感謝の気持ちを胸にカツカレー発祥の店へ急ぐ

みんな大好きカツカレー。考えた人にお礼を言いたい。
みんな大好きカツカレー。考えた人にお礼を言いたい。

カツカレー。この言葉を聞くたびに、筆者の大好物であるカレーライスとカツレツを一度に楽しむことができる夢のようなメニューに胸が躍る。なにより、カレーの上にカツレツをのせる、という昭和のメニューらしいわかりやすさがいい。

以前から、このメニューを考案した人へ、カツカレーをいただけることへの感謝の気持ちを伝えたいと思っていたが、銀座にカツカレー発祥の店があるというのを聞き、さっそく、そのお店へ向かうことにした。

そのお店は『銀座スイス』。銀座駅から徒歩3分の場所にある老舗の洋食店だ。いつもなら、のんびりと銀座の街並みを眺めながら店へ向かうところだが、ランチメニュー『元祖カツカレーセット』は毎日限定20食で、開店早々に売り切れになる日も多いそう。自然と足取りが早くなる。

『銀座スイス』は銀座駅から徒歩3分、銀座ガス灯通り沿いにある。
『銀座スイス』は銀座駅から徒歩3分、銀座ガス灯通り沿いにある。
食品サンプルが目印。このウィンドウこそ洋食屋さんのシンボル。
食品サンプルが目印。このウィンドウこそ洋食屋さんのシンボル。

店に到着。店頭にある食品サンプルを確認し、期待を胸に階段を2階へ。店に入ると右側には厨房とカウンター席。正面にはテーブル席が並ぶ。個室もあり、お一人様からカップルやグループ、さらにパーティーまで、さまざまな形で利用できそうだ。

白いテーブルクロスとシックな装飾品。ステンドグラスにも注目したい。
白いテーブルクロスとシックな装飾品。ステンドグラスにも注目したい。
2022年2月に現在の店舗へ移転。カウンター席もあって、お一人様でも利用しやすい。
2022年2月に現在の店舗へ移転。カウンター席もあって、お一人様でも利用しやすい。

「創業者である岡田進之助は、戦前に日本の西洋料理の礎を作った麹町の「宝亭」や首相官邸で料理長をつとめた人でした。戦後、当時は高価だった洋食を多くの人に食べてもらいたい、との思いで、1947年にグリルスイスとして開店しました」とお店の歴史を教えてくれたのは、3代目ママの庄子あけみさん。

庄子あけみさんは創業者から数えて3代目。気配りと丁寧な接客は、まさにお客さま第一主義。
庄子あけみさんは創業者から数えて3代目。気配りと丁寧な接客は、まさにお客さま第一主義。

「創業当時の日本では、緑豊かで永世中立国であるスイスは憧れの存在でした。激動の時代を経験した創業者の進之助の平和への思いから、グリルスイスと命名しました」と店名の由来も教えてもらった。

ランチ限定メニューの元祖カツカレーセットをいただく

ランチメニューの元祖カツカレーセットは限定20食。カップスープとサラダがつく。
ランチメニューの元祖カツカレーセットは限定20食。カップスープとサラダがつく。

それでは、さっそく元祖カツカレーセット1430円を注文。今回はなんとか間に合ったが、日によっては開店前の行列で完売することもあるそう。元祖カツカレーセットを狙っている人は、早めの来店をおすすめする。

ランチメニューには他にもハンバーグやミックスフライセットなど魅力的な洋食メニューが用意されている。
ランチメニューには他にもハンバーグやミックスフライセットなど魅力的な洋食メニューが用意されている。

カツカレー誕生のストーリーを庄子さんに聞いた。「1948年当時、常連客だったプロ野球巨人軍の名二塁手である千葉茂氏が、お腹がすいてたくさん食べたいし、早く食べたい、ガツンと一気に食べたい、と思いついたのが、カレーライスにカツレツをのせて食べる、というものでした」。意外と食いしん坊(失礼!)なエピソードで、さらに親近感と期待が湧いてきた。

待ちに待ったカツカレー。このカレーとカツレツの茶色の微妙な色合いのバランスがたまらない。
待ちに待ったカツカレー。このカレーとカツレツの茶色の微妙な色合いのバランスがたまらない。

