検分:ハマちゃん全懲罰

全22作に渡り、社の内外でいろいろやらかした挙げ句、懲罰委員会にかけられている我らがハマちゃん。その詳細や顛末はいかなるものか。まずは全懲罰を洗い出してみる。

■案件1■

《作品》『釣りバカ日誌2』

《罪名》虚偽申請

《罪状》鹿児島の実兄の葬儀と偽って、忌引休暇を申請。

《求刑》懲戒免職

《判決》無罪

《備考》木村恵(演:戸川純)はじめ営業三課のOLが減刑嘆願の署名活動を社内で展開。

その情にほだされたか「クビを切らない余裕が今の我が社にとって大事じゃないか」との鈴木社長の鶴の一声で無罪。

■案件2■

《作品》『釣りバカ日誌2』

《罪名》不正取引

《罪状》吉田建設 社長秘書(演:原田美枝子)と釣りを楽しむ様子の写真が新聞に掲載される。重役連中は世間が談合の証拠と騒ぐのを恐れて問題視。

《求刑》懲戒免職

《判決》無罪

《備考》本件は懲罰委員会より重い査問委員会扱い。配置転換案が出されるも、「あの男がいちばんこたえるのは、本社に残して出世コースに乗せること」との佐々木課長の進言と社長の裁量で、結局無罪。

■案件3■

《作品》『釣りバカ日誌3』

《罪名》業務妨害

《罪状》鈴木建設が西伊豆·星ヶ浦で進めていたリゾート開発。それに対する地元住民の反対運動にハマちゃんが加担。

《求刑》左遷、制裁人事

《判決》出社停止2週間(もちろん釣りに行きました)

《備考》稚内、奄美大島、北志賀、アラスカ、オーストラリア、バグダットと左遷先が挙がるも、「何がいちばん君にとって懲罰となるか。それは課長にすること」(佐々木課長)の意見に、いくらなんでもそれはムリ!ってことで、出社停止処分に。

■案件4■

《作品》『釣りバカ日誌5』

《罪名》業務妨害

《罪状》愛息·鯉太郎が社内で行方不明。営業三課総出で捜索し社内はパニックに。結局、1時間半に渡り会社の業務を止める。

《求刑》不明

《判決》左遷(丹後半島のスッポン養殖場)

《備考》左遷先に赴任直後、養殖場のスッポンが死滅したため、すぐに営業三課に復帰。

■案件5■

《作品》『釣りバカ日誌8』

《罪名》無断欠勤

《罪状》鈴木社長が遭難した同じ時刻同じ場所で釣りに興じる。しかもその期間は無断欠勤(1日)。

《求刑》解雇

《判決》無罪

《備考》佐々木課長の名演説「無用の用」論は懲罰委員会史上最高の見せ場。しかし、この程度で解雇とは、重役陣は短慮な気が……。

■案件6■

《作品》『釣りバカ日誌11』

《罪名》無断欠勤

《罪状》出張先の沖縄で同僚の宇佐美(演:村田雄浩)と海釣り中に暴風雨に遭い無人島に漂着。結果、4日間の無断欠勤。

《求刑》百叩き鞭打ち(「SMクラブかよ」ハマちゃん談)、島流し

《判決》「島流しは浜崎伝助にとって懲罰とならず。よって処分保留とする」

《備考》「伊豆七島、新島、式根島、八丈島、佐渡島、隠岐の島……」。島流しと聞いてハマちゃんテンションあげあげ。

■案件7■

《作品》『釣りバカ日誌12』

《罪名》無断欠勤

《罪状》萩で急死した元上司の高野さん(演:青島幸男)の葬儀にかこつけて12日間の無断欠勤(もちろん、うち10日間は釣り)。

《求刑》死刑(おいおい)

《判決》不明

《備考》今案件も査問委員会扱い。ハマちゃん史上2番目に長い無断欠勤。でも本人は「無断欠勤って、そりゃ心外だなあ。葬式の翌日にちゃんと課長に電話したじゃん」と不服の様子。

■案件8■

《作品》『釣りバカ日誌14』

《罪名》暴力行為(暴動扇動?)

