漆黒のスープに、ネギ&チャーシューがてんこ盛り!

『新福菜館 秋葉原店』は、JR秋葉原駅昭和通り口から5分ほど歩いたところにある。14時30分のラストオーダー間近になって店にたどり着くと、4~5名のお客さんが店先に並んでいた。この時間で行列が絶えないのだから、よほど評判を呼んでいるのだろう。

ピカピカと光る真っ赤な看板が目印。先に店頭の券売機で食券を買って、外で順番を待つ。
ピカピカと光る真っ赤な看板が目印。先に店頭の券売機で食券を買って、外で順番を待つ。

京都ラーメンの老舗といえば、『第一旭』、『天下一品』、『ラーメン横綱』など、どこもクオリティが高い店ばかり。そのなかで最も長い歴史のある『新福菜館 本店』。看板商品、真っ黒なスープの中華そばは全国的に好評を博している。

湯気で熱した熱々の器に、数種類のしょうゆをブレンドして作ったタレと鶏ガラ出汁のスープを注ぐ。
湯気で熱した熱々の器に、数種類のしょうゆをブレンドして作ったタレと鶏ガラ出汁のスープを注ぐ。

「鶏ガラをベースにした濃口しょうゆのスープも、京都の製麵所から取り寄せる麺も、本店の味そのものです」と説明してくれたのは、店長の籔禎久さん。『新福菜館』の伝統にのっとって、忠実に味を再現している。

ラーメン道を25年以上歩んできた調理人の“にしやん”さん曰く、ラーメン界の重鎮をして「『新福菜館』の中華そばこそ、京都ラーメンや!」と言わしめたほどの名店の味を、東京でもいただけることに感謝!

中華そば(並)には大判の薄切りチャーシューが6枚。並でお肉たっぷりなのはうれしい!
中華そば(並)には大判の薄切りチャーシューが6枚。並でお肉たっぷりなのはうれしい!
続いて、チャーシューの上に茹でもやしをトッピング。食感のいいアクセントになりそう。
続いて、チャーシューの上に茹でもやしをトッピング。食感のいいアクセントになりそう。
最後にネギをどっさり盛って、『新福菜館』ならではの中華そばの完成!
最後にネギをどっさり盛って、『新福菜館』ならではの中華そばの完成!

京都発、老舗中華そば店の伝統の味を東京でいただく

『新福菜館 秋葉原店』の品書きは、いたってシンプル。麺類は中華そば、ご飯ものは焼きめしがメインで、中華そばは小・並・肉なしの並、焼きめしは小・並・大と、どちらも量で選ぶ。

「近所の方や店の周辺で働いている人たちに、気軽に食べに来てもらいたいんで」と籔さん。できるだけ安く空腹を満たせるように、京都の本店にはないリーズナブルなセットメニューも用意したという。

秋葉原店のお得なメニューは、中華そばと焼きめしの名物セット。それぞれの小または並を自由に組み合わせることができる。おなかがペコペコだったらぜひ並・並1150円のセットで。少食の方は小・小1000円の組み合わせで両方を楽しむのもいいだろう。ランチではさらに50円引きになるので、このセットはかなりのお値打ち。

50℃以上の暑さの厨房で調理する店長の籔禎久さん。
50℃以上の暑さの厨房で調理する店長の籔禎久さん。

焼めしに心惹かれながらも、初めていただく元祖・京都ラーメンの味に全集中(!!)したいので、今回は中華そば(並)だけを注文した。ネギとチャーシューがたっぷり盛られ、並とは思えないほどのボリューム感だ。

中華そば(並)750円。小、肉なし(並)は各640円。麺の大盛り、肉多めはプラス各210円。
中華そば(並)750円。小、肉なし(並)は各640円。麺の大盛り、肉多めはプラス各210円。

気になる黒いスープのお味は……というと、ひと口飲んだところで驚いた。色の濃さから味も濃いめだろうと思いきや見た目に反して意外にあっさり、なのにコク深い。しょうゆの塩辛さは感じられず、とってもまろやかで、めちゃくちゃ旨い。これはレンゲを持つ手が止まらん。

