濃厚スープが超人気のラーメン店

丸ノ内線銀座駅から数寄屋橋交差点の出口を出て晴海通りを横断すると、正面には東急プラザ銀座。お隣の数寄屋橋公園との間、数寄屋通りと名付けられた通りを1~2分ほど進み、大通り沿いとは異なる小さな事務所ビルや飲食店が立ち並ぶ一角に『銀座 朧月』がある。

「若いころから料理を作るのが大好きで」という店主の柳沼英次さんは20代のころから和食料理店やラーメン店で働きながら料理を学び、さまざまな店の食べ歩きを続けていた。

間口数メートルの小さなお店だが、毎日のようにお客さんの行列ができる。
間口数メートルの小さなお店だが、毎日のようにお客さんの行列ができる。

つけ麺との出会いは、30代。当時、池袋の大勝軒を中心とした大きなつけ麺ブームが起こっていた。「独立して店を出すなら、やはり和食を出す居酒屋か」と悩んでいた柳沼さんだったが、さまざまなおいしいつけ麺を食べ感動。「これを自分でもやってみたい」とつけ麺屋開業を決めた。

今、多くの人々を魅了する『朧月』の独特の濃厚魚介豚骨スープの味は、自分の舌だけで研究を重ね生み出したものだ。「つけ麺の世界で“魚介豚骨スープ”といったら、またそれ! と言われるくらいおなじみの素材なんです。そんな中でどことも違うスープを作り出したかった」と柳沼さん。

厨房に立つ店主の柳沼英次さん。
厨房に立つ店主の柳沼英次さん。

ここ銀座にお店を出すことになったのは、もともと銀座には和食店で働いていた頃になじみがあり自然の流れであったとのこと。偶然、自分の条件に合うよい物件があり、それほど迷わずここに決めた。

「銀座なんてすごいですね、と言われるんですが、お店を開いた2010年はこの辺は店もあまりなく、暗い路地のような場所でしたよ。今でこそこの通りもたくさんのラーメン屋さんができて結構にぎわっていますが。そんな暗い路地に黄色い明りを灯らせたようなお店だったので『朧月』と名付けました」と柳沼さんは当時の様子を語る。

店主が独自に作り上げたどこにもない濃厚スープ

さて、いよいよ実食の時間。注文したのはチャーシューや味玉がトッピングされた特製つけめん1200円。同じ値段で並(200g)、大(300g)を選ぶことができる。

カウンターのみのため、すべての席が目の前で調理する姿を間近に見られる特等席。自分の注文が刻々と出来上がっていく姿を眺められるのも大きな楽しみ。特にトッピングのチャーシューがハンディーバーナーであぶられている姿は見事かつ食欲を刺激。海外からのお客さんはここぞとばかりに写真撮影をするそう。

特製つけ麺用のチャーシューは、最後にバーナーで仕上げられる。
特製つけ麺用のチャーシューは、最後にバーナーで仕上げられる。

いよいよ待望の特製つけ麺到着。まるで特殊効果でキラキラ加工されたように、麺と半熟の味付け卵が輝いている。そしてかたわらには先ほどあぶり仕上げが施された分厚いチャーシューが横たわり「おいでおいで」とこちらを誘う。

特製つけ麺1200円。写真の麺の量は並(200g)。
特製つけ麺1200円。写真の麺の量は並(200g)。

スープは、その濃厚さを見た目で主張しながら、水面に具材の一部を見せつつ、静かに麺の投入を待ち受けている。

「スープが先に出来上がり、これに合う麺をいろいろ試して、最後にこの麺に行きつきました」との柳沼さん。箸で持ち上げた麺は太くて重く、箸先からもっちりした感じが伝わってくる。

もちもち麺が輝き、焼き色の付けられたチャーシューが食欲をそそる。
もちもち麺が輝き、焼き色の付けられたチャーシューが食欲をそそる。

スープに投入し、いただくと、まず感じるのは麺の強い腰。その直後にスープの味が口中に広がる。なるほど濃厚。しかしこれほど心地よい濃厚さというのは初めて。まったくもたれる感じがせず、濃厚なのにごくごく飲めるような矛盾した感覚。やさしく、奥深く、ほんの少しさわやかな酸味も感じるような。うまい。

半熟味玉でうっとりした後、スター具材のチャーシューへ。香ばしさを感じさせながらほろっと口の中で崩れていく感じがとても愛おしい。

バーナーで香ばしく仕上げられたチャーシュー。
バーナーで香ばしく仕上げられたチャーシュー。

実はスープの中にもメンマや細かく刻まれたチャーシューなどが仕込まれており、こちらも大きな楽しみ。麺と深く絡み合って、さっぱり、もっちりの麺をさらに引き立てる。

濃厚なのに、まったくもたれる感じがせず、いつまでも楽しみたい味わいのスープ。
濃厚なのに、まったくもたれる感じがせず、いつまでも楽しみたい味わいのスープ。

それにしてもこのスープの不思議さ。魚介豚骨スープというもっともポピュラーな素材を使って、まったく経験したことのない濃厚かつさわやかな味。この微妙なバランスを作り出せるのが柳沼さんの舌の感覚ということなのだろう。

開店以来出し続ける中華そばもぜひ

『朧月』では約7割の客が濃厚つけ麺か特製つけ麺を注文するんだとか。ただ開店当初より提供し続けている中華そば880円にもたくさんのファンが存在し、もっぱら中華そばだけを食べにくるお客さんもいらっしゃるそう。

人気のつけ麺、中華そばのほかにも季節ごとに店主発案のメニューが加わる。
人気のつけ麺、中華そばのほかにも季節ごとに店主発案のメニューが加わる。

また、つけ麺の持ち帰りもできる。「コロナ渦に持ち帰りのサービスも始めて、今も続けています。ただ持ち帰りの場合、スープは温めればそのままの味ですが、やはり麺の方は味が落ちてしまいます。生麺で持ち帰っていただく形がおすすめですね」と柳沼さん。麺を家で茹で、スープを温めれば、お店の味が家でも楽しめる仕組みだ。

実は笑顔が素敵な柳沼さん。確認はカウンター席でぜひ。
実は笑顔が素敵な柳沼さん。確認はカウンター席でぜひ。

「今度、食べ歩きで感激した北海道の味噌ラーメンをお店で出してみたいと思っています」と柳沼さん。超人気店を営業しながらも、まだ旺盛な探求心をお持ちの柳沼さんのお言葉が印象的だった。本当においしかったです。ごちそうさまでした。

住所:東京都中央区銀座6-3-5 第一高橋ビル1F/営業時間:11:15〜15:30・17:30〜21:00(金・土は11:15〜15:30・17:30〜22:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄銀座駅より徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