建物横の掲示板。オープンを知らせる張り紙に地元住民たちが大注目。
建物横の掲示板。オープンを知らせる張り紙に地元住民たちが大注目。
警察のシンボルマークの旭日章。交番廃止時に警察の手違いで外す事を忘れていたそうで、オープン後に警察官が来て2023年5月現在は取り外されている。⁡
警察のシンボルマークの旭日章。交番廃止時に警察の手違いで外す事を忘れていたそうで、オープン後に警察官が来て2023年5月現在は取り外されている。⁡

コロナ禍のお導き

名前を聞いたら「柴田恭兵です」と答えてくれた、お茶目なオーナーの後藤さん。令和5年5月5日で55歳に!
名前を聞いたら「柴田恭兵です」と答えてくれた、お茶目なオーナーの後藤さん。令和5年5月5日で55歳に!

飛騨高山出身の後藤さん、55歳。元々コーヒー好きで、独学で手焙煎をするまでになり、IT関係の会社に勤めながらも、いつか自分のお店を持ちたいと夢見ていた。

そんな折に突如訪れたコロナの波。前々から知人に、お店を開くならリーマンショックなど景気が下がった時がいいとアドバイスを受けていた。物価も安くなるうえ、物件も見つかりやすいという意味合いからだったが、いざ探しはじめると、大きい物件は見つかるが、手頃な物件はなかなか見つからない。

するとひょんなところで事態は好転。会社が完全在宅勤務となり、以前は鎌倉の稲村ヶ崎に住んでいたが、これを機に横浜駅に出やすいこの地に引越し。そして近所に栗田谷交番の跡地を発見したのだ。

後藤さんが描いた自画像のキャッシュトレイ。支払いはキャッシュレスにも対応。
後藤さんが描いた自画像のキャッシュトレイ。支払いはキャッシュレスにも対応。

大家さんを探しあて手紙でラブコール

1階のカウンター。交番の名残を感じる。
1階のカウンター。交番の名残を感じる。

1977年に建てられた栗田谷交番は、2018年に統廃合により廃止になり、建物はそのままになっていた。閉鎖している交番を見て、「ここ、借りられないかな」と調べ始めると、数年前に競売にかけられていたことが発覚。警察関係じゃなく、一般の持ち物なら借りることができると建物の持ち主を探しはじめる。まず建物の登記を調べるが見つからず、次に土地の登記を調べると大家さんに行き着いた。

さっそく「カフェをオープンしたい」旨の手紙を書くと、「いいですよ。中を一度見てみてください」と返事がきた。内見したところ、汚れてはいたがサイズ的にも丁度よく、ここでお店を開くことを決意。大家さんも「有意義に使ってくれるなら」と快諾してくれた。後藤さんの情熱と、大家さんの寛容さに感服するエピソードだ。

ちなみに大家さんは老後の秘密基地用に購入。1階をガレージ、2階はちょっとした休憩スペースとイメージしていたが、1階部分の壁をぶちぬけないことや、電気や水道、ガスのライフラインをすべて直さなければいけないことにより断念。簡単な倉庫代わりにしていた。

1階のベンチスペース。オープン時にはお花でいっぱい。
1階のベンチスペース。オープン時にはお花でいっぱい。

交番の記憶を残しつつ改装

2階は警察官が宿直する畳部屋だった。階段横の天井まであった壁を外して、明るく開放的に。
2階は警察官が宿直する畳部屋だった。階段横の天井まであった壁を外して、明るく開放的に。

大家さんとの手紙のやりとりが2021年の秋。もろもろの準備期間を経て、実際に建物を借りたのが2022年11月。そして3ヶ月かけて改装工事を行う。電気の配線はもちろん、水道管も腐食していたので全取っ替え。1階の天井も板屋根だったが、腐食のため撤去し、コンクリート打ちっぱなしへと改装。

1階カウンター奥の焙煎する小部屋は、元はトイレ。警察官の宿直スペースだった2階はシャワールームをトイレにし、畳と押し入れ部分は客席へと生まれ変わった。あえて交番だった外観はそのままに。

