DJ ヨギジー a.k.a. 与儀英一
俳優業やお笑いグループの活動を経て、1984年に劇団め組を旗揚げ。各地の会館や小・中学校などに出向き、時代劇を中心に公演を行う。2019年からDJヨギジー名義でTikTokの配信を開始。趣味は人間観察と生け花。
青山での失恋を経て吉祥寺に恋をする
13万7400人(22年3月 現在) 。吉祥寺のTikTokシルバー世代レペゼン、DJヨギジーのフォロワー数である。御年68歳ながらハートの眼鏡に黄色いニット帽の奇抜な出で立ち。そんなファンキーじいちゃんが、コミカルなダンスや○○してみた系の動画をアップし続けるもんだから、話題にならないはずがない。
中毒性の高い動画を連発するヨギジーとはいったい何者? 彼のフッド(地元)である吉祥寺の事務所へ向かうと、目尻の柔和なおじいちゃんが迎えてくれた。ん? 想像と違うんですけど。
「私、38年活動している、劇団め組の代表なんです」
DJヨギジーの正体は、吉祥寺で劇団を営む与儀英一さん。TikTokを始めたのも、もともとは劇団員にSNSやネット動画を使い、自分を世間にアピールしてみて、と勧めたのがきっかけだった。
「でもみんな腰が重くて始めない。それじゃあ、自分が先陣を切ってみようと」
2019年に、見よう見まねでTikTokから配信をスタート。自身を 「反逆性はないけど、先見性はある」 と語るヨギジー。その後はTikTok新人賞を受賞するほど、大ヒットコンテンツとなった。
先見の明をもつヨギジーが吉祥寺に住んだのは、ここが住みたい街ランキングでバズるはるか前の40年前。吉祥寺との出合いまで遡(さかのぼ)ると、50年近く前になる。
「自分は世田谷出身で、おしゃれ好きな若者でした。遊び場は青山や六本木。そのたまり場にいた友達が吉祥寺出身で、彼の地元へ遊びにいってみたんです」
初めていった吉祥寺でハマったのがディスコ。現在ロフトのある場所には「インデペンデントハウス」、サンロード入り口には「幻想」などディスコが数軒あった。「幻想」は「高倉健も来る中央線沿線の番長クラスのたまり場」だったとか。
「そこで知り合った友人には、ディスコでは粋がってるのに 『明日は朝から家の畑の手伝いなんだわ』 と早めに帰宅する地元の人もいた。当時の吉祥寺は田舎の空気もあって、居心地よかったんです」
その後は青山界隈で遊びつつ、バイトで吉祥寺へ通う日々。ヨギジーの心が、より吉祥寺に傾いたのは20歳のころだ。
「当時の彼女が青山在住で『パンは青山のドンクじゃなきゃヤダ』って子だったの。僕もそう洗脳されてたんだけど、2年で恋破れたときに『何がドンクだよ!』と我に返った(笑)。そのとき、隙のない青山より、無防備でどこか隙のある吉祥寺の方が魅力的に映ったんですね」
27歳から29歳にかけては、丹波哲郎が吉祥寺で開いていた俳優養成道場に通うことに。その後、道場の役者の卵たちと独立して劇団を立ち上げた。それが、いまの劇団め組につながる。
「吉祥寺に住み始めたのは養成道場時代から。当時と比べ、 街も変わりましたね」
一緒に今の街の様子を見にいきませんか、とヨギジーに誘われ、吉祥寺を散策することに。中央線の高架下を歩き、駅の南口を目指す。ふと、ヨギジーは駅とビルの間の隙間を感慨深げに眺めた。
「ここは10数年前まで 『喫茶ストーン』 があった場所。昔はあやしい店がもっとあって、ストーンはその代表格ですね」
地下で薄暗く、みんな黙ってタバコを吸う不気味な空間だったけど、おもしろい客が多かったという。
「抜けた前歯2本の間にタバコを挟み、手を使わずに吸っている人とかね。昔はこういう変な人が吉祥寺にたくさんいました。今後、南口はバスロータリーが整備され、さらに変わっていくでしょう」
