体験漫画家からファンの誘いでショーパブの裏方に

ドルショック竹下、通称ドルさんは一体何者なのだろうか。その生き様を聞いてみる。利発な兄にかくれてボンヤリしていた子供時代を過ごし、大学時代に『漫画実話ナックルズ』に自身のセックス体験を描いた漫画でデビュー。それ以降、体験漫画家とライターとして活躍。変態業界の体験取材漫画や、AV、アウトロー、裁判傍聴などの取材漫画を描いていた。

31歳の時、緊急手術で入院し、仕事を減らしていたところに、東日本大震災が起きエロ本業界は縮小。その余波で仕事が来なくなっていた頃、自身のホームページの問い合わせフォームから不思議なメールが届く。

「わたしは飲み屋をやっているものですが、あなたのファンです。うちで働きませんか?」

まったく筋の通ってない内容に、なんか面白そうと話を聞いてみることに。メールの差出人は、元ストリッパーの愛川祐丘(あいかわゆき、以下「愛川ママ」)さん。ストリップ小屋の楽屋に『漫画実話ナックルズ』が置いてあり、ドルさんの漫画を読んでファンになったという。

愛川ママは赤坂、新橋、新宿ゴールデン街に店を持っていて、一度リーマンショックで撤退していた赤坂に再びショーパブを開くことになり、面白そうな人に働いてほしいということでドルさんに声をかけた。面接がてら会いに行くとそのまま働くことになり、『赤坂ラブリーバー』で2年間、ボーイやショータイムの照明・音響など裏方を担当。店全体が見わたせる立ち位置が性に合い、水商売のノウハウを学ぶ。

新宿ゴールデン街で一番エロい店のキャプテンへ

水兵帽が似合うドルさん(右)とスタッフでライターでもある永田王さん(左)。永田王さんもドルさんに負けじとすごエロキャラである。2人で中年女性ユニット「すぐイクよ出るよ」としても活躍中!
水兵帽が似合うドルさん(右)とスタッフでライターでもある永田王さん(左)。永田王さんもドルさんに負けじとすごエロキャラである。2人で中年女性ユニット「すぐイクよ出るよ」としても活躍中!

もともとはゴールデン街の店に勤務希望だったドルさん。なんだかんだ赤坂で働いていたが、33歳の時に姉妹店であるゴールデン街『Sea&Sun』のママが引退することになり、自ら志願。晴れてゴールデン街の店長となった。

『Sea&Sun』(以下『シーサン』)は、海沿いに急にアパートを借りたりする海好きな愛川ママによる命名で、2000年にオープン。この頃、『シーサン』以外にもゴールデン街でお店をはじめる人が多く、ちょうど世代交代の時期だったという。

『シーサン』を任されて2ヶ月経ち、何かがしっくりこないなぁとドルさんは年末年始膝を抱えて悩んでいた。それは「ママ」という名称。ドレスを着て、いらっしゃいませ♡とかわいく出迎えるのはちょっと違う。こんなかんじのバーテンダーがいるの? というような自分のモチベーションが上がる呼び名はないかと悩んだ末、突如ひらめいたのが「キャプテン」。

キャプテンには昔から憧れはあったが、そう呼ばれたことはなく、お客さんがママよりもキャプテンと呼ぶことで店の空気がピシッとし、酔っ払いたちも少し姿勢を正すのではないだろうかと考えた。店名にあやかり船の船長(キャプテン)であるという設定を創作し、楽天などで水兵の衣装を買い、2014年のはじめよりドルさんはキャプテンとなる。

いつもお客さんで賑わう『シーサン』。感染防止のビニールの仕切りもエロさを感じる。
いつもお客さんで賑わう『シーサン』。感染防止のビニールの仕切りもエロさを感じる。

下ネタと拒絶が先にある店

ビールを注いでくれるドルさん。サービスタイムである。
ビールを注いでくれるドルさん。サービスタイムである。

『シーサン』の魅力はなんといっても、キャラの濃いスタッフたちによるトークと度肝を抜くサービス。マシンガンのように下ネタを繰り出す愛川ママのトークを叩き台に、『シーサン』で独自に編まれていったもの。

下ネタというと下世話だったり、えげつないものも多いが、ここの下ネタはどこか品がある。スタッフもお客さんにもそれぞれポリシーがあり、人を陥れたりするような下品さはない。なぜか爽やかで、なぜか格調高い下ネタをみんな不思議と志しているのが面白いところだ。

常連である某映画評論家はこう言う。「『シーサン』は最初から拒絶している。拒絶が先にある店」。一見愛想良くサービスしているように見えるが、そこにはすごい拒絶があると分かる人には分かるらしい。

……“拒絶”とはどういう意味だろう? よく分からないので、ドルさんに解説してもらった。

「バーって色んな人が来るし、その時々によっても人が違う。ある程度みんなが気持ちよく飲めるのをお互いに探ってく場。これといってルールは決めないけど、うまいことみんなで楽しく飲むために調整役としてバーテンダーが作用している。そういう距離感のとりかたは、案外オーセンティックバーに近いものがある。距離のとりかたは実は同じだけど、アプローチが違う」

な、なるほど。要するにドルさんがみんなが楽しく飲むためにバランスをとってくれてるということなのだろう。

毎年恒例書初め。永田王さんのを探してみよう!
毎年恒例書初め。永田王さんのを探してみよう!

生身のまま体験ベースでいく本物たち

ボトルも亀甲縛りと男性器をかぶる徹底ぶりで、『シーサン』を盛り上げる。
ボトルも亀甲縛りと男性器をかぶる徹底ぶりで、『シーサン』を盛り上げる。

ドルさんに今までの『シーサン』での面白エピソードを聞くと「マン臭事変」や「ゲロスカAV事件」など、ちょっとここで書くのをはばかれるようなものばかりだった。気になる人はお店に行って直接ドルさんから聞いてほしい。

お客さんは老若男女さまざまで、職業もバラバラ。ただ不思議なことに同じ業界の人や同郷の人がかぶる日がよくあるという。

下ネタ満載トークに引く人は案外少ないらしい。コンプライアンスが厳しくなる昨今、一見真面目なサラリーマンたちが『会社でも家庭でも言えない話ができる』と部室感覚で集まってくる。また、スタッフ以上に激しい体験談を披露しにくるツワモノ女子の拠り所にもなっているようだ。

現在は、まん延防止等重点措置によって休業中だが、通常は大体20時から2時まで。水曜日と祝日が休みである。詳細は『Sea&Sun』公式 Twitterで逐一チェックしてほしい。ビールと灰皿を頼むと『シーサン』の洗礼が受けられるので、初めての人には是非ともオススメしたい。

現在は予約優先だが、通りがかったら窓から空席具合をチェックしよう。
現在は予約優先だが、通りがかったら窓から空席具合をチェックしよう。
筆者がかつて一日ママをやらせていただいた思い出の写真。
筆者がかつて一日ママをやらせていただいた思い出の写真。
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-7 /営業時間:だいたい20時〜翌2時 /定休日:水・祝/アクセス:JR新宿駅から徒歩約6分、西武鉄道新宿線西武新宿駅より徒歩約7分、地下鉄新宿三丁目駅から徒歩約5分

取材・文・撮影=千絵ノムラ