味覚と五感を刺激するミシュラン一ツ星のシェフ監修の中華メニュー
緑豊かで、オフィスビルや飲食店がありつつも落ち着いた雰囲気のある新宿御苑前駅周辺。2021年9月にオープンしたのが『伯爵の肉団子』だ。2022年には祐天寺店、東陽町店がオープンした。赤い文字でデカデカと書かれた店の看板は、飲食店が並ぶ新宿通り沿いでひときわ目立つ。興味をそそられ、店に入ってみた。
店内はトタンの飾り屋根や裸電球などノスタルジックな装飾がなされている。伯爵の肉団子? 爵位を持つほどの貴族(セレブ)が肉団子を? いったいどういうことだろう。店長の芳村拓人さんに話を聞いた。
「“舌の肥えた伯爵が、何個でも食べたくなるおいしい肉団子でありたい”という想いからこの店名にしました。世界各国に肉団子の料理があるのに専門店はないんです。不思議ですよね」と芳村さん。
「中華料理ってみんな好きじゃないですか。だから町中華と昼定食、大衆酒場をひとつにしたような店にしようと思いました。しかも庶民的な肉団子を軸にしたお店にしたらおもしろそう! という発想から、うちの社長の知人であり素晴らしい中華料理を作り出す原勇太シェフにすべてのメニューの監修をお願いしたんです」。
原勇太シェフは東京・白金に『私厨房 勇』を構え、『ミシュランガイド東京2019』で一ツ星を獲得した人物。原シェフの手から作り出される独創的な料理は、プロの料理人からも支持が厚いという。芳村さん自身もホテルニューオータニの和食部門や和食系居酒屋での勤務経験はあったが、中華料理は未経験だったため、原シェフのもとでイチから学んだ。
芳村さんがオープンまでの道のりを振り返る。「3カ月くらいみっちり修業させていただきました。主力の肉団子は10回以上試作を重ねて今の形になったんですよ。最初のものとはまったく違うので、原シェフは本当にすごいです!」。
ふんわり軽くてジューシー、シャクシャクのクワイに伯爵も悶絶の肉団子
そもそも“舌の肥えた伯爵が何度も食べたくなる肉団子”とはいかなる味なのか。ますます食べてみたくなった。
伯爵よろしく肉団子を皿いっぱいに積み上げてもらってもよかったが、他のメニューも試してみたいので伯爵定食1000円をオーダー。肉団子のソースは黒酢あんかけ、塩あんかけ、チリソースから選べるとのことで、芳村さんイチオシの黒酢あんかけにしてみた。
店内のメニューはほとんどが手作り。肉団子のタネは毎日20キロの豚肉とクワイをはじめとした野菜、背脂を入れて作る。「野菜を入れると水分が出るので、適度なふんわり感を出すのに背脂が調整役になってくれています。この食感を出すのに何度もダメ出しをくらいました」と苦笑いする芳村さんだ。
次々に料理が並び、ご飯やスープも含めると8種類も。さながらビュッフェのようである。このボリュームに驚いたが、誰かと一緒に食べるなら違うメニューを頼んでシェアしあうのも楽しそうだ。
では、肉団子からいただきまーす! 外はカリッとして香ばしいが、中身はトロッとしていてふんわりやわらかい。そこにクワイのシャクシャク感が合わさり、面白い食感になっている。そしてたっぷりからむ黒酢あんかけ。まるで酢豚のような甘酸っぱさとゴマの風味で食欲増進だ。
そしてもうひとつの主役、油淋鶏もかなり本格的。甘酸っぱくて五香粉の効いたねぎだれは一皿で1000円くらいしそうな味わいだ。そのほか、しっとりした蒸し鶏、冷奴、ザーサイを交互に食べ、最後に杏仁豆腐でしめた。ふぅ、満腹&満足。
ひとつの肉団子をまったく違う味にしちゃうアレンジ変わり肉団子定食も!
この肉団子はとろふわで食感もいいから、ポテト感覚でパクパク食べれる&ついついつまんじゃうヤバイ奴(いい意味で)だったりする。素揚げの肉団子だけでもおいしく食べられるし、味変ソース(黒酢あんかけ、塩あんかけ、チリソース)をつけて楽しむことも。さらに、アレンジ料理としても楽しむことができるのだ!
「原シェフや社長と僕が肉団子をどういうふうに作ろうかといろいろ意見を出し合っている頃、『ひとつの肉団子でいろんな味が楽しめたらいいよね』という話になったんです。いろんなアイデアがあがったなか、4つのメニューができあがりました」。
芳村さんがさらに続ける。「酢豚風は、伯爵定食の黒酢あんかけとほぼ同じで、コクが深くて甘酸っぱい味わいです。チリソースは、ケチャップベースで甘酸っぱい、ほんとにエビチリソースみたいな感じ。甘酸っぱいのが苦手なら、野菜たっぷりの八宝菜や青椒肉絲もあります。同じ肉団子とは思えない味わいですよ。ぜひ定食で食べてみてください」。
わぁ〜、おいしそう! 芳村さんの話を聞きながらぜひ食べてみたいと思ったが、ランチの伯爵定食で満腹だ。今日のところは、お腹をさすりながら腹ごなしに新宿駅まで歩いて帰るとしますか……。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