《罪状》ハマちゃんの岩田営業三課課長(演:三宅裕司)に対する逆パワハラ疑惑からバッシング→暴動に発展。

《求刑》言及されず

《判決》社長あずかり

《備考》かつて助命嘆願(「釣りバカ2」)までしてくれた営業三課のOLたちだが、今回は一転してハマちゃん批判に。まあ濡れ衣なんだけど。

■案件9■

《作品》『釣りバカ日誌16』

《罪名》職場放棄、無断欠勤

《罪状》社長同伴の出張でありながら勝手な行動(もちろん釣り)を起こし、挙げ句は米軍艦船に誤乗しハワイに密航したことで日米関係にひびが入る可能性が。無断欠勤期間は最短でも2週間ほどか(過去最長?)。

《求刑》「考えうるなかで最悪の処罰を与える」秋山専務(演:加藤武)談→懲戒免職

《判決》「浜崎君がどんな人間であったにしても、我が社の仲間の1人に違いないんだ」からの「もうこれ以上庇い切れんよ」との鈴木社長最大級の温情で訓告処分

《備考》ハマちゃんハワイからの帰還に際し、出迎えて社歌を唱和する営業三課のチームワーク&愛社精神とハマちゃんの人徳に感涙す。

■案件10■

《作品》『釣りバカ日誌18』

《罪名》業務妨害

《罪状》鈴木建設が瀬戸内海で建設予定のリゾート施設への反対活動にハマちゃんが加担(裏でスーさんも)。

《求刑》言及されず

《判決》「(堀田常務の)新社長就任の授業料だと思ってあきらめよう」(鈴木会長)→一件落着

《備考》「案件3」と同様の訴状だが、今回は途中で鈴木建設の仕事とわかったハマちゃん。変装して反対活動に臨む。しかもその間、「原因不明の高熱で入院」と虚偽の休暇申請(バレていない模様)。

illust_2.svg

以上、ハマちゃんは「釣りバカ」シリーズ全22作で計10回懲罰委員会(査問委員会含む)にかけられてきた。

そこで俎上に載せられた問題行動の内訳は

・無断欠勤(4回)
・業務妨害(3回)
・虚偽申請(1回)
・不正取引(1回)
・暴力行為(1回)
・職場放棄(1回)

となる。

それに対し下された処分は、出社停止、左遷、訓告が各1回ずつで、その他はお咎め無し(うやむや?)。開かれた懲罰委員会の回数に比べると軽微か。

ハチ(演:中本賢)のセリフじゃないけれど「それでよくクビにならねえな」と誰も思うところだが……。

illust_12.svg

【ハマちゃんが自宅謹慎処分を受けたら、こっそり行きそうな釣りスポット その1】

「小名木川クローバー橋」(江東区)

アクセス:ハマちゃん宅(京急·北品川駅)~京急本線~都営浅草線経由、都営新宿線住吉駅下車徒歩15分(所要時間:50分)
獲物:ハゼ
ひと言:道具一式持って乗り換え2回、3線乗り継ぎはチト酷か。

※ハマちゃん宅所在地は連載第1回を参照のこと

止まらない円安、上がる物価、上がらない賃金……とかく世の中、暗い話題ばかり。そんな浮き世の憂さをスカーッと晴らしてくれるのがコレ!国民的喜劇シリーズ『釣りバカ日誌』!この連載では、「釣りバカ」鑑賞に役立つ基礎知識や、ちょっと役立つかもしれないはみ出し情報、たぶん滅多に役立たないであろうマニアックネタまで、大漁、豊漁、大物も雑魚も盛り合わせで直送します。初回は主人公·ハマちゃんの自宅の所在地がテーマ。どんな釣果が上がるかお楽しみ。とりあえずは元気に歩こうぜー!

検証:実社会ではハマちゃんクビか?

でも実のところ、ハマちゃんのこれらの問題行動は、クビ=懲戒解雇に相当するのだろうか。フィクションの世界を離れて、現実的な尺度で検証してみたい。

労働問題に詳しいある弁護士によれば、懲戒解雇に値する事項として、

1.業務上の地位を利用した犯罪行為をした場合(不正経理、架空取引など)
2.会社の名誉を著しく害する重大な犯罪行為(殺人、強盗、強姦など)
3.重大な経歴詐称
4.長期間の無断欠勤(例えば、対象者が正当な理由なく1ヶ月以上無断欠勤を続け、度重なる出勤命令も拒否し続けた場合)
5.重大なセクシャルハラスメント、パワーハラスメント
6.懲戒処分を受けても同様の行為を繰り返す

