最盛期は1970年代。防犯対策と装飾を兼ねた鉄窓花
台湾の街を歩いていると、古い民家や集合住宅の窓辺に隙間なく、様々なデザインの格子がはめ込まれているのを見かけることがある。
防犯を目的とした鉄製の飾り格子を、台湾では「鉄窓花」(てっそうか)と言う。日本で言う「面格子」と近い存在だが、特に鉄窓花は、多種多様な美しいデザインが特長だ。
tamazoさんは台湾で鉄窓花の写真を撮影し、リトルプレスや写真集、展示、イベントなどで、その魅力を発信している。
「もともと団地などの建物が好きで、台湾に旅行した際も集合住宅を鑑賞していました。台湾で集合住宅を見ていると、必ずベランダを隙間なく鉄格子が囲んでいる様子が目に止まり、日本では見かけない風景だったので気になったんです。
台湾渡航の情報集めで手に取った『もっと!台湾のたびしおり』(ayaco著、ワニブックス)で、裏表紙に鉄窓花の写真が切り抜かれて掲載されていて『これだ!』と。
その後出版された『台湾レトロ建築案内』(老屋顔著、エクスナレッジ)の日本語版で、鉄窓花の歴史や現状を知りました」
2012年の初渡航以来、20回近く台湾を訪れ、特にここ数年は鉄窓花鑑賞をメインの目的に何度も台湾へ足を運んでいるというtamazoさん。
コロナ禍でなかなか台湾渡航が叶わなかった2021年には、これまで撮り溜めた鉄窓花の写真を、コラムとともにリトルプレス『台湾鉄窓花蒐集帖』としてまとめた。
台湾の町並みを特徴づける要素の一つである鉄窓花。台湾独自のものかと思いきや、ルーツを辿ると意外にも日本との関係が見えてくる。
「日本統治時代の1920年代に日本の職人が教えた面格子の技術が、台湾で独自の発展を遂げた結果、『鉄窓花』と呼ばれるものになりました。
日本でも防犯対策として窓に面格子が設置されていますが、ベランダを全体的に覆うことはないですよね。一方で台湾では、一戸建てでも集合住宅でも、上から下までぴっちり格子で覆うのが特徴的です」
「鉄窓花の最盛期は1970年代です。鉄製なので曲げやすく色々な形を作れる反面、錆びやすく定期的なメンテナンスが必要です。徐々に、安価でメンテナンスしやすいステンレスやアルミ製のものが普及していき、直線的でシンプルなデザインが主流になっていっています。職人も徐々に減っていっており、鉄窓花は廃れていっています。
ただ、『台湾レトロ建築案内』が火付け役になって、台湾でレトロ建築のブームが訪れ、鉄窓花も見直されつつあるようです。鉄窓花がモチーフになったグッズが続々と生まれたり、新しくオープンしたカフェの装飾で鉄窓花が使われていたりもします」
家主のこだわりが表れた多種多様なデザイン
鉄窓花は、家主のこだわりが垣間見える多種多様なデザインが、大きな魅力の一つだ。
「台湾では、集合住宅でもオーダーメイドで鉄窓花を作れる物件が多く、職人がその時流行っているデザインを提案する場合もあれば、例えばメガネ店だとメガネの形をした鉄窓花を作ったりと、家主からデザインをリクエストする場合もあるようです」
「よく見るのは鉢植えのデザインの鉄窓花です。北から南まで、あらゆる街で見かけました。葉っぱの形や花の向き、花の本数が違うといった様々なバージョンがあります。アレンジを見比べるのも楽しいですね」
「一区画まるごと同じ時期に開発されたような場所だと、おそろいの建物に同じデザインの鉄窓花がはまっていることがあります。同じ形の繰り返しがあると、このあたりは同時期に建ったんだなと想像がつきます。
また、鉄窓花が作られたピークは1970年代なので、建物が残っていても家主は変わっている場合もあります。鉄窓花から、設置当時のご商売や家主の好みなどを想像するのも面白いですね」
日本統治時代の名残が感じられる、富士山デザインのものもあるという。
「台南や高雄の古い建物が残る街で見かけました。おそらく日本統治時代に近い時代に、日本人の職人が伝えたものの名残だと思われます。
日本にも昔はいいデザインの面格子がありましたが、戦時下の金属類回収令によってかなりの数が供出されてしまったそうなんです。古いデザインのものは、むしろ台湾の鉄窓花として残っているのかもしれません」
鉄窓花目線でおすすめの街は「苗栗」と「台南」
鉄窓花は、台湾の街を歩いていれば、どこでも気軽に鑑賞できるのも魅力だ。
「地方都市や郊外の少し古い住宅地へ行くと、すぐに見つかります。ちょっと古い建物だなと思ったら、窓やベランダを見てみると、必ずそこに鉄窓花があります。
台湾や高雄の中心部のような市街地でなければ、わざわざ特殊な場所へ行くことなくどこでも見つかるので、初心者でもとっつきやすい対象物だと思いますね。以前、台湾に一緒に行った友人に鉄窓花を紹介したら、その日のうちにいくつも見つかって面白かったと言ってくれました。
5枚、10枚と写真を撮り集めてデザインを見比べたり、建物の古さを推測したりと、自分なりの楽しみ方ができるんです」
台湾に何度も足を運んだtamazoさんならではの、渡航や鑑賞の際の「マイルール」も。
「渡航時期は、台風が頻発する夏場や秋はできるだけ避けています。現地の人も外を出歩くのを控えるくらい、暑い時期ですしね。
一生に何度も行けるわけではないので、渡台の際は事前にGoogleストリートビューなどで、古そうな建物があるかどうか、町並みの様子をチェックしています。
現地で『これは!』と思う鉄窓花を見つけたら、縦・横・寄り・引きといった複数のアングルで撮影しています。どこにあったか後から思い出せるよう、メモ代わりに周りの風景もおさえるようにしているんです」
特に鉄窓花を鑑賞したい、という場合のおすすめの街を伺ってみた。
「一番おすすめなのは、台中の隣の『苗栗』(ミャオリー)という街。観光で訪れる人も少なく、日本でいう昭和40〜50年代頃の街の感じがそのまま残っている雰囲気なんです。鉄窓花最盛期の1970年代に建てられた建物が多く、鉄窓花をたくさん見かけることができます」
鉄窓花そのものだけでなく、建物の意匠も含めて鑑賞するのも楽しい。
「写真は、苗栗の路地裏で見かけた民家の鉄窓花です。家自体も真っ青。表通りからは全然見えない場所にも関わらずかなり攻めたデザインで、家主のこだわりを感じました」
「古いタイプの鉄窓花が残っているおすすめの街は、台南です。『神農街』(しんのうがい)というエリアには、100年以上前の古民家を転用した店舗が建ち並んでいます。日本でいうと京都のような趣ある町並みで、わざわざ遠方から観光で訪れる人も多く、若者たちにも人気のエリアです。
中心部の路地では、古そうな建物の窓辺で、富士山があしらわれた鉄窓花も見かけました」
これまで少なくとも1000箇所以上の鉄窓花を撮影しているというtamazoさん。リバイバルブームが来ているとはいえ、少しずつ数が減りつつある台湾の鉄窓花の、貴重な記録となりそうだ。
ようやく海外旅行がしやすくなった。この夏台湾へ行かれる方がいたら、台湾と日本の歴史を物語る鉄窓花に、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべてtamazoさん提供