スープは濃すぎることなくキレがあるので、ついには飲み干してしまうだろう。
スープは濃すぎることなくキレがあるので、ついには飲み干してしまうだろう。

おっと、麺を忘れてはならない。スープを吸ってほんのり黒色に染まった麺はモチッとしていて、シャキッシャキのネギとの相性も抜群。中太ストレート麺にスープがよくからんでいる。

麺には味わい深いしょうゆと鶏ガラの旨みがしみしみ。このスープに白飯も浸して食べたい!
麺には味わい深いしょうゆと鶏ガラの旨みがしみしみ。このスープに白飯も浸して食べたい!

薄切りのチャーシューにもスープがほどよく浸み込んでいて、やわらかくて食べやすい。ペロッと6枚は軽くいけてしまったので、肉多めにしてもいいかも。

自家製の辛子味噌で味変するのもおすすめ。スープに溶かしても、チャーシューに付けてもいい感じ。
自家製の辛子味噌で味変するのもおすすめ。スープに溶かしても、チャーシューに付けてもいい感じ。

トッピングは生卵やネギ多めなど9種類、単品で唐揚げや炙りチャーシューも頼める。中華そばのセットは焼きめしのほかに、焼き餃子やミニ丼などもあってバリエーション豊かだ。

京都の本店ように、目指すは地元民に愛される“地域一番店”

京都の本店『新福菜館』は、昭和13年(1938)に創業。中国浙江省出身の徐永俤氏が屋台で中華そばを売り出し、昭和19年(1944)に京都駅の東側に店を構えたことに始まる。都内には、秋葉原店、浅草店、麻布十番店の3店舗。秋葉原店は2015年8月にオープンした。

翌年1月に店長を任された籔さんは、町内会の集まりに顔を出したり、道端で近所の人とあいさつを交わしたり、奥さんと一緒に周辺の店でご飯を食べたりと、これまで積極的に地域との交流を図ってきた。

飲食以外にも、さまざまな業界を渡り歩いてきた籔さん。この先もおもしろいことを始めるだろう。
飲食以外にも、さまざまな業界を渡り歩いてきた籔さん。この先もおもしろいことを始めるだろう。

「毎朝、うちのカミさんが店の周辺をきれいに掃除してるとさ、近所の方が『ありがとう』って声をかけてくれたり、お礼にアンパンなんかもらったりして(笑)。はじめは顔見知りもいなかったんだけど、そんな感じで少しずつ地元の人たちと仲良くなっていった感じかな」。

近所の人が「今度、店に行くよ」と言いつつ、なかなか顔を見せてくれないと、「おいおい、一体いつになったら来るんだい!」なんて、今では軽口をたたいて笑い合える関係になっているのだと、籔さんは屈託のない笑顔を見せた。

2022年2月に店内の壁を塗り替えてプチリニューアルした。
2022年2月に店内の壁を塗り替えてプチリニューアルした。

籔さんが目標に掲げているのは“地域一番店”。「おいしいラーメンを出す店と味で張り合って一番を目指すんじゃなくて、腹減ったなあって思った時に『そうだ、新福菜館に行こう』って何気なく足を運んでもらえる、お客さんにとって一番身近な店になれたらと思います」。

人とのふれあいを何より大切にしている籔さんは、ナンバーワンではなくオンリーワンの店として『新福菜館』を秋葉原の地に根づかせたいのだ。

壁を塗り替えた際、籔さんの姉・書画師の西尾志乃舞さんに店名を書いてもらったという。
壁を塗り替えた際、籔さんの姉・書画師の西尾志乃舞さんに店名を書いてもらったという。

“菜館”とは、中国では「大衆食堂」を意味する名称だそう。籔さんが思い描いているのはきっと、日常生活に溶け込んだアットホームな“中華そば食堂”に違いない。真っ黒な中華そばの味と籔さんの魅力の虜になってしまった筆者もまた、秋葉原を訪れた際に、「そうだ、新福菜館に行こう」とふらっと立ち寄ることになるだろう。

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