外から店内が見えず好奇心がムクムク。一歩入ればイタリアンモダンなオシャレ空間。

北品川駅を出ると、かつては東海道と呼ばれた北品川商店街に出る。周囲の風景からは想像もできないが、その昔、すぐそこは海だったそう。取材当日は風が強く、どこからともなく潮風が薫ってきて確かにここにはエビやアジも泳いでいたのかもな、と実感。そんなことを考えていたら『Ab・de・F』に到着した。すると思わず「え、ココがお店なの?」と絶句してしまった。

外が見えず、ミステリアスな雰囲気がムンムン。それがかえって好奇心をかきたてる。エビのアイコンが目印だ。
外が見えず、ミステリアスな雰囲気がムンムン。それがかえって好奇心をかきたてる。エビのアイコンが目印だ。

見ようによってはお姉さんがお酌してくれる大人の酒場のようにも見える……。ドキドキしながらランチメニュー表を見てみると、エビフライを軸にいろんなフライが手頃な値段で食べられそう。何より、エビ好きとしては見逃せないお店だ。

文字通り好きなものを組み合わせられるおこのみメニューと、あらかじめ決められたセットメニューがある。
文字通り好きなものを組み合わせられるおこのみメニューと、あらかじめ決められたセットメニューがある。

店の中に入ると、イタリアンモダンなおしゃれ空間が広がっていた。まさか庶民的な商店街にこんなお店があるなんて!

『Ab・de・F』は、オーナーの福原有一さんが、「昔、品川で食べたエビがとてもおいしかった」という資生堂の創業者でもある曽祖父・有信氏の逸話からインスピレーションを受け、2019年北品川に店をオープンすることになったとか。

高級感のある店内。オープンキッチンを望むカウンター席のほか、テーブル席や個室も完備している。
高級感のある店内。オープンキッチンを望むカウンター席のほか、テーブル席や個室も完備している。

ポカンと立ち尽くしていると店長の坂昌樹さんが声をかけてくれた。

「外からは店の中が見えないので驚いたでしょう? 当店では、東京湾をはじめ国内外で獲れるおいしいエビフライはもちろんのこと、さまざまな趣向を凝らした料理がお楽しみいただけますよ。ランチはエビフライ1尾からオーダーが可能です。有信さんがその昔食べたという、品川沖で獲れた大きなエビは格別においしかったそうですよ」。

和食一筋で腕を磨いてきた店長の坂さん。
和食一筋で腕を磨いてきた店長の坂さん。

和、洋、中さまざまな料理が数多くあるものの、なぜかあまりメジャーになれないエビ。今日はとくと満喫させていただこう。

エビフライを軸に旬の素材が楽しめる、本日の3点盛フライ

テーブルに着くと、メニューが書かれた紙とペンが置いてある。そこにオーダーを書き込んで注文をするというスタイルだ。季節のフライはタイ、サーモン、イカ。どれも大好きです、ハイ。

本日の3点盛1430円にはアジフライがある。店長のおすすめのタネが3点揃ってコスパがいい。これに決めた!
本日の3点盛1430円にはアジフライがある。店長のおすすめのタネが3点揃ってコスパがいい。これに決めた!

ランチメニューはセットメニューとおこのみメニューの2パターン。おこのみメニューはごはんセット330円プラス、フライやカツ(330円~3410円)の中からお腹の減り具合とお財布の都合を考慮しながら好きな分だけ注文できる。今回は、エビフライのほか日替わりのタネ2種類とごはんがセットになったメニュー、本日の3点盛フライをオーダーした。なんてったって、大大大好物のアジフライがあるし!

すると、店長の坂さんがさっそく調理に取り掛かる。「うちはパン粉や油にもこだわっているんですよ」と語りながら手際よく調理していく。

タンパク質が豊富なフライ専用の打ち粉を使用。
タンパク質が豊富なフライ専用の打ち粉を使用。

「打ち粉には国産の上質な小麦粉に粉末状の卵白をブレンドし、フライ専用のものを特注しています。心なしかパン粉がタネにしっかり付くような気もしますね。とき卵は茨城県産の最高級卵・奥久慈卵、パン粉はミシュラン2ツ星の名店も使用する中屋パン粉謹製の特注エビフライ用パン粉を使用しています」。

エビをはじめとしたタネも毎日、新鮮なものを仕入れて手作業で下処理をする。材料にもひとつひとつ吟味しているのだ。

やや細かいパン粉がエビフライ用。ヒレカツなど肉類のカツには粗めのパン粉を使う。
やや細かいパン粉がエビフライ用。ヒレカツなど肉類のカツには粗めのパン粉を使う。
まんべんなくパン粉をまとったエビちゃん。いざ油の中へ。
まんべんなくパン粉をまとったエビちゃん。いざ油の中へ。
ラードと綿実油をブレンドした175度の油で揚げられる。「この油と温度で揚げるとエビフライの風味や旨味が増すんです」と坂さん。
ラードと綿実油をブレンドした175度の油で揚げられる。「この油と温度で揚げるとエビフライの風味や旨味が増すんです」と坂さん。

無心に写真を撮り、メモをしていると本日の3点盛が運ばれてきた。待ってました!

