルが完成したと同時に麺もワンタンの皮も自家製に切り替えて再開した。
毎朝8時から仕込みを始めて、営業後に和彦さんは麺を打つ。深夜2時までかかることもあるそうだ。営業中は2代目が厨房、3代目がホールで接客をすることもあるが、「父とはあんまりしゃべらないですね」と照れくさそうに和彦さんは言う。仕事は見て盗めという昭和の職人・2代目と、若き3代目の間を阿吽の呼吸で繋ぐように、母のきよ子さんが行き届いた接客で和やかな雰囲気を作っている。
鶏や煮干がバランスよく調和したスープに自家製麺が絡む昔懐かしい中華そば
基本のメニューは、醤油の中華そばただ一つ。そこにチャーシューやワンタン、タケノコなどのトッピングを追加したメニューが並ぶ。
ここは、皮も自家製のワンタンが必須。券売機からワンタンメンを注文しようとすると、きよ子さんが注文を聞いてさっと購入してくれるのも、昔から変わらないお客様へのやさしい気配り。
店内に広がるスープの香りが食欲をそそる。厨房では3代目が無駄のない動きで中華そばを作っていく。待っている間、客席から厨房の様子を眺めながら気持ちよく過ごせるのもこの店のよいところだろう。
目の前に運ばれたワンタンメンは、とてもやさしい顔をしている。まずはスープをレンゲで一口。鶏や煮干などがバランスよく、醤油がまろやかにまとめたスープは体の中までしみわたる。麺を啜ると、スルスルッと口の中に入っていく。海外の方も多く来られるが、やや短めのまっすぐな丸麺で、麺を啜って食べる習慣のない海外の方にも食べやすい麺だ。
お客様とともに楽しい人生を、それが『共楽』の願い
ワンタンメンなので、ワンタンが主役といってもいい。ワンタンを持ち上げてみると、先ほど包んだばかりの真っ白なワンタンの皮が、スープに染まって醤油色に!
チャーシューはしっかり肉厚で、これも味がしみて噛むほどに旨味が広がる。ワンタンもチャーシューもどちらもおいしくて、チャーシューワンタンメンで食べたくなる。
タケノコはコリッとした食感に、甘じょっぱい味わい。ワンタンやチャーシューだけでなく、タケノコも味がしみておいしい。竹の子そばというメニューがあるが、こちらも人気メニューだ。
『共楽』を継いだ当初は、プレッシャーのほうが大きかったという和彦さん。2代目の父とあまり話さないと言っていたが、母のきよ子さんづてに話を聞いたそうで、「跡を継いだことを、親父が喜んでくれたことがうれしかった」と笑顔を見せた。
『共楽』とは、経営者とお客様がともに楽しい人生を送ってほしいという切なる希望で先代がつけたと、きよ子さんが教えてくれた。「日々いろんなことがあるじゃないですか。しょぼんとしてた人も中華そばを食べて元気になって、笑顔になって帰られたらうれしい。うちの男性がおいしいものを作ってくれて、女性スタッフがお客様のオアシスとなって、お互い楽しい人生で、『がんばってね』『また来るよ』って言葉のやりとりができたらいいなっていつも思うの」。
きよ子さんのあたたかい言葉に、和彦さんも「お客様が喜んでくれて、また来てくれるのが一番」とやさしい顔をした。
落ち込んだとき、うれしいとき、食べたくなるラーメンが『共楽』にはある。銀座を訪れたら立ち寄ってほしい。心まで満たしてくれる一杯に出合えるだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代