昔ながらの居酒屋×イタリアンのきっかけは「閉店クライシス」

遠くからでもすぐにわかる『居酒屋こい』。

本八幡駅から歩いて数分の『居酒屋こい』。店の前には大きな徳利がでーんとかまえているからまず見逃すことはない。

新しく作ったテーブル席は使いやすいと評判だが、こちらの掘りごたつも根強い人気だ。

レトロな店内に足を踏み入れると、カウンターには黒電話が置かれ、掘りごたつの席が心地よさげな雰囲気を醸し出している。奥には最近座敷から改装したばかりというテーブル席の部屋。

店主の村山明文さんが店の奥に案内してくれた。さながらそこはまるでギャラリーのよう。壁にはこれまで来店した有名人の写真がずらりと並ぶ。中にはそうそうたる顔ぶれも。

ここは店の歴史が刻まれた場所。

聞けば『居酒屋こい』は、1971年に先代であるご両親が始めた店だという。お父さんの亡き後は村山さんとお兄さんが店を継ぎ、家族の助けも借りながらこれまでやってきた。しかし人手不足などの諸事情により、ついに2021年3月に閉店することになったのだ。

何しろ長年本八幡で愛されてきた店。ありがたいことに、閉店の噂を聞きつけて来店してくれるお客さんが引きも切らなかったそうだ。しかしその後なんと幸運なことに、店を継続できることが決まった。強力な助っ人が加わったのだ。

迎えたのはイタリアンシェフ、ダミアン・ラニエリさん(愛称はダミー)。じつはイタリア・ミラノ出身のダミアンさんは村山さんの娘婿でもある。閉店の危機に、これまで住んでいた大阪から千葉に移って一緒に店を続けることになったのだという。店のメニューは今まで「和」だったが、そこに「伊」のメニューも加わり、一味違う新生『居酒屋こい』として再スタートすることになった。

村山さんお気に入りの暖簾の前で。

日本語の上手なダミアンさん。穏やかながらも茶目っ気たっぷりで、どうやらみんなに愛されるキャラのようだ。

一方、村山さんは店にお客さんが入ってくると、まず気さくに声をかける。「おかえり!」なんて言われたら、そりゃやっぱりお客さんも嬉しいものだ。初めての来店でも、なんだかいきなり村山さんの懐に飛び込んでいく感じであたたかい。

長年愛されてきたメニューは今も健在

にこみ鍋は現在は器で提供している。とろくじら刺を今まさに旬のさんま刺と一緒にいただいた。

店一番の名物はにこみ鍋650円。先代が作り上げたレシピを今もそのまま受け継いでいるという。にんにくと醤油がベースで、ほどよく煮込まれたモツはあっさりとしていて食べやすい。

とろくじら刺なんてなかなかお目にかかれないメニューだ。

とろくじら刺830円も外せない一品だ。ツヤツヤに脂がのり、臭みもなく、口に入れた瞬間とろける味わい。

ちゃんとふぐヒレ酒用の器があるんです。

お酒はこれからの寒い季節ふぐヒレ酒770円なんてどうだろう? 軽く炙ったふぐヒレをあつあつの熱燗に入れ、フタをして待つこと数十秒。

フタを開けると湯気とともに日本酒と出汁のいい香りが漂う。フタの裏にもぷっくりとしたふぐの姿が描いてあるのがなんとも愛らしい。

蓋をして待つ時間も楽しい。
イタリアのふるさとの味もぜひ。

イタリアンコロッケ500円もいただいてみる。一癖あるゴルゴンゾーラチーズ×ほっこりとしたじゃがいものコラボ。トマトソースとパルメザンチーズをかけていただく。強いゴルゴンゾーラがじゃがいもによしよしとなだめられ、優しい味わいに。思わずワインが欲しくなるかも?

JR総武線沿線の飲み屋話に花が咲く

ほんのちょっとしたきっかけから会話が始まるのがカウンターの素敵なところ。常連さんの話を聞くのも楽しみのひとつ。

カウンターではひとりで来たお客さん同士、話に花が咲いている。筆者も途中でそこに加わり、取材で来ていることを思わず忘れそうになる。JR総武線沿線の飲み屋さんを知り尽くしているとおぼしきお二人。次から次へと総武線界隈の店の名前が飛び出す。ふむふむ。生の情報、勉強になりますね。

「和」を楽しみつつ「イタリアン」も愛でる。常連さんも途中でピザを頼んだり、ワイングラスを傾けたり。

「なんだか新しい風が吹き込んだよね。」と村山さんは言う。こんな居酒屋もいいと思う。

ここはほっこりあたたかい空気に満ちた、新生 『居酒屋こい』。

住所:千葉県市川市南八幡3-7-1/営業時間:16:00~22:00/定休日:日、祝日/アクセス:JR総武線本線・地下鉄新宿線八幡駅から徒歩2分

取材・文・撮影=千葉深雪