立派に生きているあなたも、地獄行きは確定です

「私は極楽に行ける」と思っている方もいるかもしれませんが、残念ながら私たちは全員、地獄行きが確定しています。

仏教の犯してはいけないことの中に「不殺生戒(=生き物を殺してはいけない)」というものがあります。

どんなに立派に生きている人でも、生きている限り何かを食べます。ビーガンの方でも植物の命や、大地のエネルギーを摂取しているので、私たちは全員、地獄行きなのです。

日本人の地獄観をつくった一冊の書物

地獄と極楽の様子が具体的に書かれた『往生要集』。
地獄と極楽の様子が具体的に書かれた『往生要集』。

しかし、地獄に行きたい人なんていません。そこで、平安時代の源信というお坊さんが、地獄に落ちずに極楽に行く方法を『往生要集』に書いています。

いわば「Go to HEAVEN(極楽)のハウツー本」ですね。

ここでは、地獄の恐さを強烈に描くことで「こんなところに行きたくないよね?だから極楽往生しようね!」というメッセージになっています。

現代日本人の中にある地獄観は、この書物からきているとされるため、こちらを元に地獄の様子をご紹介していきます。

もっともライトな地獄の罰とは?

獄卒と言われる地獄の鬼が人々を苦しめる。
獄卒と言われる地獄の鬼が人々を苦しめる。

地獄には八つの段階があり、その中でも一番ライトな苦しみで済むのが「等活地獄」。

ここに落ちたものは皆、鉄の爪が生えてきて、目に写る人全てが憎く見えてきます。

つまり、そこら中でつかみ合いの喧嘩となり、鉄の爪によってお互いの肉が削がれ鮮血が飛び散るのです。そして骨だけになると、獄卒(地獄の鬼)がやって来て骨さえ粉々に砕きます。

さらに、粉々になってもまた肉体は再生をして同じ争いを1兆6千億年もの間、続ける地獄です。

この地獄に落ちるのは、生前に「殺生罪」を犯した者。命あるものを殺してしまうと、この罪に当たるので、動物や植物を食べて暮らす私たち全員が、少なくとも等活地獄行きは確定しているのです。

一番ライトな地獄でこの苦しみ。あとが思いやられますね。

殺生罪に加えて盗みを働くと、2番目の「黒縄地獄(こくじょうじごく)」に落ちます。

こちらは、等活地獄の苦しみが10倍で期間が8倍になる場所とされています。

あの有名人も落ちる?衆合地獄

木の上には地獄に似つかわしくない美女が。
木の上には地獄に似つかわしくない美女が。

有名人の不倫がテレビやインターネットを騒がせていますが、ここまでの悪事に加えて不貞行為も加わると3番目に辛い「衆合地獄(しゅうごうじごく)」に落ちることになります。

ここには木が生えていて、樹上には美女が。

その美女が地獄に落ちた者を「ここまで来て私を抱いてください」と誘います。

その誘いに負けて木に登ると、木の葉はカミソリでできていて、体じゅうがズタズタに切り裂かれます。

そうして木の上までたどり着くのですが、その時には美女はなぜか木の下にいるので、再び美女を求めてカミソリに切り裂かれながら木を降りる。

これが永遠に繰り返される世界です。

さらに衆合地獄には、石山が二つあり、その山に挟まれて押しつぶされるという苦しみのオマケ(になってない)付き。

あの有名人も、死後はここに行くのでしょうか?

お酒が好きな人は覚悟!叫喚地獄

こんな地獄には絶対に落ちたくない!
こんな地獄には絶対に落ちたくない!

これまでの悪事に加え、飲酒をすると4番目の「叫喚地獄(きょうかんじごく)」へ。

週7飲酒の筆者は、少なくともこちら行きでしょう。

ここでは、釜茹でにされたり熱々の鉄板のような地面で焼かれたりする、いわゆる「地獄」のイメージそのもの。

さらに、どろどろに溶けた熱い金属を口から流し込まれて、体内を焼き尽くされるという責め苦も。

これに加え、生前に嘘をついた人は5番目の地獄「大叫喚地獄」行き。

焼けた針で舌を貫かれ、さらに舌を引っこ抜かれます。その苦しみは一度ばかりではなく、抜いた舌はなんども生えて来てその度に同じ責め苦を受けるのです。

「叫喚より大叫喚の方が、楽そうじゃね?」と感じますが、もはや責め苦のインフレがものすごいことになっているのです。

アニメ『ドラゴンボールZ』で、後半に向けて登場キャラの戦闘力がインフレした感じにも似ていますね。

気軽なリツイートで落ちる地獄?

全てを焼き尽くす炎が充満する世界。
全てを焼き尽くす炎が充満する世界。

6番目は「焦熱地獄(しょうねつじごく)」。

これまでの罪に加え、ありもしない噂を広め人を傷つけた者の世界です。

誰かのツイートを根拠も調べずにリツイートしてしまうなどが該当するかもしれませんね。

火で焼かれる地獄ですが、地獄の業火は普通の炎より何倍も熱く、その熱さは、これまでの地獄の苦しみが涼しい氷の世界に感じられるほどだとか。

より恐ろしい地獄に落ちる人々は、仏教を足蹴にする存在です。

7番目の「大焦熱地獄」に落ちるのは、ここまでの罪に加え、戒律を守っている比丘尼(びくに:女性の僧侶)を誘惑した人で、苦しみは焦熱地獄の10倍。

すでに苦しみのバリエーションは出尽くしている感もあります。

そのため、この辺りに来ると「◯◯の◯倍」という表現になってくるのが、地獄のくせにどこか少年っぽくて愛らしいですね。

最も恐ろしい無間地獄とは?

地獄のクライマックスはここ。
地獄のクライマックスはここ。

すでに苦しみのインフレが頭打ちしている感もありますが、最も恐ろしいのが「無間地獄(むげんじごく)」。

これまでの罪に、親を殺したり仏教を批判したりする罪が加わった、悪事のロイヤルストレートフラッシュを達成した人が行き着く場所です。

ここではもはや、外からの罰だけではありません。この地獄に落ちただけで体の節々から火炎が吹き出し、自分で自分を焼き尽くすのです。

そして、この地獄に落ちた人の寿命は8万劫(こう)です。劫とは時間の長さで、1劫が43億2000万年になるので、8万劫は34兆年。

もはや苦しいかどうかさえイメージがつかない途方もない数字です。

地獄を逃れた人が暮らす極楽の景色

仏が見守る穏やかで美しい極楽。
仏が見守る穏やかで美しい極楽。

『往生要集』は極楽に行くための手引書です。仏を一心に念じ、念仏の行を修めれば極楽に行けるとされています。

極楽は、空を舞う美しい鳥、清らかな水を湛えた池、宝石の実がなる木々、空からは鮮やかな花の雨といった、ストレスも苦痛も一切ない世界として描かれます。

地獄行きが確定している私たち、今回の記事で予習していただき覚悟の上で人生を楽しく過ごしていきましょう。

また、今回写真を提供してくださった『伊豆極楽苑』は、これらの地獄めぐりが可能な施設です。伊豆旅行の際に立ち寄ってみてはいかがでしょう。

文=Mr.tsubaking、写真提供=伊豆極楽苑