修学旅行生にも人気の冷めても美味しいメロンパン

オレンジ色のひときわ目立つ店頭。
オレンジ色のひときわ目立つ店頭。

筆者が『アルテリア・ベーカリー浅草店』の前に着いたのは、開店の 10 時ちょっと前。店の前にはすでに修学旅行生とおぼしきグループが数組集まっていた。

さすが 3 日間で 10,000 個のメロンパンが売れたという伝説の店だけある。しかもここは浅草寺へと続くメインの仲見世通り沿いではなく、一本入った細い通りであるにもかかわらずだ。それにしても浅草寺を訪れる参拝客はまだまばらな時間帯である。1 日を有効に使うためだろうか。修学旅行生の朝は早いなぁとあらためて実感した。

修学旅行生とおぼしきお客さんが列をなす。
修学旅行生とおぼしきお客さんが列をなす。

この時浅草店で販売していたのは、メロンパンプレーン 200 円、ホイップメロンパン400 円、いちごホイップめろんぱん(期間限定)500 円、そしてメロンパンラスク 400 円の 4 種類。

店の奥では男性がひとり、メロンパンづくりに大忙しだ。次から次へと天板にのせられたメロンパンが焼き上がってくるが、それが片っ端から売れていく。店の前で焼きたてを頬張るお客さんたち。

カリッとした焼きたての食感が楽しい。
カリッとした焼きたての食感が楽しい。

しばらく傍観していたが、なかなか途切れない行列をみて「これは積極的にいかないと一生買えない!」と気づき、筆者も列に並んでメロンパンを購入。何しろ商品の回転が早いから、買ったときには本当の熱々のメロンパンにありついた。外側はカリッカリで、一口かじるとほわっと湯気が立つ。中はふんわりとして甘すぎないやさしい味だ。

フランチャイズでありながら浅草ならではのカラーがある店

店先の大きなメロンパンが目印だ。
店先の大きなメロンパンが目印だ。

『アルテリア・ベーカリー』は日本各地に店を展開するフランチャイズの店だ。浅草店は 2016 年にオープンしたのだが、その経営母体は仲見世通り沿いにある炭火焼せんべいの店『壱番屋』である。だから『アルテリア・ベーカリー浅草店』は一見新顔のようでありながら、じつは昔から浅草の地に根をおろしてきた店がベースなのだ。

つまり全国に展開する店でありながら、浅草ならではのカラーも併せ持ったメロンパン店ということになろう。お客さんは観光客や修学旅行生がメインであるし、ほかのフランチャイズ店と比べるとちょっと異色の存在なのかもしれない。店の看板に多言語併記されているのも特徴的だ。

『アルテリア・ベーカリー』のメロンパンは、つくり始めから生地の発酵までの時間がおよそ 2 時間。そしてオーブンに入れてから出来上がりまで 12 分かかる。次から次へと店の奥でメロンパンを焼くが、店頭に出すそばから売れていくので焼き上がりが追いつかないときもあるほどだ。

ショーケースにずらりと並ぶメロンパン。
ショーケースにずらりと並ぶメロンパン。

浅草店のオープンにあたっては、『壱番屋』のスタッフがメロンパンの作り方を学びに本店に研修に行ったという。『アルテリア・ベーカリー』のメロンパンは発酵のタイミングや焼く温度、原材料にとことんこだわっている。「冷めても次の日でもおいしいメロンパン」というのが謳(うた)い文句だ。焼きたてがおいしいのは当たり前。むしろ真価が問われるのはその後というわけだ。

でもね。やっぱり焼きたての誘惑には勝てないんです。冷めてもおいしいか検証する間もなく、その場で食べちゃいましたよ。

お店の看板娘横山さん

笑顔が素敵な横山さん。
笑顔が素敵な横山さん。

この日一人で店頭に立ち、接客に大わらわだったのは店の看板娘、横山さん。行列が途切れる合間を見計らって話を聞いてみた。焼きたてのメロンパンを紙袋に詰めながら、横山さんはにこやかに話に応じてくれた。胸に飾ったメロンパンのキーホルダーが可愛いアクセントになっていて、思わず目を引く。

胸元を飾るメロンパンのキーホルダー。
胸元を飾るメロンパンのキーホルダー。

横山さんは今年 77 歳になり、喜寿を迎えたという。柔らかな物腰が印象的な素敵な女性だ。ずっと『壱番屋』で働いてきたという横山さん。「メロンパンを売る前は、店頭の実演販売のおせんべいに醤油を塗ってたんですよ」せんべいからメロンパンへの転向とはなかなかのギャップだ。でも次々とメロンパンを売りさばいていく横山さんは、忙しそうではあるがとても楽しそうにみえる。

「そうね。おかげさまで生活にハリがありますよ。計算ができなくなった時が辞める時かな」

自慢のメロンパンでつくったラスクはお土産にもおすすめ。
自慢のメロンパンでつくったラスクはお土産にもおすすめ。

横山さんは目が回るような忙しさの中でもお客さんへの声がけを忘れない。「お待たせしちゃってごめんね」「おまちどうさま!」と修学旅行生たちにかける優しいひと声が気持ちを和ませてくれた。

遠くから来た旅行客や修学旅行生にとって、人波に揉まれながら浅草を歩き回るのは楽しい時間である一方でなかなか疲れるものだろう。そんな中、ちょっとした気遣いや優しさが感じられる言葉を一言かけられることには大きな意味があるように思う。

こころをふっと温めてくれるような小さな出来事の集合体が、あとあとになって『いい思い出』と呼ばれるものにかわるのかもしれない。

住所:東京都台東区浅草 1-31-1/営業時間:10:00~18:00 (なくなり次第終了)/定休日:無/アクセス:私鉄・地下鉄銀座線浅草駅から徒歩5分

構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