四軒長屋を改装した趣たっぷりのカフェ
浅草寺の裏手、観音裏と呼ばれるエリアは浅草のメジャーな風景とはまた違ったノスタルジックな街並みが続く。路地が交差し、お店と住居が混在するなかの四軒長屋の一画で『Cafe 晴蔵』は暖簾(のれん)を掲げている。この長屋はかつて芸者さんの住まいだったという。
築50年超という建物は古いけれども掃除が行き届いていて、嫌な感じはない。階段の先にはどこか懐かしさを感じる空間が現れた。
カリカリ食感がたまらない!浅草フレンチトースト
人気No.1という浅草フレンチトーストを注文。「バゲットをフライパンとオーブンで2度焼いています」と、店主の天笠さん。食べてみるとカリッといい音。そして舌にはふわりと品のよい甘さが広がる。
浅草フレンチトーストは千束の『セキネベーカリー』のバゲットを使っている。プレートに添えてある少し塩気のある餡子は『Cafe 晴蔵』と同じく観音裏エリアにあるたい焼のお店『写楽』から、シャリシャリと冷たく甘いあんずは西浅草の老舗あんず商店『港常(みなつね)』から。まさに浅草づくし!
味のこだわりは「食べ終わったときにちょうどいいこと」だそう。なるほど、フレンチトーストは重たすぎず、なんだかすっかり元気になる。
ストレスもモヤモヤもいつのまにか晴れていく
店主・天笠さんはもともと飲食とは違う道を歩んでいた。親の跡を継ぎ、上場企業の経営者として社長業をこなすも「大きな会社だったのでいろいろあったので疲れてしまって」辞めたそうだ。
社長の座を辞したことに後悔はないと言う。しかし、どうしても直後はぐるぐると思い悩み、頭と心を整理する時間がしばらく必要だったという。最終的には地位や財産よりも、やりたいことをやろう、自分らしくいられることをやろうと決意。天笠さんは子どもの頃から憧れていた飲食の世界へ飛び込んだ。
「自由に改装していいという条件だったので、この長屋に決めました。畳をはがして板張りにして、壁を塗り替えて、仕切りを壊して、天井を抜いて……とやっていったら、自分の中で溜まっていたものがどんどんそぎ落とされていきましたね」。
物腰柔らかく、ときにユーモアを交えて話をしてくれる天笠さんは丁寧に心のこもった接客をする。「ここに来てくださるお客さんは気づかい屋さんで、なんだか控えめな方ばかり」とのことだが、きっと天笠さんのやさしい波長と合うのだろう。
生きていれば雨の日も風の日もある。『Cafe 晴蔵』でひと休みすれば、きっとまた歩き出せるのだ。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子