アトリエの階下にあるカレー店
彼女が自分のアトリエとして部屋を借りることにしたのは1年前のことだ
今回行きつけとして教えてくれたカレー屋『chamame』は、彼女が構えたアトリエの階下にある店。というかカレー屋が先にあり、2階のスペースを彼女が間借りすることになったのだそう。西武新宿線・都立家政駅から徒歩2分の立地。
入ったそばから落ち着く空間。席数が少ないのも、店内に散りばめられた雑貨も、店の方の距離感も、すべてが安心させてくれる。こういう店ってなかなか出会えないんだよなあ。
3種選べるカレー、付け合わせもやさしい
ランチではカレーを最大3種まで選ぶことができる。megumiさんのお気に入りは「梅バターチキン」。えーっ聞いたことないカレー!
さっそく届いたプレートがこちら。食欲をそそる香りとたっぷりの副菜がうれしい。
彼女が「今回教えたくて、お店にリクエストした」と話す梅バターチキンカレー。味見させてもらうと、名前こそなじみはないが「知らないのに知っている」ような味で、そのあり方はこの店そのもののようだ。
そしてそれはカレーだけでなく、付け合わせの豆スープ「ダル」など色とりどりの副菜にも言える。
はじめて訪れ、はじめて食べる、知らない調味料がたくさん使われた料理なのに、まるでもとから身体が知っているかのように抵抗なく入ってゆくやさしい味わい。アジア料理には刺激的な印象をもっていたので、これには正直かなり驚いた。
3日ほどを目安にカレーやデザートのラインアップは変わる。お店のInstagramでも告知されているので、気になる方はぜひフォローを。
カレーと同志に“モチベ”をもらう
クライアントワークは家で、自主制作はアトリエで作業するというmegumiさんは、アトリエが『chamame』の2階ということが制作のモチベーションになっているという。
「制作期間に入ると週1回は食べに来るかな。ここのカレーのファンだから、食べたいときに食べられることとか、階段をのぼるときのカレーの匂いにもモチベをもらえる。あとは勝手に同志みたいな気持ちもあって……」
2021年5月に開店した『chamame』は、大村夫妻がふたりで営んでいる。
megumiさんにとってご主人の大村さんは高校の後輩にあたる。卒業後も、彼がカレー屋を始める前から一緒にカレーを食べに行ったり、彼女が個展をひらけば顔を出したりと親しい関係がつづいた。
そのような10年以上のつながりが、同じ場所でカレー屋とアトリエを構えさせた。あまりにも自然な流れに思えるが、東京で場所を借りて商売することの厳しさは言うまでもない。
彼女が会社員を辞めイラストレーターとして独立したタイミングと『chamame』開業の時期が近く、それもコロナ禍だった。「お互いに、コロナ禍だけどやっていくぞ! みたいな感じで励みになった」と話す。
大村夫妻とmegumiさんを見ていると、放つ空気がどこか似ている。まさに「類は友を呼ぶ」というやつなのだと思った。どんなときにもがんばろうと言いあいながら、それぞれの挑戦が続いてきたのだろう。
実家の狭山茶を活かし「カレー×お茶」の店へ
ところでInstagramに「カレーとお茶の店」とあったのが気になって聞いてみると、妻・舞衣さんの実家は狭山茶の農家・製茶所とのこと。
「カレー好き=コーヒー好きだったりするから、お茶ってどうかなあと思ったんですけど、せっかくだから使いたくて。でも今は逆にここでお茶にハマって、私の実家にわざわざ買いに行ってくれるお客さんもいるんです」
「ここ、じつは夜も最高なの」とmegumiさんは言う。
お茶以外のドリンクメニューも豊富で、クラフトビールからスパイス系までさまざまなお酒やソフトドリンクが楽しめるのだ。
夏季限定の「チャイシェイク」をいただくと、茶葉の香りがとっても濃いのに後味がさっぱりとしておいしい。夜はこれにラムなどのお酒を入れて飲むのが人気とのことで、想像しただけでたまらない!
取材当日は今年最高レベルの暑さだったのだが、カレーもチャイもやはり暑い国のものだけあって、ぐったりした身体に効く気がする。このあとまた街へ出ていくための元気をもらった。
周年イラストを描きつづけたい
カレーの店をはじめる前から親交の深かったmegumiさんと大村夫妻。開業時の『chamame』のロゴも彼女が手がけた。
「めぐさんがロゴを描いてくれるってなったときに、好きなものとか動物とかをいろいろ伝えてお願いしたら、ゾウが選ばれたんです」と大村さん。
なんと……店内にゾウの雑貨があふれていると思っていたが、そのコンセプトにまで彼女が関わっていたとは!
ゾウは「ガネーシャ」と呼ばれるヒンドゥー教の商売繁盛の神様でもあり、ちょうどいいね、ということになったそう。
先日2周年を迎えた『chamame』。そのアニバーサリーイラストもmegumiさんが手がけている。ゾウとして描かれた大村夫妻が作るカレーを、彼女の作品のメインキャラクターである犬の「アイツ」が食べている絵だ。
そこに描かれたような関係性が、これからも自然なかたちでつづいていく。場所を構えて商売をつづけていく困難はそれぞれにあるけれども、『chamame』のふたりとmegumiさんのつながりが途絶えることはきっとないのだろう。
最後に2階のアトリエも見せてもらうと、大きな作品から小物類まできれいに展示され、制作現場というよりお店みたいだ。
「そのうちギャラリーとして一般の方も来られるようにするつもり」と、megumiさんは次の計画に目を輝かせていた。※megumi yamazakiさんの作品やグッズ、展示情報などは、Instagramでご覧いただけます。
外に出ると、今年の夏はもうとっくにはじまっていた。夏にはカレーと冷たいお茶が心強い味方だ。
じつはmegumiさんとは長年の友人でもあるのだが、改めて彼女の努力を惜しまない姿勢とそれを支える人間関係をうかがい知ることができた。
「来年もまた周年イラスト描きたいな」という言葉が、彼女の行きつけ『chamame』への思いをのせ、カレーの匂いと一緒にやさしく香ってくる帰り道だった。
取材・文・撮影=サトーカンナ