どこにでもあるからこそ楽しめる

仕事の現場で働くカラーコーン。
仕事の現場で働くカラーコーン。

街に出れば誰でも一度は目にするカラーコーン。カラーコーンマニアのおかだゆかさんは、日々カラーコーンの写真を撮り続けている。

「10年以上前、当時通っていた美術大学の授業で、ルールを決めて、写真に言葉をつけてTwitterに投稿するという課題がありました。どうせ取り組むならば、続けられる対象にして大学生活を楽しくしたいと考えて、通学途中に街中でよく出会うカラーコーンを撮るようになりました。

赤色で三角形の形をしていて、街中に溶け込んでいない物体なのに、あまり人に気づかれない。よくよく考えるとちょっとおかしな存在です」

「新宿区」と刻印されたカラーコーン。
「新宿区」と刻印されたカラーコーン。

「カラーコーンの状態に感情を乗せて、『頑張ってるよ、自分』とポエムのようなつぶやきを投稿していたんですが、ある日、それがカラーコーンの感情というよりは、いま自分が思っていることが反映されることに気づきました。当たり前のことなんですが、いつも見かける同じカラーコーンでも、自分が元気であれば元気に見えて、自分が疲れていれば疲れているように見えることに衝撃を受けたんです。また定点観測すると、右に置いてあったものが別の日に左にずれたりといった変化によって物語性が感じられる点にも惹かれました。

きっかけになった授業は2回だけの開催でしたが、そこからはまってしまい、自転車通学の途中にカラーコーンを見つけると、わざわざ自転車から降りて写真を撮ったりもしていました。

卒業制作もカラーコーンをテーマに作品を作って、4年間カラーコーンまみれでした」

駐車禁止のために設置されたカラーコーン。
駐車禁止のために設置されたカラーコーン。

カラーコーンは、どこにでもある存在なのが魅力だ。

「どこでも会えるし、ほとんど同じような姿かたちをしているからこそ、地域を限定せずに楽しめる良さがあると思っています。

カラーコーンは1本置くだけで意味を持ち、例えば駐車場で車の代わりに置かれているケースもあります。最初は誰かが意味を持って置いたものなのに、年月を経て放置されると、忘れさられて誰のものでもない​​無意味なものになっていく。その哀愁にも惹かれますね。

役割をちゃんと与えられて働いているカラーコーンよりは、どちらかというと朽ち果てて見えるカラーコーンの方に、より感情移入してしまいますね。『自分と同じだな』と思うカラーコーンをつい撮ってしまいます」

カラーコーンから見えてくる地域性

おかださんが下北沢に行くたびに見守っているという、カラーコーン。
おかださんが下北沢に行くたびに見守っているという、カラーコーン。

「普段の観賞は、気張らず日常生活の中で探すのがベースです。通勤途中や遊びに行く時などでカラーコーンが目に入れば写真を撮っています。『下北沢のあのカラーコーン元気かな?』みたいな感じで、その街に行くついでに気になるカラーコーンを見に行くこともあります」

どこにでもあるからこそ、人間味や地域性がにじみ出て見えてくる。

代官山で見つけた白くておしゃれなカラーコーン。なんと180cmもある。
代官山で見つけた白くておしゃれなカラーコーン。なんと180cmもある。

「代官山では白いカラーコーンやお店のブランドシールが貼られたカラーコーンなどを見かけました。おしゃれさやこだわりを感じます」

工事現場の囲いに貼られた二次元のカラーコーン。新宿にて。
工事現場の囲いに貼られた二次元のカラーコーン。新宿にて。

「新宿だと駅周辺で工事中の場所が多く、カラーコーンの量自体が多いです。工事現場の囲いに貼られたカラーコーンのイラストを見かけたことも。これ一つあるだけで、立入禁止というメッセージが強く伝わってきますよね」

商店街の一角で駐輪禁止のために置かれたカラーコーン。武蔵小山にて。
商店街の一角で駐輪禁止のために置かれたカラーコーン。武蔵小山にて。

「写真は、武蔵小山の商店街で見かけたカラーコーンです。駐輪禁止のためにお店の横に大量に置かれていたので『自転車を置かれたくない』という意思を感じます。

行くたびに見てしまうんですが、頑張って立っている時もあれば、朽ち果てている時もあって。

おそらく商店街だと、お店が置いているものと商店街全体で出しているものとがあると思うんですが、だからこそ誰が置いたのか分からなくなり、忘れ去られるカラーコーンが発生しやすいのではと予想しています。いつ役目を終えるか考えながらも、『まだ働かせよう』とガムテープを貼って頑張らせていたり、絶対に盗られたくないのか中にコンクリートが詰められたカラーコーンも見かけました。長年そこに住んでいる人との関係性や、置いた人の執念も感じるオリジナリティあふれるカラーコーンを見られるのがおもしろいです」

