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Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに19年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)。YouTube番組にて「オトナの酒場 スナック菓房」(by国分グループ本社)のママを担当。

苦痛だった休肝日が好きになった単純な理由

今までの私は休肝日が苦痛でしかありませんでした。さらに職業が“酒”の身にとって休肝日を作ることはプロ意識に欠けると思っていましたし、休肝日にせざるを得ないときは自分の肝臓に腹をたてるほどでした。

ところが、コロナ禍で外食ができなくなると毎日自宅で飲むうちに、なぜか酒が美味しくないなあと感じるときがたまにありました。悲しくも偏愛する日本酒もそうです。自宅で毎日執筆の仕事はしていましたが、世のみなさんと同じく自粛生活を余儀なくされていたので、出かけるのは2、3日に一度スーパーなどで買い出しに行くのみという日々。したがってほとんど動きません。というような状態で毎日晩酌を続けていると、体とともにアルコールの代謝力も落ちるのか、飲み過ぎても飲み過ぎなくても毎日体がだる重くなり、今まで嬉々としていつも酒を求めていたのに、なんとなく飲みたくない日も出てくる始末です。

最初は、そんな自分に目をつぶり晩酌を続けていましたが、やはりそういうときに飲む酒はなんだか美味しくない。日本酒においては、どんなに好きな銘柄を飲んでも自分の舌を疑うほど苦くしか感じないこともあるほど。これには参りました。

そこで私は悩んだ挙句、遅ればせながらアラフォーにして休肝日と向き合うことにしました。

まず、飲み過ぎたあるいは飲みたくない日は酒を封印。そして、仕事がない日はさっさと寝ることに。いくら飲みたくないとはいえ、夜が長いとつい酒に手が伸びてしまうのでとにかく早く寝てしまう。そうやって朝型生活にシフトすることで、休肝日を作りやすくなるのではないかと目論んだのです。もちろん最初は苦痛を伴いましたが、人間やればできる。少しずつ休肝日を増やすことに成功。ついには、休肝日の理想である2日間酒を抜くこともたまにできるようになりました(酒好きな皆さんならご存知、アルコールは2日かかってようやく肝臓で分解され体から酒が抜ける)。

できるようになった理由はただひとつ。休肝日明けに飲む酒の超絶な旨さを知ったからです。

いやはや、肝臓が万全の状態で飲む酒は、大げさではなく、天にも昇る美味しさ、まさに天の美禄。吸引力がハンパない掃除機のごとく、酒の吸い込みもめちゃくちゃいい。飲めば飲むほど心地よく酔いが回り、晩酌が楽しいったらありゃしないのです。

とりわけ、休肝日明けの日本酒は私の場合、肝臓がもっとも反応するのか酒の吸引力がよくなります。どちらかというと華やか系の冷酒よりも常温か燗酒で飲むしみじみする地味なタイプが、よりそうなるようなのです。

「旭菊 大地の酒 特別純米」なんてその最たる一本。ひと口飲んだ途端にゆるーく脱力してしまう味です。あらゆる心身のスイッチをオフにしてくれる穏やかさがあり、丸みのある旨味や甘みが優しい。飲めば飲むほど体に馴染み、ついもう一杯の手が伸びてしまいます。

ゆるーくなる酒に地味なつまみを合わせてさらに脱力

こういうゆるーくなる脱力系の酒には、同じタイプの地味なつまみを合わせてさらに脱力したい私。目玉焼きなんていいかも。日本酒に合わせて海苔を敷き、ベーコンエッグならぬ海苔エッグにするのはどうでしょうか。冷蔵庫を見たらたまたま納豆があったので、それも使っちゃおう。

材料は、卵2個、海苔半枚、納豆(小粒の少量タイプ)、サラダ油、刻みネギを少々、からし味噌(ニンニクと唐辛子入り)小さじ1弱。

フライパンにサラダ油を入れ、海苔を適当にちぎってバラバラに乗せたら火をつけます。

その上に卵を割って乗せます。弱火でじっくり焼きましょう。

目玉焼きを焼いている間に納豆、からし味噌、刻みネギを入れたものをよく混ぜます。

あっという間におつまみ納豆の出来上がりです。

下面がパリッと香ばしく焼けてきたら完成。

地味なつまみなので鮮やかな色の皿に盛ってみました。

さて、飲みますか。

醤油をかけていただきます。黄身がとろ〜り。見ているだけで幸せになるこのとろとろ具合!

パリパリの海苔と黄身のまったりした組み合わせはもう最高!

おつまみ納豆と混ぜても美味しいですよ。しっかし、笑っちゃうくらいしみじみが止まらない地味な組み合わせ。でも、まるで卵かけあるいは納豆ご飯(=日本酒)を食べているようなほっこり幸せになる相性です。あっという間に脱力。普段の日本酒とつまみはこういうのでいいんだよなあ。いや、こういうのがいい。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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