「エビ反りとはこういうものです」と注釈を付けたくなるほど美しいポーズのエビフライ。その上はアジフライが2尾、さらにその奥にサーモンがある。
「エビ反りとはこういうものです」と注釈を付けたくなるほど美しいポーズのエビフライ。その上はアジフライが2尾、さらにその奥にサーモンがある。
まずはエビフライから。レモンを絞っていただきまーす。
まずはエビフライから。レモンを絞っていただきまーす。

まずはエビフライにレモンだけかけてパクリ。レモンの香りと酸味がエビの旨味を引き立てて本来の持ち味を堪能できる。次に、自家製のタルタルソースでひと口。じっくり味わいながら噛み締めていると、坂さんから「タルタルソースと卓上のソースを両方かけてみてください。これがまたよく合うんですよ!」とアドバイスが。ふたつのソースのコクと酸味でご飯が進む。

この日のアジは2尾。大きさにより1尾になることも。産地は日によって変わる。ちなみにこの日は千葉県産。鮮度がいいから身がフワフワで、ほどよく脂も感じられた。
この日のアジは2尾。大きさにより1尾になることも。産地は日によって変わる。ちなみにこの日は千葉県産。鮮度がいいから身がフワフワで、ほどよく脂も感じられた。

店長の坂さんが続ける。「このオリジナルソースは、専用の木桶で寝かせた中濃ソースと完熟ソース、香辛料をオリジナルブレンドで仕込み、追い鰹ならぬ追いリンゴをしているんです。だからフルーティでしょう?」。

確かに。ふわっと香るフルーツの風味や甘み、酸味があり、フライをあっさり食べられる。新潟・魚沼産のコシヒカリと千切りキャベツはおかわり自由だ。

フルーティーなソースはエビフライはもちろん、アジやサーモンのフライにもぴったり。
フルーティーなソースはエビフライはもちろん、アジやサーモンのフライにもぴったり。

サーモンフライも、ほくっとした食感でペロっと食べてしまった。揚げ物と相性のいいシャキシャキの千切りキャベツも見逃せない。卓上の自家製ドレッシングをたっぷりかけてモリモリ食べると油で疲れた口の中がスッキリ。

卓上のドレッシングもオリジナル。右はコクのあるゴマのドレッシング、左はあっさりめのゆずドレッシングだ。
卓上のドレッシングもオリジナル。右はコクのあるゴマのドレッシング、左はあっさりめのゆずドレッシングだ。

夜はエビづくしのコース料理で心ゆくまで

お手頃ランチに満足したので『Ab・de・F』の真骨頂、夜のコース料理でエビ三昧を夢見る筆者。コースは4840円、5500円、6600円があり、内容は海老のビスク(スープ)、前菜、ブルータスサラダ、エビフライ、海老そば、本日のデザート。エビフライのエビの種類によって値段が変わる。デザート以外はすべてエビ料理だ。また、ランチでも提供している魚介類のフライやカツ、一部にはお肉料理も含むアラカルトメニューも充実している。

長さ約30cm、重さ約250gの特大サイズ、皇帝エビのリトルジョン。お皿からはみ出すほど大きい!
長さ約30cm、重さ約250gの特大サイズ、皇帝エビのリトルジョン。お皿からはみ出すほど大きい!

「エビフライのエビはそれぞれのコースによって異なり、4840円にはロビン(大海老2尾)、5500円にはマリアン(車海老3尾)、6600円には当店自慢の特大サイズの皇帝エビ・リトルジョンをご提供しています。それぞれの名前は童話『ロビンフッド』の登場人物になぞらえているんですよ。そのほか、ご来店の2日前までにご予約いただければ、国産天然大車海老(2尾)5500円〜や伊勢海老400g13200円~もご用意できます」と坂さん。

約8名収納可能な個室も完備。人数は応相談、要予約。
約8名収納可能な個室も完備。人数は応相談、要予約。

うれしいことがあったハレの日には、気の置けない友人や家族と個室で人目を気にせず食事をするのもいい。たまにはこんな贅沢をして自分を甘やかしてあげたいものだ。

住所:東京都品川区北品川1-22-15/営業時間:11:30~13:30LO・17:30~20:30LO/定休日:水/アクセス:京急電鉄本線北品川駅から徒歩2分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