カラーコーンの楽しさを伝えたい

カラーコーンの鑑賞方法を紹介したパンフレット(作:おかだゆかさん)。
カラーコーンの鑑賞方法を紹介したパンフレット(作:おかだゆかさん)。

10年以上ライフワークとして、カラーコーンの撮影や、カラーコーンを通じた発信を続けているおかださん。カラーコーンの魅力を人に伝えるための活動も幅広い。

「学生時代に活動を始めた当初は『カラーコーンってすごくない?』と気持ちが先行して喋りすぎてしまった分、何を言っているのか分からないという反応が多かったんです。『自分さえ楽しめればいいや』と思っていて、そんなに周りに伝えようともしていませんでした。ですが、活動を続けるうちに、少しでも知ってほしい、伝えたい、という思いが強くなっていき、カラーコーンの見方を紹介したパンフレットを制作しました」

カラーコーンをモチーフにしたLINEスタンプ(イラスト:おかだゆかさん)。
カラーコーンをモチーフにしたLINEスタンプ(イラスト:おかだゆかさん)。

「さらに、もっと分かりやすく伝えられないかなと考えて作ったのが、LINEスタンプです。初心者でも気軽に感情を乗せることができます」

割れた窓に驚くカラーコーンたち(イラスト:おかだゆかさん)。
割れた窓に驚くカラーコーンたち(イラスト:おかだゆかさん)。

最近は、カラーコーンの写真に表情を描く試みもしている。

「当初カラーコーンを撮影し投稿していた時、友だちから『汚い』と言われたことがありました。カラーコーンが置かれている場所って、そもそも工事中だったりと、そこまできれいな場所ではないんですよね。だからこそ、より魅力的に伝えるため、カラーコーンの写真にイラストで感情や表情を添えています。

当初はただ自分の言いたいことをカラーコーンを通じて伝えるだけでしたが、今はカラーコーンと対話しながら『こういう気持ちかな』とチューニングしながら描いています」

カラーコーンに独自のデバイスをインストールして街角に展示する取り組み。
カラーコーンに独自のデバイスをインストールして街角に展示する取り組み。

「カラーコーンを伝えたい」という思いから続けてきた一連の活動によって、技術も磨かれていったという。

「大学時代は、レーザーカッターを使って作品を制作したり、プログラミングを学んで光るデバイスを作ったりと、カラーコーンに導かれて技術を身に着けていきました。実は卒業後に最初に勤めた会社がPR会社だったのですが、『伝える技術を磨けば、カラーコーンの魅力をもっと届けることができるかもしれない』と思ったからなんです」

“カラーコーンから”街や人と繋がっていく

鉢植えと一緒に並んだカラーコーン。
鉢植えと一緒に並んだカラーコーン。

発信を続けたことで、周りに嬉しい変化もあった。

「私が盛んに『カラーコーン』と言い続けているからか、友だちから『このカラーコーンどう?』と、カラーコーンの写真が送られてくることが結構あります。その子が日常の中でカラーコーンという視点を持ったことが、すごく嬉しいですね。

見方や解釈はその人次第で、人それぞれ。『いろんな見方ができるね』ということ自体が楽しい点だし、嬉しいことだと思います。

私自身、カラーコーンを通じて、街や人、ものに繋がることができました。『カラーコーンから繋がっていく』という思いを込めて、Twitterのアカウント名は『からーこーんから』という名前にしています」

羽衣のようにゴミネットがかけられたカラーコーン。
羽衣のようにゴミネットがかけられたカラーコーン。

これからカラーコーンに親しんでみたい、という人に向けて楽しむコツを伺ってみた。

「まずはお住まいの地域や家の周りで、自分の好きなカラーコーンを探してみてください。『いいな』と思うカラーコーンを定期的に写真に撮ってみるのが、入口としておすすめです。

雨や風によって劣化したり、持ち主の人が撤去してしまったりといった変化が見えてくると、『今日はどんな姿かな』と徐々に感情移入できるかもしれません。

カラーコーンは街歩き中に出会う回数がかなり多い存在です。『この道を通ったな』ではなく、『さっきこのカラーコーンを見たな』と記憶することで、普段の街の見え方がよりくっきりはっきりしてきます。

街歩き好きな方であれば、訪れた街でベストワンのカラーコーンを探してみるのもいいかもしれません」

何気なく通り過ぎてしまうものであっても、視点を変えて着目してみると意外なおもしろみに満ちている。それに気づくだけでも十分楽しいが、発信してその楽しさを他の人とも共有できれば、相乗効果によって自分自身の視野も広がり、日常風景がどんどんと彩り豊かになっていく。

 

取材・構成=村田あやこ

※「カラーコーン」という名称はセフテック株式会社の登録商標ですが、記事の便宜上、すべてのロードコーンをカラーコーンと表記しました。
※記事内の写真・イラストはすべておかだゆかさん提供