一度は閉店するも、『裏なかみ家』として再びオープン!
品川の港南口を出てすぐのところにある路地裏に飲食店がひしめく横丁があり、酒とタバコと男と女の怪しいニオイが漂っている。不揃いのドブ板で足場が悪いところがあるのもご愛敬、そして駅前のはずなのに入り組んでいてなかなか出られない大魔境。東京中の方向音痴が「恐ろしや〜!」と嘆く酒場天国である。筆者はGoogle MAPのおかげですぐ到着できたが、丸腰では絶対にたどり着けない自信がある。
そんな横丁に佇む古民家風の居酒屋『裏なかみ家』は、2017年オープンした。とはいっても、品川駅から少し離れている場所だったそう。店主の松本明さんに聞いた。
「もともとは、ホルモンや食肉の卸をやっているハリヤ食品という会社がここからほど近くの港港南郵便局のあたりにあって、ハリヤ食品のビルの1階で居酒屋の『なかみ家』を経営していたんです。僕はそこで5代目の店長として働いていました。そこそこ人気がある店だったんですけど、2018年4月ビルの売却と同時に閉店することになっちゃったんです」。
同時に、店のスタッフも解散。以降はそれぞれ別の場所で働いていたそうだ。店の売上は好調だったので、閉店してしまったことには不完全燃焼の気持ちがあった。
松本さんがさらに続ける。「ところが半年くらい経った頃、知り合いから今の場所が空いているという情報を得て、2018年の12月には『裏なかみ家』としてオープンすることになり、当時のスタッフを再招集しました」。
かくして、『裏なかみ家』の新しいストーリーが始まった。今の常連さんの半分は以前の店にも来ていた人たちだという。
ポークの旨味がギッシリ。五香粉をかければ台湾テイストが爆上がり! 辛ウマの麻辣ルーロー飯
ランチメニューは3つのテイストのルーロー飯と温玉チャーシュー丼のみで、毎日50食限定。売り切り御免のため、営業時間内でも店を閉めてしまうこともしばしばだ。
「オーダーするときはまず、社食のように一列に並びます。ベースのメニューとご飯の量を決めたら、ごはんのうえにルーローをかけるので、お好みのトッピングや単品のおかずを選び会計をします」と松本さん。ひとりずつ提供するのは、できるだけアツアツを食べて欲しいという想いから。ルーロー飯は脂が多いので冷めると味が落ちてしまうのだ。
本場は牛バラ肉を煮込んだものだが、こちらはひき肉を使用している? 松本さんに尋ねてみた。「うちは、豚のほほ肉、カシラ、腕をひき肉にしたものを醤油ベースの調味料で煮込んでいます。いやね、店で出す前に店のスタッフみんなで台湾へルーロー飯を食べに行ったんですよ。でも…、現地の…、おいしくなかった…。だったら日本人の口に合うように東京式ルーロー飯でいいじゃないかと、この味になりました」。
トッピングにもセンスが問われる。松本さん、どんなものが人気なんですか? 「好きなものでいいんですよ(笑)。カレールーローならチーズやトマトソース(夏季のみ)、麻辣ルーローならパクチーやキムチが好評ですね」。
好みで五香粉(無料)をかければ台湾チックなテイストに。仕上げにマヨネーズをかけて完成だ。
食事は2階でする。階段が急なので店のスタッフが運んでくれる。2階にはドリンクバーがあり、好きなものを好きな分だけ飲める。
まんべんなく混ざったところで、いただきまーす! 醤油ベースで甘辛く味つけられたこちらのルーローは豚挽肉を使用。シャキシャキのネギや酸味と塩気、独特の香りを出す高菜や紅生姜が巧みなジャブを繰り出す。五香粉のスパイシーさがルーロー飯の本場・台湾の風を運んでくるなあ!
ルーロー飯のトッピングやスパイス、組み合わせるおかずまで自分なりにカスタムできるのは楽しい! 職場にお弁当を食べられるスペースがあるなら、テイクアウトはもっとお手頃に食べられる。ちなみにエコバッグを持ってくると、おかずが1品サービスになってさらにお得。
夜は本気でおいしいメニューを取り揃え! 新鮮で安いホルモン料理を提供
『裏なかみ家』は、かつて同じビルで営業していた食肉問屋のハリヤ食品から朝じめの新鮮なホルモンや食肉を仕入れている。肉好きにはたまらないレアな部位や肉が入荷されることもあり人気があるのだ。
「お客様にはできるだけ安くおいしいものを提供したいんです」。夜のメニューは日替わりで品数も少ないが「本気でうまいものだけしか出さない!」と松本さん。
以前は50種以上のメニューを取り揃えていたが、毎日のこととなると調理スタッフには負荷がかかりすぎる。それならメニューを整理して、確実に売上があがるものだけを出せば十分ではないかという考えに至り、定番+10数品を提供している。「品数ではなくて安くてうまいもので勝負しています! 品川価格で比べたら、この品質でこんなに安いの?と驚かれると思いますよ」と胸を張る。
なんでもあるお店は便利だが、どこでも食べられる定番の味なら品川でなくてもいい。安くてウマいのは最強じゃないか! それこそ、わざわざ品川で飲む意味があるってもんさ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