の6項目が一般的に考えられるのだとか。

これにハマちゃんの問題行動を照らし合わせると、懸案となりそうなのは、1項「無断欠勤」と6項「同様の行為をを繰り返している」ことだ。

illust_12.svg

【ハマちゃんが自宅謹慎処分を受けたら、こっそり行きそうな釣りスポット その2】

「佃小橋~相生橋付近」(中央区~江東区)

アクセス:ハマちゃん宅(京急·北品川駅)~京急本線~都営浅草線経由、都営大江戸線月島駅下車徒歩すぐ(所要時間:25分)
獲物:ハゼ、フッコ
ひと言:鈴木建設本社の比較的近所なので見つからないように(連載第3回参照)。

映画「釣りバカ日誌」シリーズは、釣りバカの2人が巻き起こす騒動だけののんきな物語ではない。スーさんが創業し、ハマちゃんが勤める鈴木建設という建設会社の汗と涙の物語でもある。その鈴木建設は、スクリーン上では平成時代の真っ只中を駆け抜けていった。令和の今に思う。平成とは何だったのか?鈴木建設の歩みを通して平成という時代を振り返ってみたい。まじめに。たぶん。

争点:無断欠勤、双方の主張

ハマちゃんの度重なる無断欠勤は、懲戒解雇に当たるか否か。人事部側、ハマちゃん弁護側、双方の言い分を想像してみよう――。

人事部側としては、上記1項6項を引き合いに出し、

「懲戒処分を受けても、その後も無断欠勤が繰り返されている」

と、懲戒解雇を主張。

一方、ハマちゃん弁護側、

「無断欠勤の合計は推定31日間あるが、1回ごとの欠勤日数はそのほとんどが短く目安の1ヶ月に満たない。出勤命令を拒否したわけでもない」

と反論を展開。

うーん、あらためてリーガルな観点からみてみると、ハマちゃんの懲戒解雇はボーダーライン上にあるってことか。

これに加えて、

○無断欠勤に至った理由(“誰か”を庇っているフシあり)
○営業三課における信頼の厚さ、および当人の組織の潤滑油としての存在価値
○独自の人的ネットワークを駆使し、たまに大口受注に貢献

といった点も酌量せねばなるまい。となると結論は……。

illust_12.svg

【ハマちゃんが自宅謹慎処分を受けたら、こっそり行きそうな釣りスポット その3】

「大井埠頭」(大田区)

アクセス:ハマちゃん宅(北品川)~徒歩15分~東京モノレール天王洲アイル駅~同・大井競馬場駅下車徒歩すぐ(所要時間:21分)
獲物:ハゼ、シーバス
ひと言:自転車のほうが便利かも。

判決:ハマちゃんのクビの行方は……?

ハイ!まとまりました!

判決を言い渡す。主文、被告·浜崎伝助の問題行動は懲戒解雇には当たらず!

ハマちゃんの無断欠勤は度重なるものであっても、1回あたりの日数は1ヵ月におよぶことはなく、その理由も著しく悪質なものとは言えない。よって他のペナルティならいざ知らず、クビにするような事案ではないと本稿では結論づける。

ゴリさん……もとい、原口人事部長(演:竜雷太ほか)ら重役連中は、さしたる根拠もないのに、やれクビだやれ解雇だと騒ぎ過ぎじゃないかい?ま、とにかく、よかったなハマちゃん!

「釣りバカ日誌」はハマちゃんが鈴木建設に勤めているからこそ成り立つ物語。ハマちゃんが勤続している限り「釣りバカ」は不滅なのだ。

illust_12.svg

【ハマちゃんが自宅謹慎処分を受けたら、こっそり行きそうな釣りスポット その4】

「多摩川・ガス橋付近」(大田区~川崎市)

アクセス:ハマちゃん宅(京急·穴守稲荷駅)~京急蒲田駅~徒歩10分~東急多摩川線蒲田駅~同・下丸子駅下車徒歩15分(所要時間:26分)
獲物:テナガエビ
ひと言:ハマちゃん宅からハチの船で多摩川を遡(さかのぼ)るのも一興か。

【ハマちゃんが自宅謹慎処分を受けたら、こっそり行きそうな釣りスポット その5】

「野島公園」(横浜市金沢区)

アクセス:ハマちゃん宅(金沢シーサイドライン野島公園駅)すぐ
獲物:アジ、カワハギ、クロダイ、スズキ、カサゴ
ひと言:ほとんどハマちゃんちの庭だね。

文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ 情報提供=「ソウル釣りクラブOB」「No Fish No Sake」(ともに釣り愛好グループ)ほか素晴らしき釣りバカたち