まずはサラダとカップスープから。サラダはシャキシャキ野菜とクリーミーなドレッシングでカレーとの相性もよさそう。カップスープは、こだわりのあさりとベーコンのポタージュスープ。スープについては後ほど触れたい。

まもなく、待望の元祖カツカレーと対面。さっそく、ひと口いただくと、辛さもスパイスも控えめで、とろりとする食感。口の中にまろやかな風味と深みのある味わいが広がる。洋食屋さんらしい安定感のあるおいしさだ。

このカレーソースは、ひき肉と玉ねぎや人参、りんご、生姜などの野菜を、2週間もの時間をかけ、とろけるまで煮込んでまろやかさを出しているそう。小麦粉は使っていない。先代から受け継いだレシピをしっかりと守り、伝統の味を継承している。

カレーの上にロースカツレツがのる。そして洋食屋さんのカレーには福神漬が欠かせない。
カレーの上にロースカツレツがのる。そして洋食屋さんのカレーには福神漬が欠かせない。

揚げたてのポークカツレツは衣がサクサク。カレーソースにからめて食べると、豚肉の脂と混ざりあい、独特の風味が楽しめる。ひき肉と野菜で煮込んだカレーはカツレツの味の引き立て役にもなっている。カレーとカツレツの両方の完成度の高さが、絶妙なバランスを生み出しているのだ。

念願の元祖カツカレーは予想を上回るおいしさで、まさに、カレーとカツレツと筆者の運命的な出会いを感じるひとときだった。

営業時間中いつでも注文できる千葉さんのカツレツカレー。元祖カツカレーセットが品切れだった時やランチ以外の時間にはこちらをどうぞ。
営業時間中いつでも注文できる千葉さんのカツレツカレー。元祖カツカレーセットが品切れだった時やランチ以外の時間にはこちらをどうぞ。

創業から変わらない老舗のこだわり絶品スープにも注目する

すべての食事メニューについてくるあさりとベーコンのポタージュスープも、老舗の洋食店らしいこだわりの一品だ。カップで出されるので、気軽にいただける。あさりの深みのあるコクとベーコンの控えめな香ばしさが相性ぴったりだ。サイドメニューにも隙がない。

老舗のプライドを感じるこだわり満載のスープ。一口いただくと幸せな気分が広がるおいしさだ。スープのおかわり220円。
老舗のプライドを感じるこだわり満載のスープ。一口いただくと幸せな気分が広がるおいしさだ。スープのおかわり220円。

使っているベーコンは、先代から受け継いだ味を変えないよう、長年同じ製造業者から仕入れている。ほかのベーコンでは、同じ味は出せないそう。また、ポタージュスープに欠かせないエバミルクも、ずっと同じ銘柄を使い続けているという。そのほかの食材ひとつひとつにもこだわり、創業から続く味を守り続ける。これこそ老舗洋食店のプライドといえるだろう。

特別な日に注文したい、シーフードをトッピングした昭和のグラタン2640円。老舗の洋食屋さんらしい一品だ。
特別な日に注文したい、シーフードをトッピングした昭和のグラタン2640円。老舗の洋食屋さんらしい一品だ。

庄子さんにカツカレー以外でおすすめのメニューを聞いた。「昭和のグラタンです。名前のとおり、昭和のレシピをそのまま再現しています。グラタンが焼き上がるのを待つ間に、洋食屋さんのシュウマイ660円をつまみに生ビールを一杯、というのが人気です」。

洋食屋さんにシュウマイは、ちょっと珍しい。上にのっているのは、グリーンピースではなくベーコンの角切り。
洋食屋さんにシュウマイは、ちょっと珍しい。上にのっているのは、グリーンピースではなくベーコンの角切り。

元祖カツカレーとの対面に興奮して、今回の目的である感謝の気持ちをお店へ伝えるのを忘れてしまった。ということで、また近いうちに来る理由ができてしまった(笑)。次回は、しっかりと感謝の気持ちを伝え、その後に、カツカレーとおすすめのシュウマイ、ビールを注文しようと心に決め銀座を後にした。

住所:東京都中央区銀座3-4-4 大倉別館2F/営業時間:11:00~15:00・17:00~20:30LO(木・金・土・日は11:30~20:30LO)/定休日:無/アクセス:地下鉄線銀座駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