原料と製法にこだわり続ける、蒲田の樋川商店

蒲田は大田区の南側に位置し、都内でも最南端の繁華街として有名だ。東急プラザやグランデュオ蒲田といった商業施設や長いアーケードが続く蒲田西口商店街などがあり、いつ訪れても活気にあふれている。

今回紹介する樋川商店は蒲田駅の西口もしくは南口から1.3kmほど南に下った場所にある。徒歩だと16分ほどかかるので、東急バスの六郷土手行(蒲01)を利用するといいだろう。

樋川商店はこんにゃくや白滝、ところてんなどを製造し、量販店や飲食店、学校給食などへの卸販売をメインにしているが、一般消費者向けに工場(こうば)で小売も行っている。おでん種専門店では、目黒区の柳屋蒲鉾店や世田谷区尾山台の武田惣菜店などで樋川商店の商品を手に入れることができる。

樋川商店の商品は用途に応じて35種類以上を揃えているが、工場入口では10種類前後の商品紹介が貼り出されていた。目的の商品が見当たらない場合は、お店の方に販売してくれるか聞いてみるといいだろう。

商品はすべて原料や製法にこだわっているが、なかでも「缶蒸しこんにゃく」は大田区が主催する「おおた商い・観光展」において2016年に「おおたの逸品」に選ばれた珠玉の品だ。

「缶蒸しこんにゃく」は群馬県下仁田の契約栽培農家の最高級蒟蒻芋粉のみを使用し、昔ながらの伝統的な「缶蒸し製法」でつくられている。缶蒸し製法とは、こんにゃくのりを缶のなかで低温で長時間かけて仕上げるもので、アクが抜けて臭みがなくなり、弾力もよくなる。また、缶蒸しこんにゃく以外のこんにゃく製品は、「大造(おうど)製法」が用いられている。「大造製法」は大型の枠にこんにゃくのりを流し込んで、熟成後に切り分けて熱湯で煮る製法だ。こちらも手間がかかるが臭みがなく、美味しく仕上がるという。

多くの商品は量販店などでも購入できるが、せっかくなので工場直売限定のものを購入してみよう。生ところてんは夏季のみの販売で、保存料や保存酢を使用していない。

この生ところてん以外に三杯酢やふりかけ、からし、フォークがセットになったパックの商品もあるが、どちらも伊豆七島産の天草を使用している。伊豆七島産の天草はコシと粘りが強く、品質は随一といわれている。なお、生ところてんでも三杯酢のたれを別売りしているので、自宅ですぐに味わえる。

商品説明をしばらく眺めていると扉が開き、おかみさんに接客していただいた。工場は床が滑るため、足を踏み入れるのは厳禁だ。

樋川商店は1959年に創業して以来、蒲田の同じ場所で営業を続けている。荒川区南千住の六幸食品とは親戚筋にあたるそうだ。

現在は二代目とともに、おかみさんのご子息にあたる三代目も活躍されている。とりわけ三代目はインターネット販売やSNSによるプロモーション活動を精力的に行っており、「Yahoo! ショッピング」では白滝カテゴリーでデイリーランキング1位を何度も獲得している。また、LINE公式アカウントもあり、注文やお問い合わせができるようになっている。

風味や弾力は段違い、樋川商店のこんにゃくと白滝

おかみさんにお話をうかがいつつ、おでん用プラスアルファで5点ほど手に入れた。

左からちくわぶ(瀬間商店のもの)、缶蒸し刺身こんにゃく、缶蒸しこんにゃく、生ところてん、手巻白滝。刺身こんにゃくはおかみさんのご好意で「不揃いで商品に向かないから」とおまけしていただいたものだ。

缶蒸しこんにゃくと手巻白滝、ちくわぶはおでんの具として調理を行った。こんにゃくと白滝はアク抜きが不要なので手軽に調理することができた。

缶蒸しこんにゃくは非常に弾力があって、こんにゃく独特の歯ごたえも心地よい。臭みはまったくないが、こんにゃく本来の味や香りがほのかに感じられる。

肉厚ながら、おでん汁も短時間でしっかりと染み込んでくれる。これだけの存在感であれば、味噌田楽にしても美味しいだろう。

手巻白滝は職人がひとつひとつ丁寧に巻いたものだ。成人男性のにぎりこぶし以上の大きさで、白滝は切られていないため非常に長い。自分で巻きたい場合は長さを調節できるので非常に重宝する。

白滝の巻き方に関しては「おでんの白滝の結び方・巻き方」を参考にしてほしい。

群馬県産の特等粉のみを使用しており、1本1本に弾力があって口のなかで次々と弾ける。白滝の食感を楽しむのにちょうどよい太さでありながら、おでん汁もしっかり抱き込んでくれる。

ちくわぶは世田谷区の仙川駅近くにある瀬間商店(世田谷区給田3-16-12)のものだ。瀬間商店もこんにゃくメーカーであり、商品は東京のおでん種専門店でもよく見かける。

ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんの著書「ちくわぶの世界」によると、瀬間商店は創業した1954年頃からちくわぶを作り続けている。ちくわぶの真空包装を実現したはじめての企業でもある。

グルテンの多い小麦粉を使用しているだけあり、煮崩れしにくく、しっかりとした食感となっている。そのため、ゆっくり時間をかけてちくわぶを育てる楽しみがある。

生ところてんは伊豆七島の天草を開放釜でじっくり煮出して完成させただけあり、非常に風味豊かで弾力もしっかりしている。

冷やしたところてんを軽く水切りし、三杯酢をかけて炒り胡麻を散らし、お湯で溶いた粉からしをのせれば完成だ。ほのかな磯の香りとつるりとした食感を楽しめ、暑い季節にぴったりの料理である。

刺身こんにゃくは板こんにゃくと同様に、缶蒸し製法のものと通常のものの2種類がある。つるりとした喉越しのこんにゃくは海苔の風味が相まって、非常に上品な仕上がりとなっている。包装前のフレッシュなものが手に入るのも、工場直売の大きな魅力のひとつだ。

樋川商店は原料を厳選し、創業以来変わらぬ伝統の製法でこんにゃくやところてんを作り続けている。これら製造者のこだわりは消費者に伝わりづらいものではあるが、若き3代目の新たな挑戦によって広く深く伝わっていくことだろう。樋川商店のWebサイトでは原料や製法が詳しく掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。また、Instagramでは取扱店なども紹介しているので、興味のある方はこちらもフォローするといいだろう。

樋川商店の基本情報

樋川商店
〒144-0054 東京都大田区新蒲田3-27-21
03-3739-3101
定休日:日・祝
営業時間:9:00~17:00

取材・文・撮影=東京おでんだね