温かく家庭的な雰囲気に癒やされる人多し
立石を代表するもつ焼き屋『宇ち多゛』の隣に店を構える『たみちゃん』は、看板の文字からひさし、のれんに至るまで、ピンク色で統一された外観が特徴。どこか親しみやすさを覚える店名に肩の力が抜け、実家に帰ってきたような感覚に陥りながら引き戸を開けると、そこには……
扉の先には、やはりピンク色の洋服とエプロンに身を包んだお母さんが優しい笑顔で迎えてくれた。この方こそ“たみちゃん”こと、店主の渡辺民子さん。店内にはお客さんの写真をはじめ、常連客から贈られたと思われる周年祝いの色紙や凧などが所狭しと飾られている。カウンターの上には、大皿に盛られたたくさんの料理が、開店の時を待っていた。
その料理の数には目を見張るものがある(料理は1皿400円~)。訪れる客にとっては選択肢が多いのはうれしいことだが、一人で切り盛りする渡辺さんにとっては、なかなか骨の折れる作業ではないだろうかと心配になってしまう。常連さんからも「もっと料理の数を減らしたら?」と言われることがあるというが、来てくれるお客さんのために、できるだけ多くの料理を用意しておきたいと話す渡辺さん。メニューの多さは、店主の優しさに比例しているのだと感じた。
2002年にこの店をオープンした渡辺さん。誰でも気軽に飲み食いできる居酒屋が並ぶ商店街の中で、女性が一人でも安心して時間を過ごせられる店を目指し、たゆまぬ努力を重ねてきた。
「女性が安心できるお店を作りたくて、男性客の下ネタや、そういう会話には乗らないようにしていたの。そうしたら、そういうタイプの男性は次第に来なくなるから。今では、ここに来る男性客は紳士的な方ばかりよ。」
その話を聞き、女性一人でも入りやすい雰囲気を作るために、ピンク色の店にしているのかと思いきや、意外にもその理由は違うものだった。きっかけは、知り合いの酒屋さんが作ってくれた看板の文字だったそう。それがピンク色だったことから、店のひさしも同じような色で統一したところ、お客さんからピンク色の特注のれんをいただくなど、だんだんとピンク色の物が増えていったという。今の店の姿ができたのは、この店を愛すお客さんの影響も大きかったのだ。
多くのお客さんから愛される渡辺さん。その包容力の豊かさから、“立石のお母さん”として慕う方も多いのではないだろうか。料理もラインナップから味付けまでどれも家庭的で、まるで実家で食事をしているような安らぎさえ感じた。そんな店主の思いやりと優しさにあふれる『たみちゃん』は、今日も都会で頑張る人々に“帰る場所”を与えてくれている。
『たみちゃん』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英