ハイサイ!沖縄の明るい挨拶で出迎えるお店
『Jimamaya bakery』がある有田川町は、和歌山のほぼ中央に位置する東西に広いまち。東から西に流れる「有田川(ありだがわ)」を中心に、豊かな自然が広がっています。Uターン、Iターン移住者も多いこの地域に結婚を機に沖縄から移り住んできた、『Jimamaya bakery』オーナーシェフの野村さん。パートナーの元実家であり、現在の店舗の番地をみて、思わず「813-1(ハイサイ)…」と呟きます。
「番地をゴロ読みしたら「ハイサイ(沖縄で『こんにちは』の意味)」と読めることに気づき、出身の沖縄では毎日のように使われる言葉なので、運命を感じました。」
元々沖縄のホテルベーカリーでパン作りをしていた野村さん。沖縄の材料をメインに地元和歌山の材料も使いながら、自分らしいお店ができるんじゃないか。そう思い2017年の5月にこの地でパン屋さんを開業しました。
店内に入ってみると、壁には紅型※を思わせる大胆でカラフルなイラストやシーサー、三味線など沖縄全開。店名のjimamayaについて聞くと、「沖縄の方言に、『自由気まま』を意味する『ジママ』という言葉があるんです。『ヤ』は『家』っていう意味。」とのこと。毎日のように気軽に足を運べるような、親しみやすいお店にしたい。そんな想いのこもった店名です。
※琉球染物、沖縄を代表する伝統的な染色技法の一つ。
ラフテー、黒糖、島ウィンナー。沖縄の食材を惜しげもなく使ったバラエティ豊かなパンたち
内観だけではなく、パンにも沖縄へのこだわりが表れています。郷土料理の「ラフテー」と呼ばれる豚の角煮がゴロッと入った焼きカレーパンや、精製されていない純度100%の黒糖を使ったメロンパン。沖縄では「豚に始まり豚に終わる」と言われるほどよく食べられる豚肉を使った島ウィンナーのホットドックなど、こだわりの材料を沖縄から取り寄せ、ふんだんに使用しています。
「沖縄のパン屋」として地元和歌山で定着
お店の入り口でひときわ目立つ、赤い瓦のひさし。こちらなんと沖縄の琉球赤瓦と言って、琉球赤瓦とは沖縄の建造物によく用いられている瓦屋根。これを見て居酒屋と間違えて入ってくるお客さんもいたといいます。
この瓦、首里城にも使われている珍しい瓦で、その出会いも運命的でした。
「よく通る定食屋さんの軒下に、本格的な赤瓦が捨ててあったので、自分が沖縄のコンセプトのお店をやるって決めたときに、『いらないんだったら絶対に譲ってもらいたい』って思って定食屋さんの店主にお願いしたら、『捨てるのも勿体無いと思ってたんだ』って言って、譲ってくれたんです。」
その定食屋さん、オープン当初は沖縄料理を提供していたが、途中から一般的な定食屋さんに切り替えたとのこと。ご縁があり、こうして『Jimamaya bakery』の顔になっていると思うと、感慨深い…
有田川町にしっかりと定着した今はもう、居酒屋と間違えて入ってくるお客さんは多くありません。「もはや店名よりも『沖縄のパン屋』ってフレーズが一人歩きして、近所の人には『あそこの沖縄のパン屋行こうよ』で伝わるみたいです。」
おいしそうなパンに目移りしながらも気になるのは、至る所に貼られている冷凍OKの文字。その理由は、フードロスを無くしたかったから。
「一生懸命作ったパンが残って、当日中に廃棄してしまうことがパン屋さんでは当たり前になっているけど、僕はすごくモチベーションが下がるんです。それに、焼きたてを提供するためにたくさんパンを焼くけど、ほとんどの人がテイクアウトして食べるときにはパンは冷めてる。どうせだったら焼きたての感覚で食べてほしいので、「食べきれない分は冷凍保存したら1ヶ月ぐらいもつし、解凍してトーストし直したら焼き立てのようなパンに生まれ変わりますよ」ってお客様に伝えています。」
パンを食べるときには、沖縄に旅行したときの思い出や景色を思い浮かべながら食べてもらえたら嬉しい、と野村さん。沖縄に行ったことがなかったとしても、誰でも沖縄のイメージは持っているはず。パンを食べながら、沖縄に行ったらこんな感じかなって想像しながら食べることをおすすめします。
ぜひ、沖縄よりも沖縄らしい、和歌山県の『Jimamaya bakery』に足を運んでみては?
取材・撮影・文=パンスク