余興の演奏はなかなかスケジュールが合わず、結局、全員で合わせたのはついさっき、会場スタッフと機材の接続を確認するついでだったが、まあ、そこそこいい感じだった。なんとかなるだろう。

コロナが流行してから挙式を控えていた友人が多くて、結婚式に出るのはかなり久しぶりだ。そもそも招待されたこと自体数えるほどしかないし、余興なんかやるのは初めてだ。正直ずっと緊張していた。祝電の中に安田の名前を聞いて少し安心する。遠方で駆けつけられませんが、心から祝福しています!

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いよいよ余興が始まる。ぼく、柳本、米沢さんが前に出ると、サークルの連中がわっと歓声をあげてくれた。改めて考えると同級生でもないし、なんだこのメンツ、と思うが、新郎新婦と仲のいい米沢さんがセッティングしてくれたのだから場違いではないと信じたい。

ギターをかき鳴らし、声を張り上げて歌う。誰もが知っているラブソング。恋愛も仕事もろくにできないダメなぼくが歌ってもいいのだろうか、という迷いは、先頭で涙ぐむ、新婦の友人らしき誰かのしぐさで消えていった。ふたりの行く末が幸せなものであるといい。それをまっすぐに願っていることだけは、この場にいる誰もが変わらないのだ。

演奏が終わり、大きな拍手が巻き起こる。席へ戻ろうとすると、サークルの後輩たちが一斉に立ち上がった。あれ、聞いていた話と違うぞ。固まっていると高砂(たかさご)から新婦がやってきてぼくのマイクを奪い取った。いつのまにか新郎も柳本の隣でギターを構えているし、米沢さんはタンバリンを他に譲ってキーボードを運んでいる。

「みんな、今日はありがとー!」

新婦がそう叫ぶと同時にはじまったのは、サークルのライブでは定番だった曲だ。もう何年も弾いていないけれど、指が覚えている。ぼくは慌てて弾き始める。新婦は熱唱している。そういえば藤崎さん――もう大和田さんになるのか――はめちゃくちゃ歌がうまいんだった。じゃなくて、いや、お前も結局歌うのかよ。

米沢さんのほうを見ると楽しくてたまらないというように笑いながらキーボードを奏でていた。そういえば、機材確認のタイミング、ちょっと違和感があったんだった。あのさあ、ぼくにサプライズしてどうするんだよ。まあ、弾くけど。柳本も知らされていなかったようだが、見事に適応してアレンジまで入れて弾いている。忘れてたけど、こいつも結構めちゃくちゃなやつだったな。楽器を持っていないメンバーは手拍子しながら好き勝手に踊り、歌っている。

そうこうするうちに新婦がぼくにマイクを向けてくる。デュエットするなら旦那じゃないのか、親族はどう思ってるんだ、ひとりくらい気難しいおじいちゃんとかいるだろ、おい大丈夫か、と思いつつ声を張り上げる。もうめちゃくちゃだ。でも楽しいから、まあ、いいか。

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式が終わったあと、帰りが一緒になった米沢さん……紗凪ちゃんにびっくりしました? と話しかけられる。

「俺たちにサプライズしてどうするんだよ」

ころころ笑う彼女を見て、出会ったころを思い出す。明るいようでいて、母親の死を引きずって、どこか影があった。いまはもう折り合いがついたのだろうか。

「いい式だったな」

「そうですね」

「札幌でもがんばれそうだよ」

「よかった。林さん、なんかこの前元気なさそうだったから」

気づかれていたことにどきっとして、うまく返事ができなかった。

「無理はよくないですよ。テキトーそうでへらへらしてるのが先輩の魅力なんだから」

「それ褒めてないだろ」

「ばれました?」

といいつつ、こんな自分でもいいのかもしれない、と慰められた。ま、テキトーにやっていくか。そんなふうに思い切れたのは、まだ耳元に残っているこのメロディのおかげかもしれない。

文=貝塚円花
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。