最近は浦和の増田屋(閉業、埼玉県さいたま市浦和区高砂2-12-5)の閉業が話題になったが、東京と同じく埼玉県のおでん種専門店も減りつつあり、現役のお店は希少な存在になっている。丸成かまぼこ店もそのひとつだが、店主によると2023年を目処に閉業を予定しているそうだ。

南浦和で50年以上営業を続ける丸成かまぼこ店

京浜東北線と武蔵野線が乗り入れるJR南浦和駅。繁華街がある浦和駅からひとつ隣の駅になるが、住宅街が広がっていて落ち着いた雰囲気が漂っている。

改札を出て西口へ進み、今回の目的地である丸成かまぼこ店へ向かう。駅前からバスを利用してもいいが、徒歩10分ほどの距離なので景色を楽しみながら歩いて向かうといいだろう。

住宅街を進んでいくと、料理店や衣料品店が集まる一角にたどり着く。丸成かまぼこ店はこれらのお店に並んで営業している。かつてこの辺りは南浦和駅を利用する人々が行き交っていたため、商店も多かったという。

丸成かまぼこ店は1970年創業で、50年以上同じ場所で揚げ蒲鉾やおでんを作り続けている。手づくりのおでん種だけでなく店頭で調理するおでんも販売している。

正面のショーケースには揚げ蒲鉾をはじめとしたおでん種だけでなく、お惣菜や果物、納豆やカップ麺まであらゆる食材が陳列されている。周辺には食料品店が少ないため、まとめて買い物ができるのは便利かもしれない。

お惣菜はかぼちゃの甘辛煮やきんぴらなどが揃う。あたたかみのある手づくりの風合いが魅力的で、おでんと一緒に味わってもよさそうだ。

揚げ蒲鉾は丸成かまぼこ店の手づくりで、訪れたときは野菜天や紅生姜天など6種類ほどが並んでいた。かつてはショーケースがいっぱいになるほど大量に作っていたが、常連客が少なくなったことや原材料の価格高騰、仕入れ先の減少などさまざまな理由で減らしたのだという。

揚げ蒲鉾以外のおでん種も揃っている。ちくわぶは北区志茂の川口屋、こんにゃくは埼玉県川越市の工藤商店、結びこんにゃくは大分県のせんしん、はんぺんは千葉県銚子のダイマル食品、がんもどきは茨城県のハギワラだった。

丸成かまぼこ店は自宅調理用のおでん種だけでなく、店頭で調理したおでんも購入できる。揚げ蒲鉾のほか、大根や玉子、焼ちくわやこんにゃくなど種類が豊富だ。1970年の開業当時から提供を開始し、季節を問わず年間通して味わうことができる。

おでん汁は透き通った色合いが美しい。出汁は鰹節がメインとなるが、揚げ蒲鉾などから出るうまみと相まって深みのある味わいとなっている。大根は朝から仕込んでおり、しっかりと味が染みている。

お店の前で味わえるが、ほとんどのお客さんはお持ち帰りするらしい。その場で食べるお客さんは年に数える程度だというが、地元のイベント向けに発泡容器やお箸を用意してあるので問題ないという。

お店の奥には立派な木製の看板が掲げられていた。中央に「丸成支店」の文字があり、関係のあるお店の屋号がいくつも取り囲んでいる。丸成かまぼこ店は増田屋会(記事「増田屋の系譜」を参照)に属しており、東京や埼玉の増田屋各店や中板橋の太洋かまぼこ店、以前紹介した川口の港屋かまぼこ店などの名前が確認できた。

丸成かまぼこ店の店主は南浦和で開業する以前は看板の中央上にある「滝野川 丸成」で働いていた。滝野川の丸成蒲鉾店は飛鳥山近くの明治通り沿い(北区滝野川1-58-3)で営業していたが、店主は「丸成」の屋号を受け継ぎ、暖簾分けで独立したようだ。

丸成かまぼこ店のおでん種

店主にお話をうかがいながら店頭でおでんを味わいつつ、自宅用に5種類のおでん種を購入した。

時計回りに右上から、野菜天、ごぼう巻、ほたて巻、ウインナー巻、紅生姜天。じつは餃子巻も購入して全種類揃える予定だったが、手違いでウインナー巻が2個となった。本記事で紹介できないのは残念だが、再び訪問する機会が得られたのは嬉しいことだ。

大根やこんにゃくなどのおでん種を煮たら、最後に揚げ蒲鉾を投入する。弱火で15分程度温めたら完成だ。一晩冷蔵して味を染み込ませるのもいいが、揚げ蒲鉾のうまみが汁に逃げすぎないように注意しよう。

ホタテ巻は魚のすり身に帆立が入った贅沢なおでん種だ。帆立のうまみがぐっと凝縮されており、魚のすり身との相性も抜群だ。

野菜天は人参やもやしが混ぜ込んであり、やさしい甘さとしゃきっとした食感が心地よい。大きめのつくりになっているので、半分に切って調理してもいいだろう。

紅生姜天も野菜天と同じくらいの大きさで、非常にボリュームがある。紅生姜の爽やかな風味がアクセントとなり、魚のすり身の美味しさを引き立てている。

ウインナー巻はウインナーのまろやかな味わいが懐かしい。子どもも大人も楽しめるが、からしをつけて味を引き締めてもいいだろう。

ごぼう巻は定番ながら、丁寧な仕事ぶりで上品な味わいとなっている。ごぼうは厚めで独特の風味がしっかり残っており、魚のすり身とのバランスもちょうどよい。

丸成かまぼこ店の店主は南浦和で50年以上おでん種を作り続けてきたが、2022年で80歳になったこともあり、2023年にはお店を閉めようと思っているという。

埼玉県のおでん種専門店は数を減らし、地元民にとって現役で営業するお店は貴重な存在ではあるが、時代の流れには逆らえない。せめて閉業までは足繁く通って、店主の味を記憶にとどめておきたいものだ。筆者も今回食べ逃した餃子巻を求めに再訪したいと思っている。

丸成かまぼこ店の基本情報

丸成かまぼこ店
〒336-0025 埼玉県さいたま市南区文蔵2-9-13
048-861-7293
定休日:月
営業時間:8:00~20:00

取材・文・撮影=東京おでんだね