お肉好き、そして腹ペコの欲求を満たすランチメニューの数々

JR常磐線北千住駅の西口を出て左に進んでいくと、ものの1分で左右に飲食店がびっしりと並んだ通称“飲み屋横丁”に入る。ここはまさにお酒好きの聖地ともいえる場所。通りの幅は狭く、3人が横に並んで歩ける程度。

まだ夕方には早い時間だったが、すでに3組ほどが良い加減のご様子で道幅いっぱいに歩いている。「北千住では昼からお酒飲んでも良い」という法律があるので(ないです!)当然の風景である。

飲み屋横丁を進んで『大衆酒蔵 シチュー屋』を目印に右折すると、右側に『肉三昧 石川竜乃介』の看板が見える。
飲み屋横丁を進んで『大衆酒蔵 シチュー屋』を目印に右折すると、右側に『肉三昧 石川竜乃介』の看板が見える。

追い越し不可のため遅い速度で歩くも、この日の目的の店『肉三昧 石川竜乃介』までは約3分。店先の手書き立て看板には「生ビール ウーロンハイ~安さ保証 210円」「牛豚ホルモン盛り合わせ 石川盛り990円」と昼間から濃厚な宴会の気配。

飲ませる気満々の素敵なお店の佇まい。
飲ませる気満々の素敵なお店の佇まい。

飲み屋横丁といい、このお店の素敵な佇まいといい、心の底から「取材じゃなかったらなー」と思わせる街の力が凄い。

通りから少しだけ奥まったお店の扉に進んでいくと、そこにようやく昼メニューを発見し安心する。

ハラミ定食、カルビ定食、ホルモン定食など肉々しいメニューが並ぶ中、カレー定食の姿も。
ハラミ定食、カルビ定食、ホルモン定食など肉々しいメニューが並ぶ中、カレー定食の姿も。

肉とお酒の激戦区、北千住で今日も人々が通う肉のパラダイス

店内では、すでに昼間のお肉宴会で盛り上がるお客さんが3組。スタッフがお酒や肉をテーブルの間を縫うようにきびきびと運んでいる。

今回お話をうかがったのは、開店当初からお店を切り盛りする竹市勇希さん。夕方に向かうこの時間、仕込みのため一瞬も手が離せない状況の中、作業中の厨房でお話をお聞きするというライブ感あふれる取材となった。

夜に向かって仕込み中の竹市さんと山盛りホルモン。
夜に向かって仕込み中の竹市さんと山盛りホルモン。

目の前には巨大な洗面器のような容器に山盛りのホルモン。豚の大腸の余分な脂の部分をハサミで丁寧に切り落としていく。みるみるたまっていく脂の山。容器にはおなじみのホルモンがおいしそうに連なって白く輝いている。

「うちは肉を部位ごと仕入れて、自分のところで全部加工をしています。自分たちでやることで、良い肉を安く出すことができますから」と竹市さん。

この地で『肉三昧 石川竜乃介』がオープンしたのは2015年頃。北千住に知り合いの多かったオーナーがぜひこの場所でと開店したとのこと。それにしても北千住は肉やホルモンを出す店が多く、いわば激戦区。その中であえて肉を看板にしたのには「街柄やお客様の雰囲気もありますけれど、ちゃんとしたものを出して、ちゃんとした接客をしていけばやれる」という強い思いがあったとのこと。

全体的に煙にいぶされ、いい感じに仕上がっている店内。
全体的に煙にいぶされ、いい感じに仕上がっている店内。

土地柄、肉に詳しく、こだわりのあるお客さんも多く、「これはどこの部位?」と聞かれることも少なくない。その一方で近くには東京藝術大学や東京電機大学があり、多くの学生が連れ立って来店する。目的は安くておいしいお昼ご飯。質だけでなく量と値段でも需要に応えていくことがお店の大事な使命となっている。