オープンはわかりやすく4月1日に決定。エイプリルフールなので嘘だと思われることもしばしば。後藤さん、なんと会社を前日の3月31日付けで退社というから驚きだ。有休消化しながら、並行で準備を行ったという。ちなみに2021年にはコーヒーの学校にも通っていたそう。

なんともわかりやすい『Coffee KOBAN』という店名は、実は4案目。元々は屋号である「Roast and Grind Coffee」を店名に考えていたが、長いので略して「RGC」に。しかし交番の跡地での開業になったので「栗田谷珈琲交番」へと変更。だがこれも漢字で長いうえ、わかりにくいということで、世界的にローマ字にもなっているKOBANとCOFFEEを組み合わせ、一番シンプルな『Coffee KOBAN』に決定した。

大きな窓からは日差しがたっぷり。カウンターにはコンセントあり。2時間を超える利用は、要追加オーダー。
大きな窓からは日差しがたっぷり。カウンターにはコンセントあり。2時間を超える利用は、要追加オーダー。
元はシャワールームだったトイレ。広くて使いやすい。
元はシャワールームだったトイレ。広くて使いやすい。

近所では20年ぶりのニューフェイス

警察帽をかぶった後藤さんの自画像。取り外されてしまった旭日章がここに!
警察帽をかぶった後藤さんの自画像。取り外されてしまった旭日章がここに!

とにかくオープン前から反響がすごかった『Coffee KOBAN』。筆者の地元でもあるのだが、以前から交番はどうなるのか、工事がはじまると何ができるかなど興味津々だった。3月下旬にチラシが配られ、カフェのオープンを知ると一気に近所の話題になる。

これは絶対に行きたいと、オープン翌日に訪れると大繁盛!お客さんがひっきりなしで、後藤さんもてんてこまい。話を聞くと初日は、オープン前から大行列だったという。それもそのはず、このあたりに新しくお店ができるのは実に20数年ぶり。後藤さんの住んでいる町内会の会長もひいきにしてくれて、毎月の会報に写真つきで紹介してくれているという。バスの通り道でバス停も近いので、途中下車して来るお客さんも多い。

肝心なコーヒーのお味はというと、全体的に浅煎りですっきりな味わい。フードやスイーツもあり、看板メニューは数量限定の野菜たっぷりカレー。2種類のサンドイッチはマヨネーズから手作りというこだわりぶり。試行錯誤のうえに出来上がった砂糖不使用の低糖質チーズケーキは、思わず唸ってしまうほどの美味しさ。今後は豆の販売も、店頭とネットの両方で行う予定。

地元住民の熱烈な歓迎を受け、すでに愛されている『Coffee KOBAN』。「街の中の憩いの場になってくれたら」という後藤さんの夢と情熱が詰まったお店ははじまったばかり。

砂糖不使用の低糖質でカロリーも控えめなチーズケーキ。めちゃ美味しいので是非食べて!580円(税込)。
砂糖不使用の低糖質でカロリーも控えめなチーズケーキ。めちゃ美味しいので是非食べて!580円(税込)。
色鮮やかな抹茶チーズケーキ。680円(税込)。
色鮮やかな抹茶チーズケーキ。680円(税込)。
看板メニューの欧風黒カレーと3種DELIのカレープレート。1日限定10食のランチメニュー。1280円(税込)。
看板メニューの欧風黒カレーと3種DELIのカレープレート。1日限定10食のランチメニュー。1280円(税込)。
名物KOBANサンド〜低温調理パストラミポーク〜。自家製マヨネーズと手作りピクルスを添えて。880円(税込)。
名物KOBANサンド〜低温調理パストラミポーク〜。自家製マヨネーズと手作りピクルスを添えて。880円(税込)。
横浜の坂の上にある、蔦が絡まる建物は、交番からカフェへと新しい歴史を紡ぐ。
横浜の坂の上にある、蔦が絡まる建物は、交番からカフェへと新しい歴史を紡ぐ。
住所:神奈川県横浜市神奈川区栗田谷10-1/営業時間:9:00-16:00(ランチ11:00-14:00)/定休日:水・土/アクセス:東急電鉄東横線反町駅より徒歩約12分、または横浜市営バスで4分「栗田谷」下車徒歩1分

取材・文・撮影=千絵ノムラ