駅から徒歩5分ほどの場所にある『CAFE ZENON & ZENON SAKABA』は、ヨギジーが街や自分の未来を考える場所。「内装やメニューなど、来るたびになにか新しくなっていたり、逆にあまりパッとしなかったモノはすぐに変更されていたり。出版社直営の店だから、常に空間が“編集”されている気がして、私の思考も刺激を受けるんです」。
続いては、ラブホと学生専用通路が並ぶ裏道を通り、マルイ方面に向かう。
「マルイ周辺は、個人的にパッとしないエリアだったのですが、おひとりさま用のワークスペースやおしゃれな古着店など、最近は面白い店が増えています」
思い出の場所が減る一方で思い入れのある若い世代も
マルイからは踵(きびす)を返し、サンロードを経て、コピス吉祥寺へ。ここにヨギジーお気に入りの 『アートサロン和錆』 がある。館長の服部沙希さんが麗しい笑顔で迎えてくれた。
「ヨギジーは、昼夜問わず人の幸せのために全力で駆け回ってくれている。人生のお手本にしたい “ターボじじい” です!」
若者の街というより、かつては熟年の街と吉祥寺を捉えていたヨギジー。しかし、ここ数年は服部さんのような若い世代の始めた店が増え、老舗であっても代替わりが進んでいるという。
「一方で、吉祥寺は大手が出店したがる街。半世紀の間、行列ができてはすぐに無くなる店をたくさん見てきました。手ごわい吉祥寺人に認められる店だけが、根付いていくと思います」
最後は東口にある、ヨドバシ裏界隈へ。噂では東口にアパホテルが新設されるそうで 「カジュアルな価格で泊まれるホテルができると、地方から遊びに来る若者も増えるんじゃないでしょうか」 。
ヨドバシ裏はかつて近鉄裏と呼ばれ、ピンク街だった場所。いまその妖しい匂いはほぼ消臭されてしまった一方で、ここにも若い世代のお店が。
30代のおみママがはじめた 『おみごとスナック御美娘(おみこ)』もそのひとつだ。ママいわく「すぐ近所で22年2月に開店した酒場の店主も同い年。同世代の店主が増えてる気がしますね」。
ママのトークで盛り上がったあと「私はこれで」と南口の方へ消えていったヨギジー。ご老体に半日散歩はさすがに応えたか——。と思いきや、翌日のTikTokでは若者に人気のゲームアプリに挑戦する動画をUPしていたヨギジー。枯れない好奇心とターボな体力にリスペクト!
【イマドキスポット 1】CAFE ZENON & ZENON SAKABA
ヨギジーが自分の未来を考える場所
漫画に特化した編集・出版社が営む“空間の漫画雑誌”。『シティハンター』『北斗の拳』などのパネルやオブジェが飾られ、時折、マンガとのコラボメニューやイベントも! 定番は、熊本直送の牛肉や地鶏の肉料理、世界一おいしいグレープフルーツスカッシュ693円、カフェラテ638円など。
●11:30~23:00、無休 ☎0422-27-2275
【イマドキスポット 2】アートサロン和錆 コピス吉祥寺店
店主のセンスにヨギジーぞっこん
水森亜土や武田双雲など、自身もコレクターである館長のお眼鏡にかなった国内外の作品 ・アニメグッズを展示販売。「館長の服部さんは考え方が広いし既成概念にとらわれない、いま吉祥寺で一番気になる若手です。別店舗の『食房 和錆』で最近売り出したお団子も絶品!」とヨギジー。
●11:00~19:00、月休 ☎0422-57-4130
【イマドキスポット3】おみごとスナック御美娘
昭和生まれニヤリの懐エロ空間
秘宝館をはじめ昭和のエロを愛する、おみママが切り盛り。全面ピンクの壁といい、珍(ちん)トニックなどドリンクのネーミングセンスといい、ヨギジーいわく「ママの世界観で染め上げている。頭の中身をのぞいてみたい」。
点数が上がると画面の女優が脱ぎ、最後に全裸となるカラオケは盛り上がること必至!
●20:00~翌2:00。不定休。☎0422-27-1700
取材・文=鈴木健太 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2022年4月号より