外カリ、中ジューシー! 炭火で焼く絶品鳥肉

この日注文したのは、お店のランチメニューの中でダントツ人気のすだち鳥定食700円。タレと塩が選べるが、今回は塩で。

注文するとすぐに赤くメラメラと熱を放つ炭が入った七輪が運ばれてくる。
注文するとすぐに赤くメラメラと熱を放つ炭が入った七輪が運ばれてくる。

そして間を置かず、次々と皿が運ばれてくるのだが、その数にちょっと驚かされる。メインの鳥肉、サラダ、もやしのナムル、キムチ、スープ、タレ、ライス、そしてウーロン茶。

目の前に並ぶその皿数の多さ。食欲をそそる色どり。肉も大盛(約200g)なら、ライスも大盛。大盛が無料というところにお店の心意気を感じる。腹を減らした学生たちにとって文句の言いようのない、まさに重厚な布陣である。

すだち鳥定食700円の見事な陣容。ご飯大盛無料!
すだち鳥定食700円の見事な陣容。ご飯大盛無料!

ん? そのお皿の並ぶ風景に感激していると、さらに小さな小鉢が一皿が運ばれてくる。そこには氷が三粒ほど。これは何? お酒を飲めば? の催促か。正解はのちほど。

さて、鳥肉を灼熱の焼き網の舞台へ。あぁ、たまらん、この炎と肉の組み合わせ。いつ見ても、何度見ても最高の風景である。

この待っている時間も大切な調味料。
この待っている時間も大切な調味料。

ひっくり返すのはまだまだ。焦ってはいけません。いったん落ちついて、キムチをつまみ、ご飯を一口。心を落ち着かせる。しかし、目の端は常に網の上の鳥肉に。

肉が自らの脂で騒ぎ出したころ、ひっくり返しの儀。もう少しだ。この焼き上がりまでの時間こそがトンカツにもラーメンにもない大切な調味料となるのだ。しかも今は取材中。この待ちの時間にビールという助けもなく、ひたすら待つ時間のストイックさ。すべては肉のために。

炭火効果で、外カリ&中ジューシー。
炭火効果で、外カリ&中ジューシー。

焼き上がる。いただきます。鳥肉にはしっかりと塩味が付いており、そのままでもきちんとおかずになる。タレは醤油ニンニク味。ここにちょこっと付けると、これもまた良し。一箸で運ぶご飯の量がいつもより多い。ご飯が甘い。旨いぞ、本当に旨い。

肉の良さはもちろん、炭火を使うことで外はカリっと香ばしく、中はとてもジューシー。「ガスだとこんな感じには焼けないんですよ」とは竹市さんのお言葉。

ここで、鳥に限らずお店で肉をおいしくいただくコツをお伺いすると「焦がさないこと」とひどくシンプルなお答え。しかし肉の脂が炭に落ちて炎が上がり、せっかくの肉を焦がしてしまうお客さんが結構多いという。先ほどの氷小鉢の正体は、その消火のためのもの。炎が上がったら氷を焼き網に乗せ、すかさず消化活動を行うのがおいしくいただくコツであるという。

不思議に欲しくなるお店オリジナルTシャツ。購入可。
不思議に欲しくなるお店オリジナルTシャツ。購入可。

「開店から夕方前まではハッピーアワーで、生ビールやサワーが全部210円なので、ランチと一緒に生ビールを楽しむお客さんも多いですよ」とのこと。

こんな素晴らしいお店が待っているなら、ありったけの集中力を総動員して1日分の仕事を午前中で済ませる努力もいとわない。生産効率アップには肉と生ビール。そんなことを妄想しながら幸せなランチは続くのであった。

住所:東京都足立区千住2-65 1F/営業時間:11:30~23:00LO(月は11:30~20:00LO)※ランチは11:30~15:00LO/定休日:無/アクセス:JR・地下鉄・私鉄・つくばエクスプレス北千住駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