スープは鳥取の大山鶏を贅沢に使用
権之助坂沿いのアーケードは、間口こそ狭いが、意外なほど奥行きのある店が多い。『中華そば 竹むら』もそんな店のひとつだ。両隣の店の看板と譲り合っているかのようなその店構えにも、どこか懐かしさがある。
『中華そば 竹むら』がオープンしたのは2018年11月。練馬にある系列店『中華そば ます田』を経営する会社の2つめのラーメン店だ。練馬の店も同じく中華そばを謳うが、スタイルは異なる。『中華そば 竹むら』がイメージしているのは、昔ながらの中華そば。ナルトが中央にトッピングされているあたり、直球で中華そば好きのノスタルジーをくすぐってくる。
スープは大山鶏の丸鶏とガラ、親鳥を寸胴鍋に入れ、真昆布と干し椎茸をプラスして10時間煮込んだもの。ただし、透き通った鶏清湯スープにするため、沸騰させすぎないように、さらにスープを濾すときも、鍋の中で鶏が動いたり、鶏の身が崩れてしまったりするとたちまち白濁してしまうので、注意して作業をしている。
全粒粉入りの麺に、低温調理のチャーシュー。味玉を割れば黄身がとろり
いちばん人気の特製中華そば980円は、チャーシューが4枚、メンマが4つ、味玉にネギとナルト以外の具材も中華そばらしいラインナップだ。ストレートな醤油味のスープは、鶏油と合わさって、ほんのり甘みを感じる。みりんなどの甘い調味料は使っておらず、昆布と大山鶏が甘みの元とのこと。
昔ながらをイメージしているとはいうが、所々、最近の傾向を滲ませているといっていいだろう。例えば細麺ストレートの麺は全粒粉入り。ザクザクした食感を楽しんでもらおうと、茹で時間は短く仕上げている。さりげなく香ばしく、喉越しもいい。
丸のまま入っている味玉は、マキシマム濃いたまごというブランド卵を使っている。箸で割るといい茹で加減の黄身がとろり顔を見せてくれるのも、何気ないようで食べる人にとってはうれしいものだ。甘口醤油につけて一晩寝かせていて、味の染み具合もしっかり。
豚肩ロースを使ったチャーシューは水から68度まで温度を上げて作る低温調理で3時間ほど火を落としている。きれいなバラ色に仕上がっていて、程よい弾力。薄切りのチャーシューは低温調理らしい柔らかさを生かすために2.3ミリにスライスしている。
『中華そば 竹むら』がオープンするまでは、練馬の店で働いていた店長の吉田司さん。2018年11月のオープンから店を任されている。住宅街の練馬に比べると目黒は都会のイメージがあったといい「ラーメンで1000円ぐらいって高いと思うんですけど、値段が高くてもおいしいものを出したいという気持ちがありました」と話す。店を開いてからの印象は「目黒は大人の街ですよね。オフィス街でスーツを着た会社員さんがお昼によくきてくれます」。
まだ若く研究熱心な店長の元気な接客も店の味
30歳だという吉田さんは、ラーメンを作る仕事をするようになって、まだ7年ほど。「ラーメンは簡単という人と奥深いという人がいて、いったいどっちなのか、と」というのが好きだったラーメンを仕事にした動機だという。そしてラーメン店の店長となった今は、「やっぱりラーメンって奥深いものだ思います。休みの日は、いろんなラーメン屋さんに食べに行きますけど、やっぱりどの店も全然違いますよね。休みなのになんでまたラーメン食べてるんだろうと自分でも思うんですけど」というほど研究も怠らない。
いずれは『中華そば 竹むら』を名店と言われるように育てていきたいと意欲的だ。自身はつけ麺が好きなことと、目黒近辺にはコッテリ系のラーメン店に人気があることから、つけ麺をコッテリ系にリニューアルすることを考えているところらしい。
お客さんが入ってくると「はい、どうぞ」と大きくハキハキとした声で応対。「疲れている時も元気に」がモットーとのこと。
店は午前11時から休憩なく、夜までオープンしている。オフィス街の目黒で、満足感のある中華そばを食べたくなったら訪ねてみるといいだろう。
取材・撮影・文=野崎さおり