ピンク色のフクロウが目印の隠れ家的なラーメン店
東急池上線を横断する多摩堤通りからすぐ入ったところにある『中華そば 梟』。通り沿いには、店名とフクロウのイラストが描かれたピンクの看板があり、店まで導いてくれる。
店に近づくと魚介系のいい香りが漂ってくる。店頭には、看板やピンクの小さなTシャツが飾られている。一見しただけでは店舗とは気づきにくく、スープの香りと装飾がなければ通り過ぎてしまいそう。
店主の永田美徳さんは、独自のラーメンを目指すためにこの場所にあったラーメン店の営業していない時間に間借りしてラーメンを提供していたという。「間借りをしていたときに営業していることを示すのが、フクロウが描かれたTシャツでした。その後、店主がラーメン店を辞めるということで、道具などを引き継いで2018年6月にオープンさせました」と話す。
スープはアジの煮干しの旨味があふれる
券売機でアジ煮干中華そば850円を購入。
丼が登場すると、魚介系の上品な香りが鼻をくすぐる。一口すすれば、アジの煮干しの上品でやさしい味が口に広がる。濃厚さを感じるが、特製のかえしの効果かスッキリとした後口だ。
魚介系をメインに打ち出しているラーメンを食べるとえぐみを感じることがあるが、このスープには全くない。むしろ、滋味深い香りと味がどんどんと追いかけてくる。
永田さんによると「煮干しをメインに使っているラーメンは多いですが、ほかとはちょっと違うアジの煮干しをメインにしてみました。実際にスープを作ってみると、アジの旨味がスープに広がり、おいしかったので、アジの煮干しの味を追求しました。
アジの煮干しに昆布や少量の鶏ガラを加えて、化学調味料不使用でも満足な味を出すことができました。淡海(たんかい)地鶏の鶏油でさらにマイルドな味わいになります」と話してくれた。なるほど、この奥深い味だからどんどん飲みたくなるのだろう。
トッピングされたミョウガもいいアクセントになっている。永田さんは「アジのたたきをイメージしたのですが、ショウガや大葉だと味が強くなってしまうので、ミョウガを使用しています。さっぱりとした味が加わります」と話す。
麺や2種類のチャーシュー、麩など、スープがさらに引き立つ
国産小麦を使用した特注の細縮れ麺はスープによく合う。ツルッとした食感とパツッとした歯切れのよさがあり、麺だけ食べてもおいしい。
チャーシューは2種類。豚チャーシューは燻しながら焼く「吊るし焼き」。香ばしさに加えて、肉から出る脂で燻されるため、旨味が増幅する。
鶏チャーシューは低温調理をしている。胸肉を使用しているが、パサつきは一切なく、みずみずしくて、肉本来の味も伝わってくる。
ひと際変わったトッピングがある。なんと、麩(ふ)が浮かんでいるのだ。旨味たっぷりのスープを含んだ麩は、口に入れた瞬間にジュワッと口に広がり、幸せな気分になる。
永田さんは「メンマを作るのには手間暇がかかるのですが、意外とメンマが嫌いな人が多いんです。だったら店名が『梟』なので“麩喰ろう”のダジャレで麩を入れることにしました」と笑いながら話してくれた。
新たな食材で生まれる限定ラーメン
券売機の上のホワイトボードには手描きでラーメンメニューやトッピングが書かれている。
永田さんは「旬の素材やそのとき一番おいしい食材を使った限定ラーメンや限定トッピングを提供しています。限定ラーメンでは過去にマグロの頭やキンメダイなど、ちょっと変わった食材を使用したこともありました。生の魚を使用しているのは珍しいのではないでしょうか。何日間か提供する予定ですが、その日に売り切れることもあります」。
さらに「Tシャツがピンクではなく、青になることがあります。間借りをしているときにつけ麺を出していたことがあったのですが、それが好評でお客様から『また食べたい』と要望があって、つけ麺を提供するときは青いTシャツを飾ることにしました。
限定ラーメンやつけ麺営業の時はSNSで発信していますので、確認をお願いします。ちなみにつけ麺は不定期で、私にいいことがあったときだけ登場するんです」と話してくれた。
アジの煮干しを中心にして天然素材だけで作ったスープ、しなやかな麺、工夫を凝らしたトッピング。完成度の高いラーメンを食べれば幸せな気分になれる。次々と登場する限定ラーメンも楽しみだ。
取材・文・撮影=速志 淳 構成=アド・グリーン