阿佐谷パールセンターを象徴するおでん種専門店、『蒲重蒲鉾店』

JR中央線の阿佐ケ谷駅の目の前にある阿佐谷パールセンター商店街は、700メートルほどの距離に約240軒の店舗が立ち並ぶ活気にあふれた商店街だ。

昭和29年(1954)から開催されている阿佐谷七夕まつりは新型コロナウイルスの影響によって中止していたが、2023年は4年ぶりに開催される。コロナ禍でも商店街はにぎわっていたが、やはり地域を代表するお祭りが開催しないのは寂しいものである。再開による地元の人々の喜びはひとしおだろう。

『蒲重蒲鉾店』は昭和11年(1936)に創業した阿佐谷パールセンターを象徴するおでん種専門店だ。現在は三代目となる太田泰司さんが中心となってお店を切り盛りしている。

どのお客さんにも優しく丁寧に接し、地元の人々を見かけたら挨拶を交わす。その気さくな接客の一方で、蒲鉾づくりに対しては厳しい眼差しを向けて取り組んでおり、職人の矜持が感じられる。『蒲重蒲鉾店』のおでん種は魚のすり身に対してのこだわりが深く、都内でも数少なくなったはんぺんや魚のすじを手づくりする希少なお店でもある。

今回紹介する店頭で調理したおでんはお店の右側にある。通年販売しているが、寒い季節はふたつの鍋、暑い時期はひとつの鍋で調理される。

基本となるおでん種を揃えつつ、時間や日によって少しずつ種類は変化する。どんなおでん種があるかを確かめるなら、ぜひ『蒲重蒲鉾店』のInstagram(kamaju_offcial)をチェックしてほしい。

汁は鰹節と昆布で出汁をとったスタンダードなものだが、ここに揚げ蒲鉾や牛すじ、ロールキャベツなどの種から出たうまみが溶け合う。家庭で再現するにはなかなか難しい、おでん種専門店ならではの味を楽しめる。

継ぎ足しはしないというが、その理由はおでんと一緒に汁をたっぷり入れて提供するためだ。閉店時間までに汁が残ることはほとんどないという。

『蒲重蒲鉾店』では店頭で調理されたできたてのおでんのほかに、自宅調理用のおでん種とおでん以外のお惣菜を販売している。

おでん種の種類は非常に豊富で、ミニトマトやゴーヤなどその季節にしか味わえない限定の種も販売している。また、はんぺんや魚のすじ、サメの煮凝りも手づくりしている。

揚げ蒲鉾は個別に購入できるが、セット販売もしている。オーブントースターで温めてから生姜醤油などをつけて食べると最高のおつまみになる。暑い時期は冷やしうどんやそうめんに乗せてもいい。

自宅調理用のおでん種については「蒲重蒲鉾店のおでん種」や「夏の蒲重蒲鉾店のおでん種」の記事をご覧いただきたい。

お総菜もバラエティ豊かだ。イワシの竜田揚、なすのはさみ揚、イカのから揚など名前だけでも魅力的で、どれにしようか迷ってしまう。

基本的には通年同じ商品を揃えているが、時期によって販売されるお総菜もある。なかでもイワシの骨せんべいはレアなので、見つけ次第購入することをおすすめする。

お総菜については「蒲重蒲鉾店のお惣菜」という記事をご覧いただきたい。

暑い季節はところ天も販売している。国産の天草を原料としており、天突きを使ってその場で押し出してくれる。Instagramではアレンジレシピも公開しているので、ぜひ覗いてみてほしい。

『蒲重蒲鉾店』のできたておでん

『蒲重蒲鉾店』では9種類のできたておでんを購入し、早速味わってみることにした。今回紹介する以外にも名物のカレーボールや深川揚など魅力的なおでん種が揃っているので、ぜひ店舗まで足を運んでいただきたい。

時計回りに12時から、大根、いわし玉、白滝、玉子、牛すじ(和牛)、焼きちくわ、もやし揚、ロールキャベツ(中央左)、プチトマト(中央右)。

購入するとたっぷりのおでん汁とともにポリ袋に入れてくれる。輪ゴムでしっかり縛ってくれるので、こぼれる心配は少ない。

1時間程度の移動時間なら温かいままだが、念のため鍋に移して温め直そう。おでん種の中心まで90℃、1分半程度火を通せば安心だ。

大根は中まで飴色に透き通り、おでん汁がしっかり染みている。口に含んだときに汁がじゅわっとあふれ出て、幸福感に包まれる。

玉子もしっかり煮てあるが、ぷるんとした食感を維持している。まろやかな黄身の味わいが、優しい味わいの汁をさらに柔らかくしてくれる。

プチトマトは夏期限定の揚げ蒲鉾だ。ミニトマトが魚のすり身に包まれている。トマトの甘酸っぱさとうまみのあるすり身の相性は抜群で、どちらもおいしさを引き立てている。夏バテにもぴったりのおでん種だ。

もやし揚はもやしに人参、黒ゴマが入った揚げ蒲鉾だ。しゃきしゃきとした歯触りの心地よさと人参の優しい甘さ、黒ゴマの香ばしさが見事に融合している。

いわし玉はイワシをふんだんに使っており、最高の風味に仕上がっている。おでんだけでなく鍋や味噌汁などにもしても出汁がしっかり取れそうだ。

ロールキャベツは挽肉とキャベツの厚みがしっかりしていて食べ応え抜群だ。おでん汁とともに肉のうまみがぎっしり詰まっており、満足感が凄まじい。

焼きちくわはうまみをしっかりと閉じ込めており、ぎゅっと詰まった食感を楽しむと同時にそのうまみをじっくりと味わえる。

牛すじは脂の甘みが素晴らしく、満足度の高いおでん種のひとつ。部位によって異なる食感が楽しめ、一度食べたら病みつきになるのは間違いない。

白滝はおでん汁をたっぷりと抱き込んで、噛むごとにうまみが口いっぱいに広がる。脇役的な存在ながら、なくてはならない存在だ。

『蒲重蒲鉾店』は常に阿佐谷の街や人々のことを思いやり、85年以上の間営業を続けてきた。その思いはおでんの味にも反映されているようで、口に運ぶごとにじんわりと優しい味が広がっていく。店主の太田泰司さんは4年ぶりに開催される阿佐谷七夕まつりの準備に忙しいが、愛する地域の人々の笑顔が見られるのを心待ちにしているからだろう。これからも愛情がこもったおでんやおでん種をたくさんの人々へ届けてほしい。

『蒲重蒲鉾店』の基本情報

『蒲重蒲鉾店』
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-47-10
03-3311-3543
定休日:水曜
営業時間:9:00~19:30

取材・文・撮影=東京おでんだね