花に囲まれた隠れ家のような花カフェにはWi-Fiも
“Cachette”とはフランス語で隠れ家を意味する。『Cachette de meguro』があるのは、目黒駅と恵比寿駅の間にある高級住宅街の一角。すぐそばに首都高2号目黒線が走っている。人通りが多いとは言えない静かな場所で、隠れ家という名前がぴったりだ。
たくさんの花やグリーンに囲まれた店内は、ペット連れもOK。Wi-Fiや電源まで完備されているので、在宅ワークや勉強することを目的に、店内でゆっくり過ごす人も多いという。
『Cachette de meguro』が花カフェとしてオープンしたのは2021年10月のこと。店主の佐々木愛(ささきあい)さんは、それまでは店舗を持たない花屋さんだった。なぜなら、一般客に小売りをする町のお花屋さんではなく、イベントやお祝いを目的に注文を受けたアレンジメントなどを企業や飲食店に配達する仕事を主に行ってきたからだ。
ところがコロナ禍でイベントは軒並み中止。飲食店も大きく影響を受け、さらに渋谷区神宮前にあった当時のアトリエを立ち退くことになるなど、苦しい状況が続いた。しかし、捨てる神あれば拾う神ありなのだろう。縁あって『Cachette de meguro』があるビルの駐車場の一部を作業場として使えることになり、拠点を目黒に移したのが2020年だ。
新鮮な花を1輪から買える身近な店に
店の周辺は都会の落ち着いた住宅街。駐車場での作業中に「お花屋さんをやっているの?」と声をかけてくれる近隣住民と話すことも増えた。そのうち「記念日のような特別な日だけでなく、日常的に1輪でも、身の回りに花がある生活を広めたい」と思うようになった。その気持ちから、これまで手がけてこなかった小売も行う店舗を設け、アレンジメント教室も開けるカフェを併設することにした。
佐々木さん自身はカフェや飲食店での経験はなかったが、飲食の経験やハーブティーを学んだスタッフの力添えでオープンに漕ぎ着けた。コロナ禍で時間ができた知り合いがテーブルやウッドデッキを手作りしてくれるなど、人の縁にも恵まれたようだ。
小売も行っているとはいえ、今も花の仕事は注文がメイン。そのため、店内にある花もオーダーに対応するために仕入れたものがほとんどで、商品の回転が早く、小売される花も新鮮なものばかりだ。華やかなアレンジを得意とする佐々木さんは、ダリアやユリなど大ぶりの花を揃えているので、ふらりと花を買いに訪れる人からは、1輪でも存在感がある花が長持ちすると好評だ。
グリーンカレーやハーブティーの下にも花。店主のセンスで季節ごとにアレンジ
ランチメニューはグリーンカレーがおすすめ。このグリーンカレーは知り合いの飲食店に頼み込んで仕入れている。「そのお店では裏メニューのような存在なんですが、おいしくて気に入っていたので、どうしても自分の店で出したいとお願いしたんです」と佐々木さんは話す。
ココナッツミルクが入ってクリーミーなグリーンカレーは、辛さは控えめ。つぶつぶ食感が楽しい十六穀米とたっぷりのサラダも添えられて、ボリュームは十分だ。
『Cachette de meguro』では、佐々木さんが内面美容やファスティングに注目していることもあって、野菜と果物だけで作ったグリーンデトックスドリンクも提供している。ランチには、このドリンクが前菜がわりにミニグラスで提供。ランチとして試した人が飲みやすくて野菜がたくさん摂れるからと、大きなサイズでテイクアウトしていくことも少なくない。
食後に通常サイズのドリンクもついている。コーヒーや紅茶も選べるが、おすすめはオリジナルの名前を付けたハーブティーだ。ビタミンCが豊富なローズレッドは「若返りのお茶」、ジンジャー入りのブレンドティーには「からだポカポカティー」など、どんなハーブティーなのかイメージしやすい名前を付けているところがユニークだ。
グリーンカレーもハーブティーも、花やグリーンをデコレーションしたガラストレーの上に置かれて提供される。このトレーは佐々木さんが花カフェとして店を開く上で、どうしても用意したかったものだ。長く楽しめるように加工したブリザーブドフラワーがセンスよく飾り付けられている。季節に合わせてアレンジが変わるのも楽しみのひとつになっている。
おかげで店の中にいる間は、どこを向いて花やグリーンが目に入る。『Cachette de meguro』にいると花の存在がどんどん当たり前になっていくようだ。
取材・撮影・文=野崎さおり